タイムリミットは2011年6月。いよいよIPアドレスの在庫が尽きると予測される時期が迫ってきた。IPアドレス枯渇問題の本質を改めて整理すると共に、IPv6を取り巻くハード/ソフトの環境整備状況や、IPv6の導入に当たり企業がクリアすべき課題を解説する。
現状─「2011年にも尽きる」専門家が予測
IPアドレスが足りなくなる──。IPアドレスの枯渇問題を指摘する声が、この1年で再び大きくなってきた。
ここでいうIPアドレスは厳密に言うと、現在インターネット上のサーバーや通信機器、端末を特定するのに使われている「IPv4」のアドレスである。IPv4アドレスは232=約43億個あり、インターネット上の機器に割り当てられる。
IPアドレスの割り振りは国際組織IANA(Internet Assigned Numbers Authority)が管理している。そのIANAが公開している割り振り状況を集計すると、約43億個あるアドレスのうち約89%がすでに使用されており、在庫は11%程度しか残っていない。
この状況に世界中の専門家が警鐘を鳴らしているわけだ。アジア地域においてIPアドレスを管理しているAPNIC(Asia Pacific Network Information Centre)のGeoff Huston氏の予測では、IPv4アドレスの在庫は2011年6月にも尽きるという(図7-1)。
枯渇問題の本質─ネット接続形態の変化と端末多様化で枯渇が加速
NPO法人の米Internet Systems Consortiumはドメイン情報を基にしたインターネット上のホストの台数を集計してきた。それによると、インターネットに接続されたホストの数は2003年頃から急増し、現在は約6億3000万台に達している(図7-2)。ただ、これでは約43億個のIPv4アドレスを一気に消費するには至らない。
IPv4アドレスの枯渇問題の本質は別にある。大きな要因の1つは、ADSLやFTTHが普及してインターネットへの接続形態が変化したことだ。インターネットに常時接続するユーザーが増え、それにほぼ比例する形でIPv4アドレスの在庫が消費されてきた。かつて主流だったダイヤルアップ接続は、インターネットに接続する間だけ端末にIPv4アドレスを割り当てる。このためユーザー数が増加しても、IPv4アドレスの在庫が一気に減ることはなかった。
今後は端末の高機能化と多様化もIPv4アドレスの枯渇に拍車をかけると予想される。パソコンだけでなく携帯電話やゲーム機、情報家電までもがインターネット接続機能を備え、IPアドレスを必要とするようになるからだ。
解決策─IPv6の早期実装でアドレス数を“無限”に
IPv4アドレスの枯渇を防ぐ方法はいくつか考えられてきた。未使用のアドレスを回収して在庫を増やすというのはその1つ。同一のIPv4アドレスを複数の機器で共有するNAT(Network Address Translation)技術の拡張も検討されてきた。しかし、いずれも「急場をしのぐ」ための対策に過ぎず、根本的な解決にはならない。
そこで期待されているのが“次世代”のIPv6だ。IPv6は約340澗(3.4×1036)個という、IPv4とは比較にならない数のアドレスを持てるため、長年指摘され続けてきた枯渇問題を一気に解消できる。それだけにIPv6を普及させようとする動きは、以前からあった。
そもそもIPv6は決して新しい技術ではない。現時点ではIPv4が主流のためあえて「次世代」と形容したが、IPv6の基本仕様は1990年代に策定されている(図7-3)。その後細かい修正や変更を重ねてきたが、基本仕様はほぼ初期のままである。
それにもかかわらず、なぜIPv6はIPv4に取って代わらなかったのか。最大の理由は、IPv4アドレスが今ほど逼迫しておらず、緊急性がなかったためだ。
IPv6アドレスを利用できるハードウェアやソフトウェアが整っていなかったこともある。IPv6アドレスを用いてインターネットに接続するためのシステム改修コストが負担になるとして、敬遠されてきた。
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