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[CIO INSIGHT]

最新技術の導入は慎重かつ大胆に、新潮流に挑むベテランCIOの姿

Sybase’s CIO on Cloud Computing, Mobility By Brian P.Watson

2010年5月6日(木)CIO INSIGHT

クラウドが本格的に普及するのは5、6年先だ─。データベース関連製品ベンダーである米サイベースでCIO(最高情報責任者)を務めるジム・シュワルツ氏は、こう主張する。重要なシステムをクラウド上で稼働させるには、現在のクラウドのセキュリティでは不足しているというのが氏の見方だ。一方で同氏は、モバイルやソーシャルツールなどの新技術に大いに注目している。社内環境の活性化のためにも、リスクとメリットを天秤にかけて新技術を大胆に導入すべきだと説く。(翻訳 : 古村 浩三)

近年、モバイルソフトウェアの領域に焦点を当て、大きな転換を図ってきたサイベース。同社のCIO(最高情報責任者)であるジム・シュワルツ氏は、クラウドコンピューティングやSaaSといった最新技術や、2000年代に入って成人を迎えたミレニアム世代(Millennials:1980年代以降に生まれた若者)の持つ潜在能力に大いに注目しているという。

米研究機関であるSRI Internationalや米情報システム会社のSAICなど、複数の企業でITリーダーとして活躍してきたベテランCIOである氏が、CIO INSIGHTのインタビューに応じた。クラウドをどう捉えているか、ITリーダーにとっての2010年とはどんな年になるかなど幅広く語った。

CIO INSIGHT:2010年に優先的に取り組むテクノロジーは。

シュワルツ氏 : 業務効率向上のため、組織のワークフローをどう改善すればよいかを一生懸命探求している。具体的な取り組みとして、アプリケーションを自社運用すべきか、新しいアプローチとして社外にホスティングすべきかの検討に取りかかっている。

クラウドに関しては、これまで経営トップを巻き込んだ多くの案件をこなし、検証を繰り返してきた。これは恐らく他の多くのCIOとは異なることだろう。クラウドは当社や当社のビジネスにとってどんな意味があるか、上手く使うにはどうすればいいか、そしてクラウドのような新技術につきものの漠然とした不安を払いのけるにはどうしたらいいか、といったことだ。

クラウドの採用に当たっては、一般に利点とされていることが真実かどうかを徹底的に探究してからにしたいと思っている。本当に電気や日用品の感覚で、もっとも安い価格のサービスを選択できるのか。本当にベンダーを変えても自社のビジネスの遂行に支障をきたさないのか、といったことだ。

これらの利点が現実になるには、まだまだ時間がかかるというのが私の見方だ。当社は既にいくつかのクラウド事業者とパートナーシップを結んでいる。だが残念ながら、こうした利点を実現するために必要な、データやサービス提供形態などの標準化は遅れているのが現状だ。

とはいえIT部門の至上命題は、いかに収益向上に貢献するかということ。2010年には、当社はクラウドの可能性についてさらに詳しく検討し、長期的に見て当社のビジネスにどう影響するかを見ていくことになるだろう。もし実用に足る適切な外部のサービスがあれば、ずっと安く上がるからだ。高価なデータセンターを自社構築したいとは思っていない。

CIO INSIGHT:本誌はクラウドをいささか懐疑的に見ている。特に大企業のCIOは抱えるシステムの重要性も大きく、システムやデータを社内に置くべきか、社外に置くべきかを見極める必要があるはずだからだ。クラウドで一番大きな障害になり得るものは何だろう。

シュワルツ氏 : まず挙げられるのは、セキュリティの問題だ。自社の経営情報を第三者の手に委ねるのだから、慎重にならざるをえない。SaaSでは複数のユーザー企業がサービスを共有していることから、危険ではないかと思う人もいるだろう。一方でセールスフォース・ドットコムなどのSaaSを採用して早期にクラウドの世界に飛び込んだ先駆者達は、この瞬間にも機密情報をSaaS事業者のデータセンターにどんどん投入している。

私は、最終的には自社運用とクラウドのハイブリッド環境に落ち着くと考えている。特に機密性の高いデータを扱うアプリケーションは、「社内クラウド」(自社で管理するデータセンターで仮想化技術などを利用して柔軟なリソースの追加や変更を可能にした環境)の中に置くことになるだろう。あるサーバーに問題が起きた時は、外部のデータセンターにフェイルオーバーしたり、社内で保有する他のセンターに移行するといった運用が可能になる。

そうした利点を活用するためには、仮想環境でのセキュリティの仕組みを確立しなければならない。ベンダーが仮想環境で構成したデータセンターのセキュリティ標準を作っていけば、ユーザー企業はクラウド上で機密性の高い情報を扱うことを受け入れやすくなるだろう。標準ができるまでには当然時間はかかると思うし、それまでの過程では成功も失敗もあるだろう。ERPのような重要なアプリケーションを外部環境で安心して稼働できるようになるのは、5、6年先になるのではないかと考えている。

クラウドの価格については様々な数字が飛び交っている。クラウドは基本的には従来のシステムに比べて安いものの、導入環境によってはそう安く上がるわけではない。このため、正確な評価測定のノウハウを持つことが重要になる。

変な言い方かもしれないが、実は、近い将来にクラウドがらみで大きな障害が発生しないかと心のどこかで思っている。企業は一時的であれクラウドに幻滅するだろうが、クラウド事業者は真剣になってその状況を改善しようと努力する。こうした事象が起こるのも5、6年先だろうが、その間にはうまくいく事例もいくつかは出てくると考えている。Googleのオフィススイート「Google Apps」は興味深く見ているし、電子メールに外部のホスティング型サービスを利用する企業は増え続けている。

メールを外部に委ねることは中小企業にとっては好都合かもしれないが、当社のような規模の大きな企業になると、ERPと同じように問題が多く、慎重にならざるをえない。特に注目しなければならないのは添付ファイルだ。メールの添付ファイルの中には機密性の高い情報が数多く含まれているからである。当社は送信するメールにファイルを添付する代わりに社内の中央リポジトリに保管し、メールにはリポジトリ内のファイルへのリンクを貼ることで、メールと一緒に外部に出ることがないようにしている。リポジトリ用のストレージへの負荷もそれほど高くはならない。リンクを辿って添付ファイルが出て行くのはそれほど頻繁ではないからだ。

社内での情報共有にはマイクロソフトのSharePointを利用している。これは非常に魅力あるツールだが、SharePointに多くの情報を蓄積すればするほど、他のベンダーに移行しにくくなると実感している。当社が他のMicrosoft Office製品を多く導入しているのも、SharePointとの結びつきが強いからだ。製品自体は大変良いのだが、それ相当の費用はかかっている。

オープンソースソフトウェア(OSS)などにも目を向けているが、マイクロソフト製品との互換性は、残念ながら当社が期待しているレベルに達していない。当社が使用を決めたオフィス製品を誰もが使うというのなら問題ないが、多くの人がマイクロソフト製品を使用している現状では、代替品を使うのは難しい。顧客との間のやりとりに利用する際は、なおさらだ。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のFacebookやマイクロブログのTwitterなどのコラボーレーションツールが企業にもたらす影響は日増しに大きくなっている。私たちは、これらのツールをもっと積極的に活用していかなくてはならないと考えている。新たに当社に入社してくる若者がそれを求めているからだ。Facebookのようなソーシャルツールを使ったコミュニケーションは、当社のようなIT業界では広く受け入れられてきている。この動きは止められないし、たとえ今止めたとしても、現在の普及度合いから見れば将来的には受け入れざるを得なくなるのは目に見えている。いろいろと規制するよりも、積極的にこれらの新技術を活用し、先頭に立って使い方の指針を作っていくほうがよい。

他社に先んじて新技術を導入しようとすれば、当然ながらリスクは避けて通れない。さらに社外にまで適用の範囲を拡大するならば、その妥当性を実証するための専門チームを社内に持つなど、慎重にことを進める必要がある。早期の新技術導入には、ノウハウが乏しいため多くの時間が必要になる。導入のタイミングの決定にはバランスが肝心だ。あまり採用が早すぎても大変だし、かといってあまりに遅くなり他社の後塵を拝することも避けなければならない。

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