[技術解説]

早わかり!Windows Azureの全体像─企業システムとクラウドを継ぎ目なく連携

2010年2月16日(火)IT Leaders編集部

米マイクロソフトが2009年11月に詳細を発表したクラウドコンピューティングサービス「Windows Azure」。2010年1月から商用サービスが開始されたが、発表内容が多すぎて、今ひとつ全体像を把握しにくい。そこで発表内容を簡潔にまとめた。

2009年11月に米国で開催した開発者向けカンファレンスの場で、米マイクロソフトは「Windows Azure」の全体像を明らかにした(本誌2010年1月号p14「クラウドの真価を示す新しいアプリケーション像」参照)。

一言で言えば、情報システムの開発から稼働、運用に必要なあらゆるITリソースを統合した基盤をクラウド上に用意し、ユーザーが保有する既存システムと連携させるものだ(図)。「オンプレミス(自社保有)か、それともクラウドか」という二者択一ではなく、「オンプレミスも、クラウドも」という、大半のユーザー企業にとって現実的な方向性を具現化しようとしている。札幌スパークルの桑原里恵システムコーディネータは、「オンプレミスとプライベートクラウド、パブリッククラウドの3つをシームレスに組み合わせ、アプリケーションを構築することを、ごく当然の姿として位置づけた」と評価する。

図 PDC09で公表されたWindows Azureのオーバービュー
図 PDC09で公表されたWindows Azureのオーバービュー(図をクリックで拡大)

Azureにおいて、マイクロソフトが重視しているのがデータの所在だ。SQL Azureはもとより、オンプレミスのSQL ServerとSQL Azureを連携させるData Sync、キーバリュー型データストアであるWindows Azure Storage、さらにパブリックに近いデータを活用するためのPinpointやDallas(開発コード名)などを用意した点に、同社が考える次世代情報システムのイメージが見て取れる。

開発者向けのPDC(プロフェッショナル・ディベロッパー・カンファレンス)で発表したことにも意味がある。会場で折に触れ強調したのが、「Call to action(動きだそう)」や「Make the applications(アプリケーションを作ろう)」といったフレーズ。クラウドの利用だけを重視するのではなく、クラウド時代の新たなアプリケーションを作るべきという意図がある。クラウドの真価を発揮させるには、その特性を生かした新たなアプリケーションが必要というメッセージだ。

なおPDCでは、Windows LiveやOffice Onlineなどのサービスへの言及はほとんどなかった。この点でAzureの全体像が完全に見えたとは言えないが、これらについては判明次第、お伝えする予定だ。

以下、Windows Azureを構成する主要な要素を解説する。

AppFabric

正式名称はWindows Azure Platform AppFabric。2008年11月のAzure公表段階では、.NET Servicesと呼ばれていた、アプリケーションの開発・実行環境である。Windows Azureの中核を成すものと言っていい。

アプリケーションサーバー機能(開発コードDublin)、分散型キャッシュプラットフォーム(同Velocity)、サービス同士を連携して稼働させるApp Fabric Services Bus、各サービスに対するアクセス権を管理するApp Fabric Access Controlなどから構成される。Active Directoryと連携するID管理や、ワークフロー機能も計画されている。オンプレミス側には、これに対応する形でWindows Server AppFabricが用意され、クラウド側とシームレスに相互連携する。

Windows Azure Virtual Machine

米Amazonが提供するEC2と同様の仮想サーバー提供サービス。スモール、ミディアム、ラージ、エクストララージの4タイプが用意されている(表)。WindowsAzureでは稼働しない、または単純にクラウドに移したいアプリケーションの稼働に向く。Amazon EC2との違いはWindows Server専用であること。Linuxのインストールはできない。

表 Windows Azure仮想マシンの料金体系
表 Windows Azure仮想マシンの料金体系

Windows Azure Storage Services

Azure上のストレージサービス。Google App EngineのBigTableや、AmazonのストレージサービスS3に相当する。実体はBLOB(バイナリラージオブジェクト=文書や画像ファイルなど)、テーブル(表形式データ)、キュー(トランザクション)といったデータをサポートする、キーバリュー型のデータベースである。このサービスをNTFSであるかのように見せる機能もサポートされる。

SQL Azure

SQL Server 2008 R2をベースに開発されたAzure上のRDBMS。2008年のAzure公表段階では、SQL Servicesという名称だった。SQL Server との互換性が特徴で、マイクロソフトのSQL言語「T-SQL」や、ODBC、ADO.NET、PHP言語などを利用してアクセスできる。

クラウド上のサービスだけに、高可用性やスケーラビリティのほか、マルチテナンシーなども提供する。

SQL AzureとオンプレミスのSQL Serverをファイアウォール越しに接続。自動的に同期させるSQL Azure Data Syncも用意する。

Microsoft Pinpoint、Dallas

Pinpointは専門企業やアプリケーション、プロフェッショナルサービスを検索するためのオンラインストア・サービス。例えば、CRMやセキュリティなどの専門ベンダーを検索できる。ユーザーとベンダーのマッチングサイトとも言える。

DallasはPinpointの一部で、データのオンラインストア。地図データや統計データなどを検索・購入できる。当然、Azure上でマッシュアップして使う前提だ。

Silverlight 4

ブラウザなしで稼働するRIA(リッチインターネットアプリケーション)ソフト。クライアント側で印刷やリッチテキストの処理を行える。クリップボードも備え、バーコードリーダーやウェブカムといったデバイスもサポートする。マイクロソフトが提唱する「3つのスクリーン(PC、スマートフォン、TV)に対して均質なユーザー体験をもたらす」というビジョンを具現化するキーコンポーネントである。

関連キーワード

Azure / Microsoft / IaaS / PaaS / Windows / SQL Server / Silverlight

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