アトラシアンは2024年11月25日、AIの利用状況に関する調査結果を発表した。調査によると、生成AIを最も活用している層は全体の12%を占め、AIの活用によって1日あたり105分を節約している。さらに、AIの活用によって仕事の質向上も実感している。調査は、オーストラリアAtlassianのTeamwork Labが、オーストラリア、米国、インド、ドイツ、フランスの約5000人のナレッジワーカーを対象に実施した。
オーストラリアのAtlassian(日本法人はアトラシアン)は、企業の従業員によるAIの利用状況を、オーストラリア、米国、インド、ドイツ、フランスのナレッジワーカー約5000人を対象に調査した。調査結果のハイライトの1つとして、生成AIを最も活用している上位12%の層は、AIの活用によって1日あたり105分を節約しており、仕事の質向上も実感している。
調査ではまず、ナレッジワーカーがAIについてどのように考え、どのように仕事に活用しているかを調べ、利用レベルを5段階に分類した(表1)。
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ステージ1と2は、「単純なAIユーザー」と定義した。これらの人たちは、AIを自動化ツールとして考えており、自分自身でもできる可能性が高いタスクを、より速く、より簡単に終わらせるために使っている。例えば、メール文面の作成や、社内情報の検索などにAIを使う。
ステージ3と4は、「戦略的AIコラボレーター」と定義した。これらの人たちは、クリエイティブなパートナーとして、または専門スキルを持つチームメンバーとして、AIに対峙している。例えば、顧客を訪問する前に、社内システムのデータをもとに顧客の状況を把握し、効果的なミーティングを準備するといった用途や、アイデアの創出を迅速化・改善する用途のためにAIを使う。
AIの利用レベルが上がると2倍の時間を節約可能に
調査では、AIによって日常的にどれだけの時間が節約できているかも推定してもらった。
単純なユーザー(特にステージ1)は、AIによって1日あたり53分を節約している。一方、もっとも戦略的なAIコラボレーター(ステージ4)は、1日あたり105分の時間を節約している。これは、平均的な就業日の20%以上、つまり毎週丸1日分に相当する。
結果を金額に換算すると、意思決定の改善を目的にAIとコラボレーションする企業組織は、年間で1億2940万ドルのROI(投資対効果)を達成できる。一方、AIを特定のタスクに限って使う場合は6510万ドルにとどまる。差し引き6430万ドルの機会費用に相当する。
なお、ステージ4のAIコラボレーターのほぼ全員(94%)が「AIとの協働を学ぶために費やした時間は報われる」と思っているのに対し、ステージ1のAIユーザーでは59%にとどまる(図1)。
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利用レベルによって、節約できる時間だけでなく、時間を使って何をするかにも違いが出る。単純なAIユーザーは、AIによって節約した時間を管理業務に費やす傾向がある。一方、戦略的コラボレーターは、AIによって節約した時間を使い、より深く仕事に取り組む傾向がある(図2)。
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ステージ4に属する人々は、新しいスキルを学び続け、新しいアイデアを生み出す可能性がもっとも高い。「単純なAIユーザーも、コラボレーションのアプローチを採用すれば、モチベーションが向上し、AIの新たな活用方法を発見し続けられるかもしれない」(同社)。
AIとのコラボレーションで仕事の質が向上
AIをチームの一員として捉えるようになると、仕事の質が飛躍的に向上することも分かった。「この1カ月で仕事の質が向上した」と回答した人の割合は、単純なAIユーザー(ステージ1)では約半数(54%)にとどまるが、戦略的なAIコラボレーター(ステージ3および4)では85%を占める。
単純なAIユーザーは、仕事を素早くこなすが、仕事の質はそれほど変わらない。一方、戦略的AIコラボレーター(ステージ3および4)になると、仕事を素早くこなすだけでなく、仕事の質も大幅に向上する。
単純なユーザーは、AIにデータを収集させた段階で作業が終了する。AIに分析や結論の導出を手伝ってもらうことを求めない。これに対し、ステージ3のコラボレーターは、AIと協力して仮説を構築し、質問を投げかけ、結果を分析し、洞察を引き出す。
ステージ4のコラボレーターは、さらに一歩進んでいる。AIに各種の決定におけるメリットとデメリットの概要を求めたり、類似したケーススタディを提示させたり、潜在的な予期せぬ結果をリストアップさせたりする。
失敗を恐れずにAIを試せる環境作りが大切
AIに対する恐怖や不安が蔓延する環境では、従業員はAIを最小限にしか使わない。一方、失敗や生産性の低下を恐れずにAIを試したり学んだりできる環境では、社員はAIの戦略的コラボレーターとしての能力をより早く伸ばせる。
調査では、「リーダーがAIの実験を奨励している」と見ている人は、そうでない人よりも、1日あたり55%も多く時間を節約している(84分対55分)。また、リーダーのサポートを受けている人は、戦略的AIコラボレーターになる可能性が2.5倍高い。
AIとのコラボレーションの取り組みを可視化する必要もある。AIが業務の拡大に役立つ例を示すことで、AIを「利用する」段階から一歩先へと進められる。例えば、ミーティングの場で、AIエージェントを共有してベストプラクティスを提供する、といった活動が大切である。Slackや全社向けニュースレターなどが、より大きな効果を生む。
実験と学習の文化を育むことで、従業員は戦略的AIコラボレーターになる可能性が高まり、結果として、より大きな時間の節約と、より質の高い成果をもたらす。ただし、リーダーのサポートがなければ、従業員は時代遅れのワークフロー(ステージ0~2)から抜け出せない。「リーダーシップレベルでAIを受け入れることが、AIのメリットを最大限に引き出す鍵となる」(同社)。