フライドチキン──今や日本全国で食べられている食品の1つだ。その材料である鶏肉がどう流通しているか、ご存じだろうか。そこには全国の生産業者と大手フライドチキンチェーンの店舗を結び、日々、新鮮な鶏肉を必要な量だけ配送するサプライチェーンがある。今回は、これを運営するフードリンクに、最新のシステム像を聞く。(聞き手は本誌編集長・田口 潤)
- 福永 大希
- フードリンク 管理部 情報システム担当部長
- 2007年4月に三菱商事から出向。情報システム担当として、サプライチェーンマネジメント(SCM)やERPなど、全社的なIT環境の再構築プロジェクトを推進している。ケンタッキーフライドチキン向けのシステムでは、RFP作成や製品選定など一連のプロジェクトを管理した。
- 中沢 良子
- フードリンク KFC事業部 課長代理
- 1981年11月にフードリンク入社。自社倉庫管理業務、営業アシスタント、仕入・物流業務担当を経て、ケンタッキーフライドチキン(KFC)配送関連業務を担当。KFCのメイン商材であるチキンのPOS受発注システム立ち上げ以来、同関連業務に携わっている。
- 陳 欣
- フェアウェイソリューションズ システム部 シニアエンジニア
- 2003年6月にフェアウェイソリューションズ入社。一貫して、エンジニアとしてパッケージソフトの開発やインテグレーションを担当している。
- 坂本 勲
- フェアウェイソリューションズ 事業推進室 室長/ディレクターコンサルタント
- 2005年4月にフェアウェイソリューションズ入社。製造業や大手商社向けのサプライチェーンマネジメント・システムの導入を手がけている。
Photo:的野 弘路
— 2008年4月に鶏肉を配送するSCMシステムを刷新したそうですね。システム担当の福永さんにお聞きします。そもそも鶏肉のSCMって、どんなものですか?
福永: 全国にある300以上の鶏肉の生産者と11カ所のカット工場、10カ所の配送拠点、そして全国各地にある1100店舗以上のフライドチキンの店舗を結んで、鶏肉の流通をつかさどるものです。当社(フードリンク)が、ケンタッキーフライドチキン社から委託を受けて運営しています。
— カット工場で加工した鶏肉を、店舗からの注文に応じて配送する。なんと言いますか、それほど複雑な業務ではないような気がしますが。
福永: とんでもない。まず鳥は生き物なので、毎日、指定量の肉が入荷するわけではありません。季節変動などの需要動向を見ながら生産量を調整する必要があります。
中沢: 私は日々の業務を担当していますが、フライドチキンの鶏肉は、部位ごとにカットする位置や形、重さが厳密に決まっています。ところが鳥の大きさは一羽ごとに違うんです。基準に合わない場合、当然ですが、仕入れ量が変わります。お店に納品する鶏肉にも、生肉と、保存が効く冷凍肉があります。その割合についても、仕入れやお店ごとの需要に応じてきちんと調整する、いわゆる「荷割」をしなければいけません。
機械部品などのように指示した量だけ生産できて、保存もきくものならいいんですが、鶏肉は生き物ですし、鮮度も重要です。お店に大量の在庫を持ってもらうわけにはいきませんので、毎日の配送も必要になります。
福永: それ以外にも、例えば店舗によって生産者の指定があるケースもあります。生産者がフランチャイズ店を経営している場合が典型ですが、こうした要望にも対応します。
— 大変、失礼しました(笑)。色々な要件があるんですね。業務はどのように回っているんですか。
中沢: チェーン本部経由で、午前10時40分頃までに、翌日分の注文がまとめて送られてきます。それに基づいて荷割をし、午後3時までに10カ所の配送拠点に指示書を送る。指示書を送る時間が遅くなると、配送拠点の作業に悪影響が出て、翌日の出発便に間に合わせることができません。ですので指示書を正確に、早く作成することが非常に重要です。
— それがシステム刷新のきっかけ?
福永: そうです。実は以前は、直営とフランチャイズを合わせて約600店への配送を担当していました。それが2008年4月から全店、つまり1100店以上を対象にすることになったんですよ。
— 御社にとってはいいことだ。
福永: そうなんですが、対象となる店舗が増える分だけ単純に指示書の作成にかかる負荷が大きくなり、時間に間に合わなくなってしまう可能性があります。情報システムの見直しや業務の効率化は欠かせませんでした。
— 以前のシステムはどんなものだったんですか?
福永: 1980年代から使っている三菱電機の「MELCOM」というオフコンで、鶏肉の配送管理システムはProgressII(PII)を使って開発しました。今も販売管理や在庫管理などのシステムを動かしているのですが、鶏肉の安定供給のカギを握る配送管理システムは刷新することにしました。MELCOM上で作り直すことも考えたのですが、PIIのプログラマがほとんどいないですからね。
中沢: 以前のシステムは、注文から配送拠点に送る指示書を作成するまでの間に、人が確認しなければいけない工程がとにかく多かったんです。時間もかかりますし、確認漏れで万一、指示を誤ると大変ですから、作り替えて良かったと思います。
— なるほど。ではシステム刷新の話をお聞きします。何から着手しました?
ユーザー企業を訪問し、導入する製品の特徴を把握
福永: 中沢のチームの協力を得ながら、まずRFP(提案依頼書)をまとめてベンダー4社に提案を依頼しました。2007年夏のことです。
— え? 先ほどの話だと、2008年4月には稼働させる必要が…。
福永: その通りです。ですので中には、「半年少々の期間では無理」と、提案さえ頂けないところがありました。内々に想定していた予算をはるかに超える提案もありましたよ。結果的に、予算と期間がまずまずだったのは、フェアウェイさんだけでした。
— フェアウェイとしては、「4月稼働なんて…」とは思いませんでしたか?
坂本: 私どもは元々、食品業界への導入経験が多いので、RFPを見たときに、経験済みの要件と未経験の要件をすぐに判別できました。今回の特徴は「荷割」です。この点だけ未経験でしたが、当社の製品が備える手配シミュレーション機能をカスタマイズすれば、要件を満たせる。4月の稼働は何とかなるし、問題ないだろうと判断しました。
— 反対に福永さん、「フェアウェイは本当にできるのか」という不安はありませんでしたか。
福永: 実は、フェアウェイさんのユーザーを知っていたんです。当社と同じく、全国の配送拠点から数多くの納品先に商品を卸している企業です。そこにお願いしてシステムを見せてもらっていたので、機能面の特徴だけでなく、導入時のシステムのイメージは大よそ描けていました。特に不安は感じませんでした。
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