[海外動向]
情報の正確性や鮮度に目を向け、意思決定の精度を高める
2010年11月29日(月)栗原 雅(IT Leaders編集部)
2010年10月下旬、IBM、Teradata、SAPの年次カンファレンスが立て続けに米国で開催された。企業が蓄積し得る膨大なデータ群から、競争力につながる知見をいかに速やかに得るか─。その解を追求するのが各カンファレンスに共通するテーマだ。
レポート1
IBM Information On Demand 2010/Business Analytics Forum
2010年10月24日〜28日 米ラスベガス
瓦解した成長戦略を立て直すきっかけを皆が模索していた1年前とは様子が違う。一過性のキーワードに踊ることもない。世界のITトレンドの潮目は「模索から実践」へと明らかに変わりつつある。2010年10月24日〜28日、米ラスベガスで開催された米IBMの「Information On Demand(IOD)2010」では、グランドオープニングを含む各種セッションの随所に、そのことが表れた。
IODは、InfoSphereをはじめとする同社の情報管理製品ブランド「Information Management」の年次カンファレンスである。5年めとなる今回は、Cognosなどビジネスアナリティクス分野の年次カンファレンス「Business Analytics Forum」を併催。世界中から集まった1万人超の参加者が情報活用の本質に迫った。
グランドオープニング
意思決定の良し悪しは情報管理に依存
IOD2010のメインテーマはGain Insight. Optimize Results.—情報資産の奥底に潜む真実を見抜き、意思決定とそれによって導かれるビジネスの結果を最適化せよ─である。
25日午前8時15分に始まったグランドオープニングセッションの壇上に立ったロバート・ルブラン シニアバイスプレジデント(写真1)は、「意思決定の良し悪しは情報管理に依存している。ビジネスの武器である情報が正確であり、カバナンスが利いていることを(いま一度)確認してほしい」と力説した。
情報氾濫の時代と言われるようになって久しい。今では企業の内外に多くの情報が存在し、ビジネスインテリジェンス(BI)やデータウェアハウス(DWH)などのツールも充実している。それにも関わらず、情報管理が行き届いていないため、多くのビジネスパーソンが情報不足に陥っている。
IBMが企業の意思決定権者を対象に実施した調査によると、「3人に1人は必要な情報が不足した状況で重要な意思決定をした」「4人のうち3人が、情報さえあれば、先を見据えた意思決定により、もっとビジネスに貢献できた」としている。そして「自身が所属する組織からではなく、インターネット上で情報を得るほうが簡単だ」と考える意思決定権者は72%に上る。この状況をルブラン氏は「かなり恐ろしい」と評し、情報管理の現状に警鐘を鳴らした。
キーワード(1)リアルタイム
ビザ、秒間数万件の流れる情報から不正を検知
大小800以上におよぶIODのセッションから浮かび上がってきた情報活用のキーワードは2つある。1つは「リアルタイム」だ。ルブラン氏に続いてグランドオープニングセッションに登壇したアービン・クリシュナ ゼネラルマネージャーは、「これからは蓄積された情報だけでなく、(システムの中で)流れている情報も活用しなければならない」と説いた。
ITが業務の隅々にまで入り込むようになった今、取引に伴い新たな情報が24時間365日、発生し続けている。だが、これまでBIやDWHで主に扱ってきた情報のほとんどは日次や週次のバッチ処理で財務会計や販売管理、生産管理などの業務システムから取り込んだもの。「今この瞬間」を厳密には示していない。
それは理解できるとしても、リアルタイムで情報を扱うことに、本当に意味があるのだろうか。そんな疑問を打ち消したのが、パネルディスカッションに参加したクレジットカード大手ビザのマイク・ドレイヤーCIO(最高情報責任者)である。同社は秒間数万件のトランザクションを処理する承認システムを運用している。ドレイヤー氏によると、このシステムは利用者の与信額や決済額から決済の可否を判断するのはもちろんだが、それと同時にクレジットカードの不正利用を瞬時に検知して顧客や役員、担当者に数秒で知らせることができるようになっている。
ドレイヤー氏は不正検知によって得られた被害防止の金銭的な成果には言及しなかったが、IBMのクリシュナ氏は「不正利用による被害額は年間10億ドルに上ると言われる。(ビザのように)流れるデータを活用すれば詐欺被害を一掃できる」と説明した。
キーワード(2)基本の徹底
精度の向上と利用の定着 忍耐強い継続が成果への近道
2つめのキーワードは「基本の徹底」である。
「何ごとにも、失敗する原因は2つある。1つは正確な知識(情報)がないこと。もう1つは知識(情報)はあるが、必要としている人に届いていないこと」。こう話すのは、26日午前のゼネラルセッションで医療における情報活用の重要性と効果について講演したハーバード大学の外科准教授、アタル・ガワンド氏だ(写真2)。同氏は「(現代社会においては)2つの失敗原因が同時に発生している」と指摘する。
いくら高機能な分析システムを使っても、元となる情報が正確性を欠けば誤った判断を招きかねない。また、鮮度の高い情報を扱えるようになっても、社内の一部にしかシステムの利用が浸透しなければ、情報活用による大きな成果は期待できない。情報の精度向上やシステム利用のすそ野拡大という情報活用の基本の徹底は不可欠である。だが、そこに秘策は存在しない。
ガワンド氏の講演に先だって開かれたパネルディスカッションに参加した家電量販最大手ベストバイのスコット・フリーゼン シニアディレクターは、「時間をかけて社内で啓蒙していく以外に方法はない」と話す。ジョージア州アトランタ・グウィンネット群の公立学校を統括する行政機関でCIOを務めるスコット・フートレル氏も、「ゆっくり時間をかけて啓蒙することが、結果的に情報活用の成果につながる一番の近道になる」と語る。情報活用では成果を急ぐ前に、まずは基本に立ち返る時間を作りたいところだ。
なお、IBMはIODの会期中にBIツールの新版「Cognos Business Intelligence V10.1(Cognos 10)」を発表。展示ホールでは、年内に買収完了予定の米ネティーザのDWH製品を展示した(写真3)。 (栗原 雅)