株価上昇に向け3スクリーン+クラウドの実現性が問われる[マイクロソフト MSFT]
2010年8月23日(月)長橋 賢吾(フューチャーブリッジパートナーズ 代表取締役)
マイクロソフトといえば、言わずと知れた世界最大のソフトウェア企業だ。だが6月には、iPadを発売したアップルに時価総額で抜かれるなど、いささか元気がない。はたしてマイクロソフトは今後どうなるのか? 今後の業績を踏まえて考えてみよう。
マイクロソフトの事業構成
WindowsやOffice製品のイメージが強いマイクロソフトは、次の5事業を持つ。(1)Windowsライセンスを提供するクライアント部門、(2)OfficeやDynamics製品を提供するMicrosoft Business Division(以下、MBD)、(3)検索エンジンBingやコミュニティサイトMSNといったオンラインサービスを提供するOnline Service Business (以下、OSB)、(4)家庭用ゲーム機Xbox 360や携帯音楽プレイヤーZuneを提供するEntertainment and Devices Division(以下、EDD)、および(5)Windows ServerやSQL Serverを提供するServer and Tools部門(以下、STB)である(クラウドサービスのAzureはSTB傘下の事業)。
2010年6月 | 北米ゲームショーE3でモーションコントローラ「Kinect」および新型Xbox 360を発表 |
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2010年5月 | 「Office 2010」を発売 |
2010年4月 | ソーシャルネットワークに特化したスマートフォン「KIN」を発表 |
2010年2月 | スマートフォンプラットフォーム「Windows Phone 7」を発表 |
2010年2月 | Yahoo!との検索事業提携について米国政府、EUから提携の許可 |
2010年1月 | HPとクラウド分野で提携、3年間でクラウド移行のために2.5憶ドル投資を表明 |
2009年12月 | 欧州委員会とIEの反トラスト法訴訟で和解 |
稼ぎ頭のクライアント部門
図表1の部門別営業利益推移から明らかなように、同社の利益のほぼすべてがクライアント部門、MBD、STBによるものである。企業の事業構成は一般に、利益を生み出す事業(キャッシュカウ)でキャッシュを稼ぎ、それを成長分野・新規分野に投資するべきと言われるが、その典型例といえるだろう。
その中における最大のキャッシュカウはクライアント部門、すなわちWindowsの事業だ。前期(09年6月期)は、Windows VistaとWindows 7リリースの端境期だったため、クライアント部門の売上高は前年同期比△12・7%減少した。今期(10年6月期)はWindows 7の堅調な販売により、前年比+35.2%の大幅増収の見通し。第3四半期決算カンファレンスコールにおいて、同社のPeter Klein CFOは、「すでに世界のPCの10%にWindows7が搭載されている。これは過去のWindowsで最も早いペースだ」とコメント。実際、Windowsの競争相手は、Mac、Linuxくらいであり、かつビジネス向けデスクトップPCではWindowsが独占的なシェアを有しているため、値下げ競争になりにくい。ゆえにクライアント部門の営業利益率は約75%と、驚異的な高さを維持している。
これを背景に同社は多額の研究開発投資を実施している。例えば09年6月期の実績は90.1億ドル(1ドル90円換算で8109億円)。米Googleのそれが28.4憶ドル(09年12月実績)なので、絶対額で3倍の水準だ。もちろん研究開発費を投じたからといって、すぐに売上に結びつくことはないが、研究開発→新しい技術の強化→製品としてリリース→競争力の強化、というポジティブスパイラルを実現する必要条件であることは確かだ。
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