[技術解説]
組織的にデータ品質を高める卸売業界、マスター整備に「使える標準コード」も、先進企業は2歩も3歩も先行
2010年11月16日(火)栗原 雅(IT Leaders編集部) 鳥越 武史(IT Leaders編集部)
データ項目と関連性の洗い出しから表記ルールの策定、クレンジングに名寄せ、データ登録/更新のプロセス整備や運用の徹底、さらにはデータ品質を維持するための検証まで。データマネジメントはどうしても人手がかかる。このため業務の片手間ではなく、専門要員や組織を設けるのが理想とされている。パート4では、業界を挙げて組織的にデータ品質の維持・向上に取り組む卸売業界のケースを紹介する。
「酒類・食品業界におけるサプライチェーンの司令塔を担う」。こう話すのは、ジャパン・インフォレックス(JII)の井口泰夫社長である。JIIは酒類・食品業界のデータマネジメントの専門会社。国分や菱食、日本アクセスといった卸売大手が共同出資で2006年4月に設立し、国分でCIOを務めていた井口氏が社長に就任した。国内の大半の企業がデータマネジメントの専門要員や組織を持たない中、同業界の取り組みはひときわ進んでいる。
JIIが誕生した背景には、データマネジメントを困難にする業界特有の事情があった。1つは、サプライチェーンのすそ野が極めて広いことだ(図4-1)。酒類・食品業界は小規模事業者が多く、地場の酒造などを含めるとメーカー数は国内だけで3万社を超えるとされる。地域密着型の商店や飲食店など、小売業の数も少なくない。こうしたメーカーのマスターデータは各社各様なうえ、小売業が扱うデータ項目も異なる。そのためメーカーから小売業まで、サプライチェーンを貫く商品情報の連携が難しかった。
もう1つは、商品マスターの管理負荷の増大である。商品ライフサイクルの短期化によってマスター登録・申請業務の負荷が増大。原材料や原産国はもちろんアレルゲン物質など、商品ごとにマスターで管理する項目も増えた。「コストと労力の両面で卸売各社の個別対応ではとても管理しきれない状況になっていた」(井口社長)。
JIIは商品情報の入手からデータベースへの登録・更新まで、これまで卸売各社が個別に実施していたマスターデータの運用を一手に担う(図4-2)。具体的には、メーカー各社やVAN(付加価値通信網)運営会社のファイネットから商品の名称や画像、品質情報を入手し、約20人のJII社員が目視で表記揺れや漏れなどを検証したうえでデータベースに登録している。
登録済みの商品情報は現在、加工食品や酒類、生鮮、菓子を合わせて約160万件。4000社以上のメーカーの商品をカバーする。日々人手で鮮度や正確さを保ち、網羅性も高いJIIの商品情報は、酒類・食品業界における商品マスターの事実上の業界標準になっており、卸売7社が自社システムに取り込んで受発注や物流といったサプライチェーンマネジメントの効率化や、小売業への商品提案などに役立てている。JIIは今後、メーカー数を8000社にまで広げ、データベースの商品情報をさらに拡充する考えだ。
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