Web 2.0で可能性広がるオンラインマーケティング─安全な運用にはCIOの積極的な協力が不可欠
2009年4月30日(木)CIO INSIGHT
CIO INSIGHTから2本の記事を取り上げる。1本目は、Web2.0のマーケティングへの活用に関する記事。ブログやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)といったWeb2.0をうたうツールは、企業でも利用が進みつつある。マーケティング効果を上げつつ、顧客が安全に利用できるようにするためのCIO(最高情報責任者)の役割について説く。続いて2本目の記事は人材確保に関するものだ。レイオフや人材流動化で優秀なスタッフの獲得に苦悩する米国企業だが、スタッフとの積極的な対話や、テクノロジーの活用により活路を見い出せると主張する。(翻訳 : 古村 浩三)
消費者とのダイレクトなコミュニケーションが可能な「Web2.0」をうたうツールは、非常に強力なマーケティング手段となる。だが、ITに熟知したCIOが積極的に関与しなければ、様々な問題が表面化する危険性がある。
米マーケティング専門誌の「Advertising Age」や「PR News」、「BtoB Magazine」では、ブログのほか、ウィジェットやガジェットのオンラインマーケティングへの活用に関する記事を相次いで取り上げた。
ウィジェットやガジェットは、時計や付箋といった小規模でちょっと気の利いたアプリケーションを指し、例えばブログなどの画面に貼り付けて利用する。この部分をクリックすると特定のサイトへ移動する機能を持つものもあり、企業がキャンペーン時にユーザーに無料配布するなどして、サイトへのアクセス増加を狙うなどの利用方法がある。
企業のマーケティング部門に所属する担当者の多くは、広告代理店のオンラインマーケティングの専門家と話をして、これらの雑誌に載っていたものと同じ手法をどうにかして実現したいと思っていることだろう。
しかし、マーケティングの専門家たちが、IT部門と議論しないままWeb2.0技術の活用を推し進めていくと、会社は大きなリスクを背負うこととなるだけでなく、せっかくの顧客獲得の機会を逃すことにもつながる。Advertising Age誌が“ポスト広告時代”と呼称する現代のオンライン環境においては、CIOとマーケティング責任者との関係は非常に重要な意味を持ってくるのだ。
IT部門は、これまでは広告の世界との接点がほとんどなかったはずだ。だが、Web2.0の隆盛をはじめとするテクノロジーの進化は、IT部門と広告との関係に変革をもたらしつつある。以下、CIOがオンラインマーケティングの世界で必要となる理由を解き明かしていこう。
社内の統制により顧客情報の安全を保護
マーケティング部門は、顧客自身が管理するウィジェットやガジェット、顧客主導で生み出すコンテンツ(CGM=Consumer Generated Media)を、積極的に顧客獲得につなげようと考えている。顧客と直接のコンタクトを持てる利点を、最大限に生かそうという狙いだ。だが同時に、悪意を持った社内の人間により、リスクとセキュリティの脅威を顧客にもたらす可能性をはらんでいる。例えば、電子掲示板へのマナーの悪い書き込みが社の評判を落としたり、顧客情報を社外に漏洩させて多大な迷惑をかけるといったことが起こり得る。
マーケティング部門や顧客の旺盛な創造心を阻害せず、新技術を新しいマーケティングチャネルにつなげるように誘導できるのはIT部門に他ならない。CIOは、例えばアクセスコントロールなどの技術を使うことで、社内統制の有効化と、顧客の保護を両立することができるのである。
注意しなければいけないのは、ウィジェットなどの新しいアプリケーションは、これまでのアプリケーションとは根本的に異なるということだ。CIOはこれらの新しいアプリケーションについて十分に理解することが必要となる。
不測の事態に備えて自社のブランドを保護
CIOの役割が特に重要になるのは、オンライン上での自社ブランドイメージの保護だ。IT部門は、既にウイルスや不正アクセスといったセキュリティ上の脅威を常に監視してきた。その経験を生かし、顧客との関係をより良いものにしたいというマーケティング部門の努力を支えることができる。
たとえばSNSにおいて誹謗中傷などの問題が発生した際にすぐさまアラートを発したり、社員がどのようにSNSと関わるかについての基本ルールを定めたりといった支援ができるはずだ。
法令順守のためオンライン上のデータを確実に保管
オンラインマーケティングでは、顧客との間で様々な情報を取り扱う。中には、e-ディスカバリー(電子情報の証拠開示に関する法律。民事訴訟の際、当事者に電子メールなど電子情報の開示を要求する)の対象にあたるものが存在する可能性がある。米国の少なくとも41の地方裁判所は、電子情報の取り扱いに関して、その地方独自のルールやガイドラインに準拠した明確なコンプライアンス(法令順守)を要求している。
これらのデータを収集したり、検索するために必要なアーキテクチャを設計・構築し、維持できるポジションにいるのは、他でもないCIOなのだ。
顧客の行動パターン分析でマーケティング効率化に貢献
景気後退に伴う予算縮小の中で、マーケティング部門は自分たちの活動がいかに効果があるかを経営陣にアピールしたいと思っている。そのためには、広告効果の正確な算出が重要だ。
米オンライン広告業界団体であるInteractive Advertising Bureau(IAB)が発表している「リッチインターネットアプリケーション(RIA)における広告インプレッションの測定ガイドライン」では、正確な広告効果を測定するための認識技術の必要性を訴える。例えば、ロボットやスパイダーと呼ばれる、自動的にアクセスを繰り返すプログラムを使って大量のアクセス数を稼ぎ出し、アクセスランキングを意図的に上げるといった不正行為を特定できる技術が必要となる。
ここで生きるのが、IT部門の持つデータ分析能力だ。定期的にアクセスのパターンを分析することで、実施中のキャンペーンをロボットやスパイダーから保護できる。
IT部門の協力があれば、クーポンの使用履歴や複雑なプロモーションの有効性などの追跡調査もできる。顧客の行動パターンや嗜好、購買履歴をベースにして、新たな購買に結び付く商品にターゲットを当てたプロモーションをかけるなど、よりきめ細やかな顧客対応が可能になる。結果として、ターゲットを絞って有望な顧客にアプローチするキャンペーンを張ることができ、高い費用対効果を実現できるのだ。
本記事は米国の有力ITメディア「CIO INSIGHT」(提供はZiff Davis Enterprise)の記事を翻訳したものです。
ⓒ2009 Ziff Davis Enterprise, Inc.
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