運用管理やバックアップといった分野での知名度の割に、骨太の製品戦略が見えにくいベンダーの1社が米CAだ。2010年1月に会長兼CEOに就任したばかりのウィリアム・マクラッケン氏に、率直な質問をぶつけてみた。(聞き手は本誌編集長、田口 潤)
─ITの世界は今、どの方向に向かおうとしていると認識しているか。
今、まさに大きな転機を迎えている。クラウドの流れだ。これは一過性のものではなく“本物”だと考えている。
かつて、大企業においては、開発案件のバックログを7年分も積み残しているという話がざらにあった。そんな状況で企業がビジネス環境の変化に即応できないのは自明である。経営者がビジネスを変えたいと考えた時、18カ月でもなく、6週間でもなく、ただちに行動を起こせる時代が到来している。とりもなおさずクラウドあればこその話だ。
一方で、セキュリティの面で心配はないのか、本当にコストメリットが得られるのか、サービスレベルは保証されるのかといった懐疑的な声も根強い。こうした疑念を取り払う上でCAが長年培ってきた知見が生かせる。
─その割には、他のベンダーに比べて、仮想化やクラウドに対するメッセージが弱い気がする。
今まさに製品ラインナップも含めたメッセージを取りまとめているところだ。クラウド関連のM&Aも積極化しており、足場固めを急いでいる。2009年11月にはネットワーク性能管理のNetQoSを、また今年になってからはサービスレベルマネジメントのOblicoreを1月に買収し、さらに2月には仮想化環境でのシステム構築ツールに強い3Teraの買収が最終合意に至った。
こうした先進的な技術と、CAがかねてから蓄積してきた運用管理やITガバナンス、セキュリティといった技術を統合し、顧客にとって信頼できる、そして運用に手が掛からないソリューションを提供していく考えだ。
クラウド関連製品のポートフォリオについては、5月に開催するイベント「CA World 2010」の会場で最終的に明らかにするので、それまでは待ってほしい。
─仮想化やクラウドを軸に大手ベンダーの合従連衡が相次いでいる。
IBMやOracle、HP、Microsoftなども、もちろん虎視眈々とこの市場を見ているだろうし、当然ながらクラウド環境の運用管理ツールにも力を入れるだろう。自社製のハードやDB、OSといった製品を持つベンダーは、自社製品一色の垂直統合を推進しがちだ。
ここで我々は管理ツールを中心とした水平展開を貫いている点が異なる。ユーザー企業が単一ベンダーに統一するのは非現実的だ。これまでのノウハウを生かした技術力に加え、メジャーなハード、ソフトとのインタフェースを取り揃える「中立性」で、当社の価値を訴えていきたい。
─日本市場を、どう見ているか。
米国に続く第2の市場として期待は大きい。多少のタイムラグや企業文化の違いはあるかもしれないが、新潮流へのシフトに伴うポテンシャルは高いはずだ。私が1月にCEOに就いた後、この早いタイミングで来日したのも、その表れだ。
これは日本市場に限ったことではないが、我々はクラウドだけに軸足を置くわけではない。仮想化、セキュリティ、SaaSはクラウド時代に向けた重要なピースだが、一方でそれぞれが大きな市場であり重点を置くべきテーマと位置付けている。さらに、メインフレーム分野も見過ごせない。これら5つの柱のバランスを考慮しながら、IT業界におけるCAの存在感を高め、ユーザー企業に貢献していくのが私のミッションだ。