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基幹系システムにおけるアジャイル開発─コミュニケーションを軸としたプロジェクト管理

2010年10月28日(木)一橋 範哉(ウルシステムズ シニアコンサルタント)

Web連載の第3回である本稿では、アジャイル開発におけるプロジェクト管理に関して、成功のために必要な考え方を述べていく。

アジャイル開発におけるプロジェクト管理は、従来のウォーターフォール型開発と比べて特別に変わったことをするわけではない。計画を立案し、進捗を管理し、必要な対処をするという基本は変わらない。一番の違いは「計画の見直しを短サイクルで実施して状況に適合させる」というところである。

アジャイル開発では当初の計画からの変更を許容し、自律的なチームによって課題を解決していくことが必要となる。この際に必要となる考え方は次の3つである。

  • 状況の把握と柔軟な打ち手のためのコミュニケーション基盤を作る
  • 多様性のあるチームを成長させて能力を高める
  • 2種類の計画を使い分けて顧客と合意する

コミュニケーションによってプロジェクトの状態を把握する

アジャイル開発を進めていく上でもっとも中心とすべきことは、プロジェクトの状況を迅速に把握した上で、プロジェクトに携わるすべての人々と、システム開発の成功について同じイメージを共有することである。そのためには、開発チーム内、および顧客を含めたプロジェクト内で、日々のフェース・ツー・フェースのコミュニケーションをいかに確保するか、時間を有効に活用するために質をいかに向上させるか、といった点が重要になる。

開発チームの中におけるコミュニケーションの基礎となるものは、毎朝のミーティングである。特に以下の点に注意して実施する(図1)。

  • 決まった時間・場所で開始する
  • チームメンバーが立って実施し、短時間で済ませる
  • リーダーからの一方的な連絡ではなく、必ずすべての人間が発言する
  • 昨日の作業内容と今日の作業予定、現在困っていることを述べる
  • 議論になるような内容については別の時間を用意し、ミーティングを長くしない
図1 朝のミーティング
図1 朝のミーティング

ミーティングの目的は、チームとして問題を解決していくための土壌である情報共有の場を構築することである。チームでの作業にリズムを与えるため、毎朝決まった時間に決まった場所で開始する。移動の無駄を省いてミーティング終了後すぐに作業を始められるように、座席の近くのスペースに円を描くように集まるのが望ましい。

リーダーからの一方的な連絡ではなく、すべてのメンバーが口を開くようにするのも大事だ。短い時間の中で現在の作業状況に対する考えや、プロジェクトへのモチベーション、問題の存在有無などを把握する。メンバーの発言時には、顔を上げて話せているか、声は小さくないか、眠そうではないか、といった非言語の要素にも注目する。

メンバーには、各自の細かな進捗状況よりも、困っていることにフォーカスして短めに発言させる。逆に新たに発見した優れた方法などポジティブな情報も歓迎すべきである。作業に関する質問や議論が必要な内容については、ミーティング後の時間に話すようにスケジューリングし、ミーティングを長引かせない。あくまでチームとしてのゴールを共有するために必要な情報に的を絞って発言することを意識する。

次に、プロジェクトに関わるステークホルダー同士のコミュニケーションにも気を配る。顧客と設計者、設計者と開発者間でプロジェクトにおいて必要な情報を即座に伝達しあう。これが顧客と協調してソフトウェアを構築していくための基盤となる。

構築するソフトウェアの要件を決定する「顧客」には、できる限り開発チームと同じ部屋、もしくは近い場所にいてもらう。要件検討時の設計者との打合せを短時間で密に実施し、実装開始後に曖昧な仕様に関して開発者から問い合わせがきた場合には、顧客にすぐに質問して明確にする。アジャイル開発では動くソフトウェアを提供して確認することを優先する。そのため、設計や実装に入ってからも仕様の曖昧さが残ることがある。仕様確認のため開発に待ち状態が発生して開発効率を落とす、といったことを避けるために、顧客に対して密接なコミュニケーションを取れる環境を構築しておくことが大切だ。

設計者と開発者の間についても同様に、迅速に問い合わせできる環境を作る。例えば、「開発者から仕様に関する問い合わせがきた場合、設計者は手を止めて回答しなければならない」、といったルールを作っておく。これは、開発者が設計者に遠慮して開発が止まってしまったり、独自で進めて後で修正が必要になる、といった事態を避けることにつながる。さらに、要件を実現する上で技術的に他のうまいやり方があれば、開発者から顧客に提案してみることを奨励する。このようにすると、開発者が顧客の視点を理解した上で開発作業を実施するようになる、といった副次的効果が生まれてくる。

(次ページ: 「多様性のあるチームを成長させて能力を高める」)

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