京都大学防災研究所(京都府宇治市)は、パブリッククラウド「Microsoft Azure」を2021年7月より運用開始している。防災技術政策研究分野において、台風による洪水などの災害解析における降雨流出氾濫モデル(Rainfall-Runoff-Inundation、以下、RRIモデル)の自動化を目的としたもので、長時間・広域のリアルタイム洪水予測の研究などで活用する。日本マイクロソフトが2022年5月17日に発表した。
状況が刻々変化し、計算データも膨大な洪水予測、時には徹夜作業も
京都大学防災研究所(画面1)の防災技術政策研究分野では、台風で発生する河川の氾濫解析を行う際に、気象庁から届く観測や予測の降雨データを基に予測を行っている。降雨流出氾濫モデル(RRIモデル、注1)による台風の災害解析では、台風の発生後、日本近海に接近し災害発生が予測される地域に対して洪水予測のシミュレーションを実施する(画面2)。
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注1:降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)は、低平地での大規模氾濫を迅速に予測する手法で、流域に降った雨が河川に集まる現象、洪水が河川を流下する現象、河川を流れる水が氾濫原に溢れる現象を流域一体で予測する。水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)が開発した。
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加えて、対象地域ごとに少しずつ異なる複数の予測降雨を用いてアンサンブル予報を行う。アンサンブル(集団)予報とは、数値予報の誤差の拡大を事前に把握するための手法のこと。ある時刻に少しずつ異なる初期値を多数用意するなどして多数の予報を行い、平均やばらつきの程度といった統計的情報を用いて気象現象の発生を確率的に捉える。
同研究所では、39時間先まで行う必要がある予報の計算には十数時間を要するが、計算に必要なデータは6時間ごとに気象庁から送られる。そのため次々とデータ計算を進める必要があった。
また、台風の進路によってシミュレーション対象となる地域も変化するため、必要な計算リソース量の変化に加え、計算結果も増加していく。その計算結果データを格納可能なストレージ容量の確保も課題となっていた。「あらかじめ確保しておいたノードを用いてシミュレーションする必要があり、刻々と変化する計算に対応するためには、徹夜作業になることもあった」(同研究所)という。
同研究所では、ジョブの混雑状況などによってシミュレーションをリアルタイムに実行できない課題に対し、リアルタイム洪水予測システムのクラウド化を検討した。複数のクラウドサービスを比較したうえで、マイクロソフトの「Microsoft Azure」を採用。2021年1月より構築を開始し、同年7月より運用開始している。
●Next:「Azure CycleCloud」を用いた、膨大な計算リソースを自動管理する仕組み
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