独SAPの株価が踊り場を迎えている。2010年10月26日に年初来高値38.7ユーロを付けた後は軟調に推移。著作権侵害をめぐってSAPがオラクルに賠償金を支払う点も嫌気され、11月29日には35.9ユーロとおよそ7%下落した。今後、同社の株価はどう推移するのか、業績を踏まえながら考えてみよう。
ERP以外にも裾野を広げるSAP
SAPはERPパッケージ最大手だが、図1から明らかなようにERPのライセンス売り上げは意外に小さい。ERPのサポート収入が半分近くを占めるほか、前期(09年12月期)は2008年に買収を完了したBusiness Objects(以下、BO)、今期は2010年5月に58億ドルで買収したSybaseの売り上げが加わっている。
今後、SAPは買収によってどこまで裾野を広げるのか。共同CEOのジム・スナーベ氏は10年12月期第3四半期の決算説明会で、こう話している。「At SAP we are not consolidators, we are innovators(SAPは統合者ではない。イノベータだ)」。Sunを買収し、ハードからソフトまでを総合するライバルのオラクル=consolidatorsと異なり、SAPはソフトウェア技術でイノベーションを起こすという主張である。
その具体像として、SAPが最近強調しているのが、「オン・デマンド、オン・プレミス、オン・デバイス」の3つだ。
SAPの3つの成長戦略
オン・デマンドとはERPをSaaSとして提供する「Business ByDesign」の新バージョンのリリース(10年7月)。本誌12月号に解説があるが、マルチテナント対応、モバイルによるアクセスなどが旧バージョンから進化した点である。
ただし、(1)ByDesignのターゲットである中小企業においてSAPは十分なマーケットシェアを獲得していない、(2)現在は中国、フランス、ドイツなど6カ国での展開にとどまる(日本では2011年後半サービス開始予定)、という2つの理由から、当面は収益の柱になるとは想定しにくい。
一方、オン・プレミスの領域では、SAPはインメモリーでのデータ処理に注力している。これはデータ圧縮やメモリー価格の下落を生かすなどして、通常はハードディスクに格納するデータをメインメモリー上で処理。リアルタイムのデータ分析や、それに基づく業務支援を可能にするものだ。「なんだ、それだけのことか」と思われがちだが、淡々とデータを処理するだけだったERPの活用法を、大きく変える可能性がある。これを実現するために、SAPはIBMやHP、富士通などのハードメーカーと協業して、BI用アプライアンス「HANA(High-Performance Analytic Appliance)」を、2011年にリリースする計画である。
最後のオン・デバイスは、端末機器を問わずSAPのアプリケーションにアクセスできるようにするもの。一例がクレジット機能を備えたスマートフォンである。クレジットの決済情報をSAP ERPに転送すれば、例えば交通費やホテル代の会計処理を発生時点で終えることができる。現時点でも、作り込めば実現可能だが、SAPはパッケージ・ソリューションでそれを実現しようとしている。もちろんスマートフォンで受注データを入力したり、最新の経営状況を把握したりできるようにもする。
そのための手段がSybaseの買収だ。日本ではデータベースの印象が強いSybaseだが、実際にはセキュアなモバイル技術に強みを持つ。最後までオラクルと買収合戦を演じたところに、モバイル分野で優位性を確保したいSAPの意向が読み取れる。
2010年11月 | オラクルに対するソフトウェア著作権侵害で13億ドルの賠償金支払いの判決 |
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2010年7月 | SaaS型ERP「SAP Business ByDesign2.5」の発売 |
2010年5月 | データベース/ミドルウェアベンダーのSybaseを58億ドルで買収 |
2010年4月 | 環境・衛生ソリューションに強みをもつテクニデータを買収 |
2010年2月 | レオ・アポテカー氏がCEOを退任、ビル・マクダーモット氏、ジム・スナーベ氏が共同CEOに |
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