[イベントレポート]

オープンデータ時代のオープンソースとソフトウェアライセンス―OSCON 2009

オープンソースカンファレンス「OSCON 2009」開催レポート

2009年9月3日(木)堀田 有利江(ITジャーナリスト)

2009年7月20日から24日の5日間、米サンノゼでオープンソースカンファレンス「Open Source Convention(OSCON)2009」が開催された(主催はオライリーメディア)。ここでは、Web2.0の提唱者として知られるティム・オライリー氏と、グーグルのクリス・ディボナ氏の基調講演を中心に紹介する。Web、そしてOSSの最新動向の一端を理解頂けるはずだ。

OSCONが本格的に幕を明けた7月22日、主催者であるティム・オライリー氏が基調講演に登場し、大きく分けて2つのことについて語った(写真1)。1つは、同氏が現在注目しているインターネット業界動向。もう1つは、氏が最近仕事の一部として関わっている、ワシントンD.C.における米政府のテクノロジー政策に関する動向だ。

ティム・オライリー氏注目のセンサーとデータベース

ティム・オライリー氏 写真1 オライリーメディア創業者&CEOのティム・オライリー氏

まずは同氏が最近注目しているWebアプリとして、グーグルの音声モバイル検索サービスを例に挙げた。グーグルのモバイル音声検索は、非常にユーザビリティの高いアプリケーションで、キーボードを使ったり、居場所を指定したりしなくとも、例えば「ピザ屋」と声でつぶやくだけで、自分の現在地に近いピザ屋の検索結果を表示してくれる。そして同サービスは、海外旅行渡航先でも同様に容易に使える。

類似のサービスはこれまでもあり、ユーザーはさほど大ごととして受け止めたりはしていないようである。しかし、実際にこれを満足度の高いレベルで実現するには、背後で様々な工夫が必要だ。それが、いくつものセンサー技術の活用だ、とオライリー氏は語った。グーグルの音声モバイル検索では、タッチセンサーをはじめ、加速度センサー、電子コンパス、スピーチ認識技術など、様々なセンサー技術が搭載されている。

これに加えて重要な役目を果たしているのが、クラウド・データの利用だ。音声検索技術は、まだまだ発展途上にあり、これまで様々な音声認識サービスが開発されてきたものの、どれもキラーアプリといえるまで普及したものはない。多くの場合、ユーザーは自分の声を事前に登録しなければならないなど、使い勝手が悪かったのが1つの理由だ。

これに対して、グーグルの音声モバイル検索サービスが、自声の事前登録などせずとも満足度の高い検索結果を返せるようになっているのは、音声認識技術だけではなく、ユーザーが検索しそうな内容に関するデータベース情報を活用しているからだ。つまり、ここでキーになるのは、センサーとデータベースの組み合わせだ。

アップルのiPhotoやグーグルのPicasaなどで見受けられる顔認識サービスもセンサー技術の応用だ。これらは全て究極的にはデータベースにつながる。グーグルはオープンソース上で様々なアプリケーション・サービスを構築しているが、グーグルの本当の強さの源はデータベースにあるといえる。

米政府で高まるオープンガバメント・イニシアティブ

次にオライリー氏が語ったのは、米ワシントンD.C.におけるオープンソース、オープンデータへの取り組みについてだ。

バラク・オバマ氏が大統領に就任し、まず最初に打ち出したのは、オープンガバメント(オープンな政府)の方針だ。オバマ氏は、「政府は透明、コラボラティブ、かつオープンでなければならない」とし、彼の政権下の新CIO(最高情報責任者)に就いたビベック・クンドラ氏(前職はワシントンD.C.のCTO=最高技術責任者)は、政府のデータをもっとパブリックに公表していくという姿勢を打ち出している。データの民主化を図り、より多くのデータをパブリックドメインに置くことで、より多くのイノベーションの誕生を活性化しようという方針だ。

こうした国家レベルでのイニシアティブを背景に、米国ではワシントンを中心に、オープンソース、オープンデータ化の動きが活発化し始めている。同カンファレンスに出席していたオープンソース開発者の中でも、すでに多くの人々が、同イニシアティブに関わり始めているように見受けられた。

例えば、米政府のシステムは、調達システム1つをとっても、非常に複雑で難解なものだ。では実際にどうしたら、適切なスキルを持ち合わせたオープンソースコミュニティの開発者が、契約でがんじがらめなワシントンD.C.独特の複雑なエコシステムに関わることなく、政府プロジェクトにより容易に関わることができるだろうか。そうしたシステムを実際に構築しようとする取り組みが始まっている。

こうした取り組みについてオライリー氏は、「これはDIY(Do It Yourself)ではなくて、DIO(Do it Ourselves)だ」と表現した。

そして、こうした考え方はそもそも、フリーソフトウェア財団(FSF:Free Software Foundation)が最初に掲げたミッションでもあったと言及した。フリーソフトでUNIX互換ソフトウェア群を開発するプロジェクト、GNUよりもさらに以前、FSFが始まったその根源にあった使命だ。そして、「我々が政府に求めているのは、社会の様々な問題を完璧に解決するソリューションプロバイダーとしての政府ではない。我々自身が問題解決に取り組めるようにするためのツールとオープンなプラットフォームの提供だ」と氏は語った。

考えてみれば、そもそも政府とは市民によるアクションの集まりだ。つまり、Web2.0ではコレクティブインテリジェンス(集合知)という考え方がベースにあったが、ここではガバメント2.0として、コレクティブアクション(集合アクション)という考え方がベースになっている。そして今、米政府には、オープンソース技術者にとってこれまでに無い様々な新しい機会があるということが示唆された。

このように、オープンソースの根源にある考え方は、社会の集合知、アクションが集まるワシントンにも広まりつつある。そして、オープンソースは、ソフトウェア開発のみならず、社会全体のオープン化のツールに進化しつつあることが伺われた。

表 オープンソースソフトウェアの主要なライセンス形式
名称 / 採用するソフトや団体 概要
GPL(GNU General Public License) /
Free Software Foundation
ソースプログラムとともに配布することが条件。コピーあるいは改編して再配布することも自由だが、その際には同じくGPLに従わなければならない。使用において、非フリーのモジュール(ライブラリ)とのリンクは認めない
LGPL(GNU Lesser General Public License) /
Free Software Foundation
上記のGPLに準じながらも制限をやや緩和した派生ライセンス。ダイナミックリンク(実行時呼び出し)での使用の際、GPLに必ずしも従わなくてもよい
AGPL(GNU Affero General Public License) /
Free Software Foundation
ソフトウェアの機能をネットワーク越しにサービスとして利用することを想定したライセンス。利用条件の中に、ソースコードをダウンロード可能な状態にする条件を盛り込める
Mozilla Public License /
Mozilla Foudation
Firefox、Thunderbirdなどに適用されているライセンス。基本的にはGPLに近いが、使用者の便宜を優先した柔軟性を重視する条項を盛り込む
BSD License /
BSD系UNIXなど
無保証・免責を明言し、再配布する際に著作権を表示することを条件とする。ソースコードの公開は任意であり、そのため商用で使いやすい側面がある
Apache License /
Apache Software Foundation
BSD Licenseをベースとしたライセンス。「Apache」という商標を使用する際の付加条項がある
MIT License /
マサチューセッツ工科大学系のフリーソフト
BSD Licenseをベースとしたライセンス。初期のBSDライセンスには開発者への謝辞を表示する条項があり、これを省いている

グーグルのプロジェクト責任者はGPLv3とAGPLの動向に注目

クリス・ディボナ氏 写真2 グーグルのオープンソース・プロジェクト責任者、クリス・ディボナ氏

翌日の基調講演では、グーグルのオープンソースプロジェクト責任者、クリス・ディボナ氏が登壇(写真2)。オープンソースに関する様々な統計データを紹介した。

話題の中心となったのは、ライセンス形式の動向である。同社は、カスタマイズしたオープンソースソフトウェアを使ってオンラインビジネスを大々的に展開しているだけに、オープンソースライセンスに対する詳細動向に関しては敏感にトレンドをウォッチしているようだ。そして、複雑化するビジネス環境に対応する上で、オープンソースソフトウェアライセンスの多様化を支持している姿勢が伺われた。

例えば、グーグルが様々な開発を進めているcode.google.com内の22万5000プロジェクトにおけるライセンス形式の種類は、GPLが43%、LGPLが8%、Apacheが24%、MITが9%、BSDが8%という内訳になっている(各ライセンス方式については表を参照)。

一方で、現在世の中で使用されている無料ライセンス、いわゆるFLOSS(The Free-Libre / Open Source Software:フリー/オープンソースソフトウェア)全体における内訳は、GPLが48.76%、Mozillaが20.25%、BSDが13.65%、Apacheが6.7%、MITが6.28%とのことだ。2008年と2009年の動向を比較すると、全体的なシェアに大きな違いはなく、GPLはほぼ横ばいだったようだ。

GPLについては、最新版の「v3」が2007年6月にFSFからリリースされた。DRM(デジタル著作権管理)関連の昨今の状況への適応やApache Licenseとの互換性などを盛り込み、GPLv2(1991年)から約16年ぶりとなる改訂版だ。ドラフト版公開当初は、特許やDRMに関する変更などに関連して賛否両論が巻き起こり、修正を加えてようやく正式リリースに至った。

「リリースからまだわずか(2年程度)にもかかわらず、code.google.com内ではGPLプロジェクトの半分近くがv3に分類されるようになっている。これは素晴らしいことであり、非常に重要なことだ」とディボナ氏は強調した。

同氏は、AGPL(Affero General Public License)についても言及。これは2007年11月にリリースされたライセンス方式で、ネットワークを介した使用など通常のGPLでは想定していなかった状況に対応する条項を盛り込んでいる。AGPLは、全体的なシェアはまだ0.17%、ファイル数は1万5404と微小に留まっている。しかし、こうした状況を変えていくのは、ここにいる開発者1人ひとりだと、ディボナ氏は述べた。

展示会場でオープンソース関連書籍の著者と交流

展示場には、FSF、LINUXファンデーション、Apacheソフトウェア・ファンデーション、PostgreSQL、Ubuntu、Phythonやグーグルなどがブースを構えていた。入り口近くの一番目立つところにマイクロソフト、インテルがブースを構えていたほか、アマゾンとフェースブックも、会場でリクルーティング活動を行っていた。

最終日には、オープンソース関連出版物で知られるオライリーメディアのオープンソース関連出版物の著者たちが、オライリーメディアのブースに集まり、カンファレンス参加者との交流の機会が持たれた。集まった著者の中には、Perlの著者として著名なラリー・ウォール氏とランダル・シュワルツ氏や、セマンティックウェブやコレクティブインテリジェンスの著者などが集っている姿が見受けられた。

「OSCON 2009」展示会場入り口 写真3 「OSCON 2009」展示会場入り口
「セマンティックウェブ」の著者3人 写真4 「セマンティックウェブ」の著者3人
堀田 有利江 シニアアナリスト
インプレスR&D/インターネットメディア総合研究所
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オープンデータ / OSS / Linux Foundation / PostgreSQL / Apache / Google / ITエンジニア / 音声応答

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