名古屋大学と岐阜大学を運営する東海国立大学機構と富士通は2025年5月23日、両大学病院の診療データから治験候補患者を選定するプロセスを生成AIで支援する実証実験の取り組みと結果を発表した。診療データを生成AIで構造化することで、治験候補患者のスクリーニングを容易にする効果を検証した。実証実験の結果から、治験候補患者の選定時間が約3分の1に短縮される見込みという。
名古屋大学と岐阜大学を運営する東海国立大学機構と富士通は、両大学病院の診療データから治験候補患者を選定するプロセスを生成AIで支援する実証実験を2024年9月25日~2025年3月31日の期間で行った。診療データを生成AIで構造化することで、治験候補患者のスクリーニングを容易にする効果を検証した(図1)。

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対象データは、名古屋大学医学部附属病院(愛知県名古屋市)と岐阜大学医学部附属病院(岐阜県岐阜市)の両病院が保有する、2019年4月1日~2024年3月31日の期間における、乳腺外科の約1800人の診療データである。
実証実験の結果から、治験候補患者の選定時間を3分の1程度にまで短縮されることを見込む。両大学病院は、医療従事者の意思決定が迅速化し、患者が治験に参加する機会が増えることに期待をかけている。
実証実験では、1段階目として、乳がん関連の治験に必要なデータ項目の一覧を作成し、構造化データと非構造化データに分類した。医師記録や各種検査結果レポートなどの非構造化データに対しては、患者の病期・病態、病理・腫瘍評価などの項目を中心に、生成AIを用いて構造化を行い、約90%の再現率を実現した。
2段階目として、1段階目で構造化した全患者の診療データを治験リポジトリに集約し、過去に実施した乳がんに関する3つの治験プロジェクトを対象に検証。各治験の適格基準・除外基準に基づき、この治験リポジトリをスクリーニングした結果、合計42人の治験候補患者を抽出し、このうち実際の適格患者が27人含まれていることを確認した。
「診療データには、医師による所見の記述などそのままでは管理や分析に使うことが難しい非構造化データが多く含まれている。そのため、治験候補患者の選定には医師が個々に診療データを確認しなければならず、治験の長期化が課題だった」(東海国立大学機構、富士通)
富士通は、今回の実証実験を踏まえて、医療分野向けのデータ活用クラウド基盤「Healthy Living Platform」を拡張する。生成AIを用いて医療データを構造化し活用を促進する機能を2025年5月30日から提供する。今後は、同社の大規模言語モデル(LLM)「Takane」と連携し、臨床研究におけるデータ分析の高度化と患者選定の効率化を支援するとしている。