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深層学習で未知の安定結晶を高速に発見─Matlantisが原子レベルシミュレーターの新機能を提供

2026年2月3日(火)IT Leaders編集部

深層学習が革新をもたらしているのは生成AIに限らない。原子・分子スケールにおける物質の組成や結晶構造、それらに由来する機能や物性を予測・探索する領域でも、ディープラーニング(深層学習)は不可欠な技術となりつつある。有名なのがバイオ分野でタンパク質の立体構造を予測する「AlphaFold」だ。そんな中、深層学習で原子レベルのシミュレーションを高速化するクラウドサービスを手がける日本のAIスタートアップ、Matlantisが、汎用原子レベルシミュレーター「Matlantis」において新規の無機材料の発見に貢献する新機能を開発し、2026年1月28日に提供を開始した。

 通信デバイスの性能を大きく向上させる新素材、柔軟かつ軽量で高効率な新しい太陽電池、人工光合成により水とCO2から燃料や化学品を作る光触媒材料(半導体材料)──。世界各国で、こうした“新規無機材料”の開発競争が行われている。すぐれた材料を開発できれば、多大な経済的価値をもたらすからだ。

 しかし、新しい無機材料を創り出すのは極めて難度が高い作業である。詳細は省くが、通常は複数の元素(5元素以上)を組み合わせて必要な機能・性能を発揮する材料を発見する。候補になる元素は118種あるので、5つを選ぶ組み合わせは約1億7500万とおりにもなる。

 有望な組み合わせをリストアップできたとしてもそれだけでは不十分で、材料として安定的に存在する結晶構造を見つけ出す必要がある。その作業では膨大な組み合わせの中から現実に存在しうる結晶を特定しなければならず、実験と計算の両面で多大なコストと時間がかかる。このため「新規無機材料の探索は砂漠で1本の針を探すようなもの」と言われる。

 このような難題に対し、Preferred Networks(PFN)と大手石油会社のENEOSの合弁会社であるMatlantis(マトランティス)は、未知の安定結晶を圧倒的なスピードで発見する汎用原子レベルシミュレーターの新機能「Matlantis CSP」を開発し、2026年1月28日より提供を開始した。

 CSPはCrystal Structure Prediction(結晶構造予測)の略で、どの元素原子がいくつあるかといった化学組成から、物質がどのような3次元構造で結晶化するかをコンピュータで予測する方法である。Matlantisによると、既存のCSP手法には、主に以下の3つの課題があるという。

①DFT計算(電子状態計算)による構造評価は1構造あたり数時間を要する
②組成を変化させながら探索すると特定の組成にサンプリングが偏り、網羅的な探索が困難
③入力パラメータの設定や計算環境の管理が非常に複雑で、専門知識が必要

 これらの課題に対し、Matlantis CSPでは、Matlantis自身が開発した「汎用原子間ポテンシャル(PFP)」という計算手法や、網羅的で高効率な探索を可能にする最適化アルゴリズムを組み合わせて解決している。

 PFPは、深層学習を用いて量子力学計算に匹敵する精度と、従来の数万倍の計算速度を両立させた汎用的な計算ツール。従来は数日要した処理を数秒~数分に短縮する。さらに最適化アルゴリズムは、PFNが開発したオープンソースのライブラリ「Optuna」をベースにしており、多様性を保ちながら組成空間全体を偏りなく探索できるようにした。

 同社は、Matlantis CSPを専門的な計算環境の構築を必要としないクラウドサービスで提供する。用途によって使い分けられるよう、原子数や組成比を固定せずにゼロベースで未知の新構造を発見するモードと、既存の構造の一部を入れ替えて性能向上を狙うモードの2つを用意した。実践的な計算手順を網羅したサンプルコードも提供しており、元素名を書き換えるだけで探索を開始できるという。

 すでに活用実績として、酸化物や合金などの系において10以上の未知の新結晶を発見している。例えば「Ga-Au-Ca」系では13個の新しい結晶が見つかり、既存データベースの相図が大きく更新されたという。(図1)。

図1:新規に発見された結晶構造候補(出典:Matlantis)
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 Matlantis CSPの早期導入ユーザーである本田技術研究所は、「これまで計算コストの制約で十分に検討できなかった多成分系や準安定構造まで含めた探索が現実的になった。実験前の段階で有望な結晶構造を高精度に絞り込めることは、開発期間の短縮につながる」とコメントを寄せている。

 Matlantisは、今回の発表のように、AI/ディープラーニングを活用して原子レベルのシミュレーションを高速化するクラウドサービスを開発・提供している。元々はPreferred Computational Chemistry(PFCC)という社名だったが、2025年7月に提供サービス名に合わせて現在の社名に変更している(Material[材料]とAtlantis[伝説上の大陸]を組み合わせた造語)。

 同社は、今後も現場の研究者のフィードバックを反映しながら機能を改良し、新材料の早期実用化に貢献していくとしている。

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ディープラーニング / 化学 / R&D / Preferred Networks / ENEOS / マテリアルズインフォマティクス

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