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[CIO INSIGHT]

グーグルCIOが語る企業ITの未来像─発想転換なくして新しい価値は生まれない

Google It: IT's Competitive Advantage By Brian P. Watson

2010年1月29日(金)CIO INSIGHT

エンドユーザーの好むOSやアプリケーションを自由に利用させることが生産性向上の近道だ—。グーグルのCIO(最高情報責任者)であるベンジャミン・フライド氏は、こう主張する。前職のモルガン・スタンレー時代での経験などから、自由なシステム環境の構築の重要性を認識。オープンな環境はIT部門の価値を高め、優秀なサポート人材獲得にもつながっているという。

革新的な企業文化や広大な敷地、無料の食事、従業員を快適にさせる様々な仕組み…。多くの人々が企業としてのグーグルに対してこんなイメージを抱いており、恵まれた環境は時に嫉妬の対象にもなる。

この最前線のオフィスにいる1人が、同社のCIO(最高情報責任者)、ベンジャミン・フライド氏だ。彼はグーグルの企業文化を醸成する上で、IT部門が中心的な役割を担っていると確信しており、様々な試行錯誤を重ねている。

そのうちの1つは、会社からの押しつけではなく、従業員が欲しいと思ったテクノロジーを提供することだ。これによってグーグルは、従業員の生産性や労働意欲の向上だけでなく、有能なプロフェッショナルをリクルートする際に大きな力を得られるとフライド氏は信じている。

この方策は、IT部門に対する不満を和らげることにもなる。「IT部門は製品やサービスの提供に長い時間と多額の資金を使っているにもかかわらず、自分たちのニーズを満たしてくれない」─。現業部門のエンドユーザーにそう感じさせないためにも、CIOやIT部門はもっと賢い意思決定をしていく必要があると同氏は主張する。

フライド氏は、前職の米証券大手モルガン・スタンレーでインフラのアーキテクトをしていた経験から、このような考え方や様々な教訓を得てきたという。CIO INSIGHTは彼にインタビューし、グーグルでの先進的な社内システム構築手法を聞いた。

CIO INSIGHT:これまで、金融とITという2つの分野を経験している。それらの職場で学んできたものは?

フライド氏:企業に競争力をもたらすのが自分たちの唯一の仕事だと考えているCIOは多い。だが私の見方は少し異なる。競争力強化の重要性が高まっているのは確かだが、競争優位性(Competitive advantage)を創出することは差異化(Differentiation)とイコールではないことを認識する必要がある。競争優位性は、他社との違いを際立たせるポイントの1つに過ぎないのだ。

ITが以前にも増して企業文化の一部として浸透してきていることを理解すべきだろう。ユニークな企業文化を作り上げることは、立派な企業を作り上げる取り組みの1部分である。自社がどんな企業かを明確に定義できるだけでなく、それが他社とは違うことが求められる。より良く、より安い製品を提供して他社に勝つ、という意味での競争力とは必ずしも同じではないかもしれない。だがITは企業を他社とは異なった存在に仕立て上げる機会を与えてくれるものだ。

CIO INSIGHT:差異化について、CIOが犯しやすい過ちにはどんなものがあるか。

フライド氏:インフラ増強へのこだわりを捨てることによる経済効果をあまり理解していないCIOがずいぶんといる。一般的には、インフラは差異化要因にはなりにくいと言われている。インフラを増強する際にも、増強によって得られる価値とリスクを勘案し、慎重に考慮する必要がある。

ITが企業に浸透した現在では、パケット通信の速さや、メール送信の簡単さに感謝の意を表す人などいない。多くのCIOはそういった些細な事柄をまず強化しようとする。CIOの時間には限りがあるというのにもかかわらず、である。

技術環境は大きく変わった
会社主導から社員主導へ

CIO INSIGHT:多くのCIOが差異化の将来像をつかめずにいる。それは彼らがテクノロジーに偏りすぎているからなのか?

フライド氏:時代の変化が1つの原因だろう。私たちの世代が初めて就職した頃(編集部注:1980年代半ば)は、もっとも優れたテクノロジーは会社からもたらされることが普通だった。当時はPCの値段は高く、性能も低い。家庭で職場より進んだ環境を整えようなどと考える人はいなかった。ネットワークやルーターも無かったのだから、なおさらだ。多くの人々は当時、会社のIT部門にはものすごい専門家がいて、どのテクノロジーを選択すれば良いかを正しく判断でき、それを従業員に与えてくれるものだという期待を持っていた。今では想像もできないことだが。

インターネットへ気軽にアクセスできるようになってから、状況は一変した。今の求職者は、職場よりも遥かに進んだテクノロジーを家庭で利用できる。家庭には職場にあるものよりも一回り大きなモニターがあるし、インターネットへの接続スピードもずっと速い。私が在籍したモルガン・スタンレーは以前、1.5メガビットのT-1回線を全社で2本用意してインターネットに接続していた。ところが、今や家庭でも20メガビットでインターネット接続が可能な時代だ。今の若い人は、自らがテクノロジーを選択し、会社が提供するものよりも格段に良い環境を手に入れている。昔とまったく反対の現象が起きているのだ。CIOがテクノロジーで差異化を図る難しさは、言うまでもないだろう。

モルガン・スタンレーは、グーグル検索アプライアンスのアーリーアダプターである。また、若いスタッフたちの多くはオフィスソフトとしてGoogle Appsを利用している。これは彼らが望んで利用していたものだ。それ以前に会社が提供していたアプリケーションはもっと高価だったが、それは必ずしも彼らが望んでいたものではなかった。望んでもいない物を与えてその能力をすべて引き出してほしいと考えても、決して長続きしないと悟ったのだ。

CIO INSIGHT:CIOはエンドユーザーが望むものを受け入れるべきだと。

フライド氏:認めたくないかもしれないが、私たちが決まりを作っても、エンドユーザーはそれとは違った方法を望んでいるのが事実だ。現在の人々は、仕事で使うテクノロジーは個人的なものだという感覚があり、思い入れも強い。IT部門が「あなたがたの仕事の効率をどうすれば上げられるかは、私たちの方がずっと良く理解している」などと言ったら、スタッフを馬鹿にしているようなものだ。従業員にテクノロジーを選択する権利が与えられておらず、また選択する能力もなかった環境で育った年代の人にとっては、やっかいな時代になったのかもしれない。

良い例が、私がモルガン・スタンレーに在籍していたころにあった。インターンシップの男子学生を受け入れたある夏のこと。彼は会社に来た翌日、自らのPCを会社に持参してきた。彼のPCの方が会社支給のものよりメモリー容量は大きいし、プロセサも高速。搭載しているソフトウェアも豊富だった。会社のLANも利用せず、自分が契約するプロバイダで接続するという徹底ぶり。そんな彼のインターンにおける成績はナンバーワンだったのである。

彼のような最先端を行く若者たちは、経営幹部への階段をロケットのように駆け上がっていくだろう。CIOを指揮下に置く立場になることもあるかもしれない。そのときに彼はCIOに、「私はあなたがたが提供してきたテクノロジーは何も使ってこなかったし、どれも尊敬に値しないと思っていた」というきつい言葉を浴びせるのかもしれない。

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