[事例ニュース]
「新薬承認期間を4年短縮できる」、中外製薬が創薬におけるAIのポテンシャルを説明
2024年11月21日(木)日川 佳三(IT Leaders編集部)
中外製薬は、創薬プロジェクト数の拡大や個々の創薬開発の短期化を目的に、生成AIの活用に取り組んでいる。2024年11月21日、同社のキーパーソンがAWSジャパンの説明会に登壇し、生成AIの推進体制と、社内で開発・利用している対話型生成AIアシスタント「Chugai AI Assistant」の特徴を説明した。業務に役立つ社内文書を検索可能なRAG(検索拡張生成)構成のシステムで、社員5000人以上が利用、このうち1000~1500人が毎日利用しているという。
拡大画像表示
中外製薬は、創薬プロジェクト数の拡大や個々の創薬開発の短期化を目的に、生成AIの活用に取り組んでいる。CoEを設置して推進体制を整備し、AI活用プロジェクトの推進支援、システム基盤の構築、人材育成、ルールやガイドラインの整備などを進めている。
中外製薬 参与 デジタルトランスフォーメーションユニット長の鈴木貴雄氏(写真1)は、創薬におけるAIのポテンシャルについて説明した。同氏によると、基礎研究から承認までに要する期間を13年から9年へと4年短縮、費用を約1200億円から約560億円へと640億円削減、成功確率を0.004%から0.04%へと10倍に高められるという。
取り組みの成果の1つとして現在、7000人超の社員のうち5000人以上が利用する、チャットプロンプトを備えた対話型の生成AIアシスタント「Chugai AI Assistant」(図1)を開発・運用している。RAG(検索拡張生成)を採用し、社内文書のナレッジを検索して回答を生成する。汎用のWeb画面を用意するほか、社内アプリケーションにもチャット画面を組み込んで社員の活用を促している。
拡大画像表示
質問したい内容などの用途に応じて、エンドユーザーが6種の大規模言語モデル(LLM)を選択できる。また、プロンプトで利用可能な用途別テンプレートを現時点で約20種類用意している。「臨床試験に関するガイドラインの検索・情報抽出やプレゼン資料の要約など、業務に則した質問と回答が可能になっているる」(鈴木氏)。
鈴木氏は、典型的なユースケースとして、個々の課題に対して過去の類似事例や知見を検索する用途を挙げた。担当者の不在・退職などで資料の特定が困難なケースや資料探索の工数が大きい場面においても、効率よく資料の場所や知見を持つ担当者を特定可能になった。定量的な効果として、約87%の業務時間を削減できたという(図2)。
拡大画像表示
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に治験計画届を提出した後の照会対応において、回答案のドラフトを生成する用途にも活用する。PDMAから受け取った照会事項に対し、過去の類似質問を検索し回答案を生成。定量的な効果として、約57%の業務時間を削減できたという(図3)。
「今後は、汎用の対話型AIアシスタントだけでなく、特定の業務に特化した生成AI活用アプリケーションを開発していく」(鈴木氏)
拡大画像表示