オープンソースソフトウェアは、注目度の高さの割に企業システムに定着していないのが現状だ。安定性・可用性、機能不足、技術者不足が普及の障壁になっている。膨大な数のオープンソースの中から、どれを選択するかという課題もある。これらの障壁や課題を解消するために、企業の情報システム部門はどうすべきか。オープンソースを採用する際に考慮すべきポイントと、選択の指針を紹介する。
※本稿は野村総合研究所発行の「知的資産創造 Vol.16 No.9」の記事に加筆・編集して掲載しています。
企業におけるオープンソースの利用状況
ソフトウェアライセンスのコストを下げられるという期待から、さまざまな企業システムでオープンソースの利用が広がりつつある。ソフトウェアの種類や機能は充実しつつあり、サポートサービスを提供するベンダーも増えている。こうした動きに加えて、最近はシステム構築にオープンソースの採用を促す動きも強くなってきた。
2007年3月に総務省が策定した「情報システムに係る政府調達の基本指針」には、「ハードウェアおよびソフトウェアの調達は、誰もが採用可能なオープンな標準に基づくこと」と明記してある。この指針が出たことで、中央省庁におけるシステム調達の透明性・公平性が確保されるだけでなく、オープンソースの採用が進み特定ベンダーへの依存から脱却できるといった効果が期待されている。
2007年6月に情報処理推進機構(IPA)が作成した「地方自治体における情報システム基盤の現状と方向性の調査 調査報告書」からも、今後のオープンソースの広がりをうかがい知ることができる。同報告書によると、現時点ではオープンソースを情報システムで正式採用している地方自治体は少ないものの、「今後はオープンソースを採用すべきである」とする自治体は8割を超えている。
オープンソース利用を阻害する3つの要因
注目を集めているオープンソースだが、実際に企業システムにどの程度利用され、どう評価されているのだろうか。NRIは2008年3月、企業の情報システム部門の決裁権者(課長職以上)を対象に実施した「IT基盤関連ビジネス動向調査−オープンソースソフトウェア調査分析レポート」で状況を確認した。結論をいうと、全体の半数以上は「オープンソースの利用を検討した」ものの、「実際に利用経験がある」のは約3割(図1)。「継続的に利用している」という回答に至っては2割弱である。
盛んに話題にのぼり、利用環境が整ってきているにもかかわらず、オープンソースは企業システムにそれほど定着していない。それには、オープンソースの利用を妨げる何らかの要因があるはずだ。NRIは、システム基盤へのオープンソースの利用を検討する際に何が課題となったのか、導入後に利用を取りやめたケースでは、どのような理由からだったのかを調査した。
オープンソース利用検討時の課題では、全体の半数以上が「安定性・可用性」および「技術者不足」を挙げている。利用後に取りやめた理由で最も多かったのが、「必要な機能が不足していたため」となった。これらの点を、もう少し具体的に考えてみよう。
01 安定性・可用性
企業の情報システム担当者は、オープンソースには潜在的なバグ(ソフトウェアの不具合)が存在し、システム稼働中にバグが原因で障害を引き起こす可能性があると思っているとみられる。図2を見てほしい。オープンソース利用検討時の課題に「実績や導入事例が少ない」といった項目が挙がっている。裏を返せば、情報システム担当者は実績や導入事例の豊富な安定したオープンソースを求めていると推察できる。「信頼性」ならぬ、「信頼感」の問題である。
ソフトウェア単体としての問題に限らない。オープンソースが商用ソフトウェアと共にシステム基盤に加えられることで、結果的にシステム基盤全体に悪影響を及ぼすのではないかという不安を抱いているとも考えられる。
02 機能の不足
オープンソースの利用を中止した理由を基幹系システム、情報系システム、コミュニケーション系システムなど、業務システムの分野別にまとめた。すると、どの業務システムでも「機能の不足」が最大の理由という結果が得られた(図3)。汎用的なオープンソースで無理にシステム基盤を構築したため、必要な機能要件を満たすことができなかかったということだろう。
オープンソースの利用に際しては、さまざまな選択肢の中から機能を満たすための解決策を検討・評価したうえで、システム基盤を構築すべきである。だが、その検討・評価が不足していたために、機能の不足を感じるのではなかろうか。結果として、機能を満たすために技術者を確保しなければらならず、次の課題である「技術者不足」をもたらしているようだ。
03技術者不足
オープンソースはソースコードが無償で公開されており、インターネットを通じて広くコミュニティが開かれている。本来ならオープンソースを扱う技術者は多数いるはずである。ところが実際のところは、技術者不足が課題として挙がっている。これは、前述の通り機能の不足と相関がありそうだ。
商用ソフトウェアはオープンソースに比べて機能が充実しており、ベンダーからの手厚いサポートを受けることができる。そのため、企業の情報システム担当者は、ソフトウェアを安心して導入できる。一方のオープンソースは、多数の技術者が存在していそうだが、実際のシステム構築時に、機能の不足を補えるほど高度なスキルを持つ技術者を確保するのは難しい。
システムの構築後、機能追加や障害対応のためにオープンソースの技術者を確保し続けることはさらに困難だと予想される。そのため技術者不足の課題は、システムの維持管理において一層顕著に現れてくるといえる。
こうした理由から、企業の情報システム担当者は、冷静かつ慎重にオープンソースを捉えている。オープンソースの利用はあくまでシステム構築・提供の1つの手段というわけだ。
メリットを引き出す2大要件
企業システムにオープンソースを導入し、メリットを引き出すには、前述した3つの阻害要因を少しでも排除することが必要になる。その2大ポイントは「整合性・維持管理工程を考えた導入の検討」と、「適用箇所の見極め」だ。それぞれ、詳しくみていこう。
01 整合性・維持管理工程を考えた導入検討
システム構築の現場では、高いセキュリティ対策を施した最新版を求める声や、バグを解消し安定した旧版を支持する声など、相反する要望が出ることがある。こうした要望に応えるために、オープンソースを導入する際には個別のシステム構成に応じて、ソフトウェアの組み合わせの整合性を考慮して設計、評価しなければならない。
さらに、オープンソースの特性を把握したうえで、維持管理工程を意識してシステムを設計、構築することが求められる。将来にわたって継続的で安定した運用を可能にするためである。
こうした要件を満たすために、オープンソースの専門チームを社内に設けるのは1つの手だ。しかし、時間的・コスト的な制約から困難なこともあるだろう。その場合、システムの重要度や特性、利用者に対するサービスレベルを考慮したうえで、ベンダーによるサポートサービスを利用することも可能だ。
02 適用箇所の見極め
昨今、商用ソフトウェアにオープンソースの有効な機能要素を取り入れて提供するという傾向が見られるようになった。反対に、オープンソースは商用ソフトウェアが持つような機能を取り入れながら成長してきており、両者の垣根は徐々に低くなってきている。
とはいえ、オープンソースは元々、自分たちの用途を満たす目的でコミュニティ内で開発されてきた。そうした性質なだけに、企業システムでの利用を前提に開発された商用ソフトウェアに比べ、機能面で不足している部分が少なくない。そのため企業の情報システム担当者は、機能要件を満たす安定したシステム基盤を構築・提供するにオープンソースの機能や実績について情報収集し、内容を把握する必要がある。そのうえで「オープンソースを利用する」、「オープンソースと商用ソフトウェアを組み合わせる」、「商用ソフトウェアを利用する」といった選択肢を検討・評価しなければならない。
システム基盤のすべてにオープンソースを採用することは、必ずしも企業の情報システムに適切であるとは限らない。かといって、オープンソースを無視すれば、オープンソースのメリットを享受する機会を失う。メリットを十分に享受するには、どこにどのように活用できるか、システム基盤要件に応じてコスト面、標準性、技術面から適切に見極めることが大切である。
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