[インタビュー]

ワリアCEOが語るインフォマティカの再上場と経営改革、“Data 4.0”への道

米インフォマティカ CEO アミット・ワリア氏

2022年5月9日(月)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

新しいデータプラットフォーム「Informatica Intelligent Data Management Cloud(IDMC)」の発表、そして6年ぶりの再上場と、米インフォマティカ(Informatica)にとって2021年は大きな変革の年だった。自身の変革を通じて、同社は顧客にどのような新しい価値を提供しようとしているのか。同社CEOのアミット・ワリア(Amit Walia)氏に、顧客企業の“Data 4.0”へのシフトを支援する新生インフォマティカのビジョンを聞いた。

非公開企業のほうが経営改革に動きやすい

──2021年10月末にIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)を行い、6年ぶりの再上場をはたしています。この6年間に進めた改革について教えてください。

 インフォマティカは2015年に非公開企業となったが、この間、大規模な経営変革に取り組んでいた。取り組みの最たるものが、オンプレミスのライセンスソフトウェア企業から、クラウドのサブスクリプションモデルへのシフトだ。2021年にリリースした「Informatica Intelligent Data Management Cloud(IDMC)」はそれを象徴する新しいデータプラットフォームである。

 IDMCは、データマネジメントに特化して開発した当社のAIエンジン「CLAIRE」を組み込んだ、クラウドネイティブなプラットフォームで、クラウドやオンプレミスにあるあらゆるデータを一元的に管理することができる。このIDMCの上にInformaticaの7つのプロダクトが載るというのが、顧客に向けた新しいポートフォリオとなる。TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)として440億ドル以上を見積もっている。

写真1:米インフォマティカCEOのアミット・ワリア氏

──非公開企業として改革を進めるメリットはどこにあったと考えますか?

 やはり、変革を進めながら先行投資を行うことができることだろう。つまり、売上を気にすることなく将来に向けて投資が可能になる。これは公開企業ではなかなか難しい。特にライセンスからサブスクリプションに移行する過程で、総収入で全体の売上に大きなインパクトが及ぶ。サブスクリプションへの移行は正しいことだが、収入の数字のみを見たときに軌道に乗るまで3〜4年はかかる。公開企業として四半期に一度の報告を行いながら改革を進めるよりも、非公開企業となるほうが進めやすい。

 実際、IDMCや新しいポートフォリオの構築には大きな投資が必要だったが、非公開企業となることで安心して先行投資ができた。研究開発に投じた金額は10億米ドル(約1300億円)規模で、この投資が奏功し、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は6億ドルから12億ドルと倍増させた。ARRは年40%増で成長しており、公開企業として運営可能と判断してIPOを果たした。そして、現在ほぼすべての顧客がサブスクリプションに移行している。

──株式非公開になって、社員も大きな変化に直面したと思います。6年間、どのようにして社員のモチベーションを維持したのですか。

 新しいことを構築している過程では、その先にどのような結果が待っているのかが見えにくい。そのため、モチベーションの維持は簡単なことではなかった。特に非公開企業になった当初は、何年で改革を完了するなどの時期を明確には定めていなかった。そこでまずは、どの方向に向かうかを定め、ビジネス上の目標にフォーカスして改革に向かった。

 インフォマティカはミッションドリブンな企業だ。業界を変革するというミッションに、社員は確信を持って取り組んでくれた。業界を変革するために、技術革新を進めると同時に、顧客にフォーカスした。我々が革新を続けることで、我々の顧客の変革を支援できるという考えがあった。

 実際に技術革新については、展開している5つの製品分野ですべてガートナーの(Gartner)のマジッククアドラントでリーダーと位置づけられている。顧客の面では、売上継続率(NRR)は116%、 更新利率は95%前後などの成果が出ている。

 どの改革でも言えることだが、方向性に同意しない社員もいて、組織再編は避けられない。一方で、新しいテクノロジーにフォーカスしたトレーニングを行い、その分野に精通した人材の起用を進めていった。エンジニアは「新しいテクノロジーを学びたい、学んだことを役立てたい」と思っており、これもモチベーションにつながった。

クラウドベンダーとしてデータプラットフォームに注力

──再び公開企業となった“新生インフォマティカ”の戦略について聞かせてください。買収によって事業を補完するようなことも考えていますか。

 インフォマティカは今やクラウドファーストの企業である。クラウドの世界で業界をリードするのが我々の目標だ。クラウドファーストは顧客も同様で、すでにマルチクラウド、ハイブリットクラウド環境の構築に積極的だが、すべてをクラウド環境で運用している企業はまだ少ない。顧客の抱える課題は複雑で、我々はそれを解決するソリューションを提供していく。

 それに向けて2つのことに注力する。1つ目は、IDMCを核とするデータプラットフォームに向けた投資の継続だ。現在、IDMCの上では毎月22兆回のトランザクションが実行されている。この数は6〜12カ月で倍増している。そこで、このプラットフォームのすべての機能に投資し、拡張していく。

 2つ目は、いわゆるベストオブブリード製品への投資だ。顧客はIDMC上で最良の製品を利用して、データをビジネス価値に変換できる。現在の市場リーダーポジションを維持しながら、クラウド事業のARRを40%の成長率で拡大させていく計画だ。

 インフォマティカのビジョンはシンプルだ。顧客がデータ活用で実現したいと思っている“夢”を現実にすることの支援である。どの企業もデータを使ってやりたいと思っている夢がある。高品質、安全、ガバナンスなどの特徴を備えたデータプラットフォームを利用することで、ビジネス上の意思決定を民主化できる。

 その実現にあたって、摩擦となっている部分を減らしていく。(ポートフォリオを補完するために)小さな買収があるかもしれないが、大型買収は考えていない。社内にすばらしいイノベーションエンジンがあり、今後も研究開発への投資を続ける。

●Next:鹿島建設、ユニリーバが取り組んだデータドリブン経営

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
関連キーワード

Informatica / マスターデータ / 鹿島建設 / Unilever / データドリブン / ETL / データプレパレーション / MDM

関連記事

トピックス

[Sponsored]

ワリアCEOが語るインフォマティカの再上場と経営改革、“Data 4.0”への道新しいデータプラットフォーム「Informatica Intelligent Data Management Cloud(IDMC)」の発表、そして6年ぶりの再上場と、米インフォマティカ(Informatica)にとって2021年は大きな変革の年だった。自身の変革を通じて、同社は顧客にどのような新しい価値を提供しようとしているのか。同社CEOのアミット・ワリア(Amit Walia)氏に、顧客企業の“Data 4.0”へのシフトを支援する新生インフォマティカのビジョンを聞いた。

PAGE TOP