[BPM ビジネスプロセス革新実践ガイド]

BPMシステム化のステップガイド[前編]

第5章前編

2009年9月11日(金)ビジネスプラットフォーム革新協議会(BPIA)

第4章では「組織化」「業務の可視化」により、「人の手」によるBPMの実践方法を見てきました。これから説明する「BPMシステム化」では、情報システムを導入することによってBPMに取り組む具体的な方法を解説します。

1. 第5章を読む前に

多くの企業は現在、情報システムの構築に際して、業務部門の要求により業務パッケージ(ERPなど)を購入したあと、自社の業務に適合させるようカストマイズしたり、自社向けに個別のシステムを作り込んだりしています。しかも、カスタマイズやシステムの作りこみは外部のシステムインテグレーターや情報子会社に任せており、自社の情報システム部門は、業務部門からの要求を受けて、外部のシステムインテグレーターや情報子会社がシステム構築できるよう、システムに求められる機能要件の取りまとめや、既存の情報システムの運用のみ実施するケースがしばしば見受けられます。

背景には自社情報システム部門のスキル不足や人員の不足という事情もありますが、本質的な原因は、個々のシステムの仕組みがブラックボックス化されていることです。このため、システム機能を変更したり運用形態を変更する際に、自社情報システム部門はシステムの内部に手が出せず、実際に構築した外部のシステムインテグレーターや情報子会社に依存せざる得なくなります。場合によっては、構築した外部のシステムインテグレーターや情報子会社の技術者を、運用保守のために社内に常駐させねばなりません。つまり、自社の情報システムであるにもかかわらず外部業者に肝心な部分を握られ、環境変化に情報システムを迅速・柔軟に対応させてゆくことが難しくなるのです。

これに対してBPMのシステム化は、業務部門で実際に行われているビジネスプロセスを個々のプロセスもしくはサブプロセスごとに必要な機能を洗い出し、業務を遂行するための「一連の作業」として合理的な業務の流れを組立て、システム化します。言い換えれば、BPMシステムでは業務部門が必要とするビジネスプロセスをシステムとして構築するため、今まで情報システム部門担当者しか解らなかったシステムの動きが、業務部門の担当者にも理解できます。これにより今まで外部のシステムインテグレータなどに握られブラックボックス化されたシステムを、社内の情報システム部門と業務部門に取り戻すことができます。

さらにBPMシステムは、容易にビジネスプロセスを変更できるように構築されるため、PDCAサイクルに沿って既存のビジネスプロセスを改善し最適化させることが可能になります。また新しい流通ルートへの対応や新製品への対応など、企業をめぐる環境変化への迅速な対応を可能にし、競争優位確立への大きな力となります。

2. BPMシステム構築の特徴

1) 通常の情報システム構築とBPMシステム構築の違い

本論に入る前に、これまで情報システム部門が実施してきたシステム構築と、BPMシステムの構築との違いや特徴を明確にします。BPMシステム構築の特徴を理解することで、構築時のリスクを低減することが可能だからです。

通常の情報システム構築

一般的な情報システムの構築プロジェクトでは、特定の業務に必要な機能を対象にします。そのため、まず対象となる機能に関する要求仕様が業務部門から出されます。情報システム部門はその要求仕様を備えたシステムを構築します。システムの構築は通常以下のような順序で進められます。

  1. 業務部門の要求仕様から必要な機能をさらに詳細に洗い出し、現状業務を把握します。これを「機能要件」といいます。洗い出した機能要件を独立した機能の集まりに分解して整理します。そして機能と機能の間の関係を整理します。
  2. 業務に沿って情報の流れを整理し、データフローを作成します。データフローにしたがい、必要となるデータを格納するデータベースを設計します。
  3. 各機能がどのようにデータベースへアクセスするか、ユーザーインタフェースはどのようにするかといったアプリケーション設計をします。通常、各社で最初から構築することになりますが、機能によってはパッケージと呼ばれる既製品が利用可能な場合もあります。
  4. アプリケーション設計から実際のシステムを構築します。

このようにして構築したシステムは機能ごとにブラックボックス化されるため、情報システム部門以外の人はその中がどういう構造になっているのかを知ることはできません。

BPMシステム構築の特徴

これに対してBPMシステムの構築では、「ビジネスプロセス」という、業務を遂行するための「一連の作業」をシステム化します。そのため、BPMシステム構築は、「業務の可視化」のBPM活動でビジネスプロセスを「可視化」「最適化」「標準化」「共有化」していることが前提です。通常以下のように進めます。

  1. ビジネスプロセスに必要な機能を選択し、各業務に関わる既存のアプリケーションがあるか、データなど利用できる資産があるかを明確にします。
  2. BPMシステムはビジネスプロセスの改善を実現するためのものですから、対象となるビジネスプロセスに必要な機能に焦点を絞って機能を設計します。
  3. システム標準を明確にし、アプリケーション設計をします。その際、自社内にどういった種類のシステムが存在するのかを把握することが重要です。
  4. アプリケーション設計の結果からBPMシステムを構築し、BPMシステム上にビジネスプロセスを実現します。

このようにBPMシステムでは、業務部門が必要とする最適な一連の作業(ビジネスプロセスそのもの)をシステムとして構築するため、情報システム部門以外の人が見てもその動きが理解しやすいシステムが構築できます。

2) BPMシステムの構築体制整備

上記のように、BPMシステムの構築は今までの情報システム構築とは大きく異なります。そのため、BPMシステムの設計や運用時には、情報システム部門以外の人々によるサポートが大変重要です。BPMシステム構築時にも、「組織化」でプロジェクトのメンバーとして選出された業務実施部門や経営管理部門の担当者、プロセスオーナーが、実際にBPMシステムを構築するIT部門や社外の専門家であるベンダー、システムインテグレータ、コンサルタントと共に構築を推進する、強力な体制を作る必要があります。プロセスオーナーとは、一連の作業実施の責任者のことで、担当する一連の作業の有効性や効率性の改善、リスクマネジメントに対して責任を持ちます。

具体的には表1のような構築推進体制を整備します。

表1 BPMシステム構築体制
メンバー 役割
「組織化」で選出されたメンバー 全社スタッフの代表となる経営企画部門と実際に業務を実施する部門やプロセスオーナーです。この部門からのプロジェクト参画は必須です。さらにプロセスオーナーには部門間を仕切る力と権限、そして十分な人事権と予算が必要です。この体制があるかないかでプロジェクトの成否が大きく左右されると言っても過言ではありません。
情報システム部門 社内の情報システム部門の役割も大きなものがあります。現在稼働しているシステムの内容の確認、導入するBPMシステムの開発・運用、全社システムができあがったときの技術基盤の整合性の維持、既存システムとのスムーズな連携の実現には情報システム部門が中心となって活動する必要があります。
社外専門家 BPMシステム製品の知識、システムの構築(実装)における困難を知っている社外専門家の助力はプロジェクト遂行において必須です。ベンダーやシステムインテグレータ、コンサルタントなどの社外専門家は、より多くの事例を知り、トラブル発生時に対応するノウハウを多く持っているからです。

BPMシステム構築プロジェクトでは、これまで実施してきたBPM活動の方向性の再確認から開始する必要があります。プロジェクトに新たに加わる参加者に、これまでのBPM活動の目的や内容を徹底的に理解してもらう必要があるからです。BPMシステム構築にかかわる全メンバーが、今後活動する方向性を統一することで、効率的なBPMシステム構築ができます。

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