ニューヨークダウ平均株価が1万ドルを割るなど、世界景気の2番底を懸念して、大幅に株価が下落している。そんな中EMCの株価が堅調だ。その理由を同社の業績、株価をもとに追っていこう。
基本戦略は「トリプル・プレイ」
企業戦略という点では、EMCは極めて明快だ。戦略の考え方として、 同社では“トリプル・プレイ”と表現している。すなわち、(1)マーケットシェアを上げる、(2)将来への投資を実行する、(3)収益性を改善する、というものだ。まず、(1)マーケットシェアについて。図1に示すように同社の売上高の80%近くはストレージ、主に、ハイエンド、ミドルレンジ向けの外部ストレージ機器がメインであり、同社の世界マーケットシェアは、およそ25%と、IBMやHPをおさえて世界首位をキープしている。

VMwareなど仮想化への投資が奏功
このマーケットシェアを維持するために必要な要素が、(2)将来への投資であり、これはa)M&Aとb)研究開発の2点がメインだ。a)M&Aで特筆すべきは、やはりVMwareの買収だろう。2003年、同社は当時は無名とも言えるVMwareを6億3500万ドルで買収した。そのビジョンは明確で、サーバーとストレージの仮想化、当時は別々に実現されていた仮想化をEMCが収束(コンバージェンス)させるというものだ。
その後、このビジョン通りにサーバーとストレージの仮想化が加速したのは言うまでもないだろう。VMwareも急成長して2007年8月にIPOを果たし、現在では時価総額326億ドルと、EMCの時価総額372億ドルに迫る勢いだ。VMware単独の成長もさることながら、EMCとの相乗効果も出ているようだ。「VMwareの顧客はストレージに他のベンダーではなくEMCを選ぶ傾向がある」(10年第2四半期カンファレンスコールでのDavid Goulden CFO)。実際に、VMwareが提供するストレージAPIに完全に対応しているのはEMCだけであり、顧客がVMwareを導入→あわせてEMCの外部ストレージ機器を導入→相乗効果によるマーケットシェアの拡大、というポジティブ・スパイラルを生み出している。
このほかにもEMCは2003年以降、情報セキュリティや仮想化、システム管理サービスなどの企業を40社以上、投資額にして9000億円を超える買収を実施してきている。最近の買収で注目されるのが、2010年7月のデータウェアハウス用エンジンを提供するGreenplum社の買収だ。その背景としては、EMCのDWH分野での収益がまだまだ低いこと、および先月号で紹介したOracleのExadataなど各社がDWH分野でソフトウェア、ハードウェアを融合したアプライアンス製品を提供していることがある。EMCはGreenplum社を買収することで、その機能を自社のハードウェアに取り込む狙いがあると見られる。
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