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[調査・レポート]

コンプライアンス意識向上も、不正リスクの把握・評価・対応が不十分―デロイト トーマツ「企業不正リスク調査」

2024年10月15日(火)神 幸葉(IT Leaders編集部)

デロイト トーマツ グループは2024年10月9日、ユーザー調査レポート「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2024-2026」を発表した。調査では、不正・不祥事が法令違反に及び、ガバナンス不全によると思われるものがこれまで以上に増加している状況を踏まえ、各社のコンプライアンスおよびガバナンスに対する意識、取り組み状況を重点的に分析している。

 デロイト トーマツ グループが、ユーザー調査レポート「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2024-2026」の概要を発表した。同調査は2006年より隔年で実施しているもので、今回で9回目。調査対象は無作為抽出した国内の上場企業・非上場企業で、2024年5~7月にアンケートを実施し、714社から回答を得た。

 2024年10月8日開催のセミナーで同調査の結果を解説している。デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー フォレンジック & クライシスマネジメントサービス 統括 兼 ファイナンシャルアドバイザリー領域 ビジネスリスク副リーダーの中島祐輔氏が登壇し、「不正・不祥事の実態」「コンプライアンスリスクへの認識」「不祥事対応に向けたガバナンス」の3つの観点から掘り下げている。

1社あたりの不正発生率は上昇傾向

 調査によると、過去3年間に何らかの不正・不祥事が発生した上場企業は、前回調査と同じく50%となった。内訳を見ると6件以上発生した企業の割合は14%と前回から5ポイント上昇、1社あたりの発生率が高まっている(図1)。

 中島氏は、「コロナ禍のリモートワークによって相互監視が効かず、不祥事が発覚しづらい状況から、オフィス回帰によって不祥事が発覚しやすい状況へと変化している。数字にはそういった動きが反映されていると考えられる」と指摘した。

図1:上場企業の過去3年間の不正発生件数(出典:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)
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 不正・不祥事の発覚が経営や業績に影響するリスクの変化に関しては、2年前から現在にかけて、「不正発覚の経営や業績への影響が高くなった/高くなる」と認識している企業が6割超を占めた(図2)。「全体にこの傾向が波及していく兆候とも考えられ、足元の不祥事報道の増加とも相まって、不正リスクへの危機感の高まりにつながっているようだ」(中島氏)

図2:不正発覚の経営や業績への影響の変化(出典:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)
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 不正・不祥事の内容として、国内の本社/関係会社と海外の関係会社で明らかな傾向の違いが見られる(図3)。「国内の不正・不祥事に、会計不正やデータ偽装が多いのは特徴的だ。 業績を優先する組織風土などが背景にあると考えられ、対応は難しい」(中島氏)

 不正・不祥事の真因については、「コンプライアンス意識の欠如」が国内外ともにトップとなった。国内本社/関係会社には、「過度に業績を優先する組織風土」「上司の指示が絶対的であり疑問の声をあげることのできない職場環境」「縦割り組織、セクショナリズムによる部門・職制間のコミュニケーション不全」といった回答が目立ち、日本企業特有の課題ととらえることができる。

図3:国内・海外別 発生した不正・不祥事の類型(出典:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)
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リスクの把握・評価・対応が不十分

 調査では、93%の企業が「直近20年間でコンプライアンス違反行為の範囲が広がっている」と回答。法令だけでなく社会的・倫理的なルール違反が含まれると考える企業は88%にも上る。

 一方で、順守すべき法令を海外含め網羅的に確認できている企業は10%にとどまる。リスク評価、モニタリング、サードパーティに対する対応が十分ではないとする企業はいずれも約70~90%、コンプライアンス意識の高まりに対し、海外やサードパーティを含むリスクの把握・評価・対応が追いついていないことが明らかとなった(図4)。

図4:コンプライアンスに対する施策の取り組み状況(出典:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)
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経営者への監督・監視への意識の低さが顕著に

 ガバナンス上重視するものについては、「コンプライアンス」(60%)、「不正・不祥事の防止および対応」(52%)、「グループガバナンス」(50%)が上位に並ぶ。

 一方で、「経営者の監督・監視」は18%にとどまった。社外取締役への期待について、リスクマネジメント、危機対応およびリーダーシップへの期待を持つ企業はわずか1~4%で、助言者としての期待に終始していることを示唆している。「社外取締役の選定プロセスにも課題を抱えるなど、ガバナンスのあり方を考えさせる結果だ」(中島氏)。

 上場企業におけるコーポレートガバナンス(企業統治)については、金融庁と東京証券取引所による原則・指針「コーポレートガバナンス・コード」が2015年6月に全上場企業に適用され、取締役会機能などが見直されてきている。一方で、 経営者に対するガバナンスの意識はまだまだ低い。中島氏は次のように見解を述べた。

 「経営者が関与、黙認することで深刻化している不正も増加傾向にあり、実際に起きている事象とガバナンスの意識の間にはずれがあるようだ。これは社外取締役の選定理由にも間接的に影響が出ていると考えられる」

 調査結果にあるように、社外取締役に対しては企業経営への助言を期待している企業が多く、危機対応、リーダーシップといったガバナンスに関連する項目の期待値は低い傾向が見てとれる。「経営者が関与するような不祥事の場合は社外取締役などにリーダーシップを委ねるケースも出てくるが、そういったことへの期待は現状低いようだ」(中島氏)

 社外取締役の選定に関しても、「選定基準が確立していない」「選定プロセスが不透明」「選定基準にマッチする人がいない」といった課題を抱える企業もいる一方、約4割の企業が「課題はない」と回答している。「選定理由と合わせて考えると、 選定プロセスが確立しており課題がないというよりは、社外取締役の期待そのものが定まっていないとみることもできる」と中島氏。「経営者が関与する不祥事の増加を踏まえ、経営者の監督の目線を強化し、コーポレートガバナンスの根本改善に取り組む必要がある」(同氏)。

●Next:優先的に取り組むべき不正・不祥事施策は?

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