[海外動向]

セールスフォースのクラウド版データベース「database.com」に話題集中、Force.comは開発環境のオープン化に注力

Dreamforce 2010

2011年1月5日(水)折川 忠弘(IT Leaders編集部)

米セールスフォース・ドットコムは2010年12月6〜9日、年次イベント「Dreamforce 2010」を開催した。8回目を迎える今年は約3万人が参加。会場となった米サンフランシスコのモスコニーセンターにはユーザーのほか、パートナーや開発者も詰めかけ、新たなサービスラインナップや開発環境の機能強化など本イベントに合わせて発表された情報の収集に奔走していた。

2010年12月6日〜9日
米サンフランシスコ/salesforce.com

基調講演
コンシューマの動向を吸収

7日に行われた基調講演には、同社の会長兼CEOであるマーク・ベニオフ氏が登壇。約1万5000人の聴衆を前に、企業向けクラウドサービスが転換期を迎えていることを説いた。

1つは、TwitterやFacebookなどコンシューマ向けソーシャルメディアで培われた情報発信/共有のスタイルを取り入れる必要性が高まってきたこと。もう1つはスマートフォンの普及を機に、場所を選ばずに使えるサービスが望まれていること。「従来の“早い”“安い”だけでなく、新たなニーズを洗練された形で実装したクラウドが不可欠だ」とし、常にこうした声に耳を傾けながらサービスを強化していることを強調した。

同じく基調講演の壇上に立った米シマンテックのエンリケ・セーラムCEOもベニオフ氏に同意。「IT部門はコンシューマ向けサービスのトレンドに背を向けるのではなく、柔らかい発想で取り入れていくことが、結果的に他社との差異化につながる」(同氏)と会場に訴えた。

写真1 基調講演会場の様子。約1万5000人が詰めかけ、開演前にはほぼ満席になった
写真1 基調講演会場の様子。約1万5000人が詰めかけ、開演前にはほぼ満席になった
写真2 会長兼CEOのマークベニオフ氏。広い会場を巡りながら新機能をアピールした
写真2 会長兼CEOのマークベニオフ氏。広い会場を巡りながら新機能をアピールした

新規に発表された内容
(1)database.com

基調講演では、新サービスが次々と発表され会場を湧かせた。中でも話題をまいたのが、データベースの機能をクラウドで提供する「database.com」。さかのぼること10年も前、このドメイン名を取得した同社が温めてきたサービスである。

同社の既存サービスのバックエンドで稼働させていたデータベースを1つのサービスとして切り出した。ユーザーは、ブラウザからスキーマやリレーションを定義して使える。このデータベースに対しては、さまざまな言語や他のクラウド環境からネット経由でアクセスできる。具体的には、JavaやRubyのほか、PHPや.NETといった開発環境を広くサポート。Amazon EC2やGoogle AppEngine、Windows Azure Platformなどからのアクセスも可能だ。

トランザクション数が5万/月、レコード数が10万/月までなら無料。これらを超えた場合は、トランザクション数が15万/月ごと、レコード数が10万/月ごとにそれぞれ10ドルかかる。2011年早々に提供を開始する。

ベニオフ氏は「データを含め、すべてのシステム構成要素をクラウド上に集約できる時代の幕開け」と訴求。会場では熱狂的な信奉者が喝采を贈るシーンが見られる一方で、中には慎重な声もあった。技術的には可能とはいえ、「財務や会計といった経営上の重要なデータをクラウドに移行してよいか法的な問題をクリアしなければならない」「望むだけの処理性能が出るか十分な検証が欠かせない」というのが慎重派の代表的な意見だった。

(2)Chatter Free

ソーシャルメディアの台頭にインスパイアされて同社が注力しているのが社内向けマイクロブログ「Chatter」である。今回のイベントでは無料版の「Chatter Free」が発表された。Salesforce CRMかForce.comを有償で利用するユーザーが1人でもいれば、全社員が無料で利用できる。マイクロブログとしての基本機能を備えており、Twitterライクな社員同士の情報共有基盤として使える。有償の「Chatter Plus」(15ドル/月)にアップグレードすれば、Salesforce CRMをはじめ業務システムのデータもChatter上に取り込めるようになる。

これとは別に2011年2月から「Chatter.com」の提供も開始する。これは、セールスフォースのユーザーであるかどうかにかかわらず使える無償のマイクロブログサービス。ビジネス用途にこだわらず同社が「プロシューマ」と呼ぶITに対する感度の高いユーザー層に向けたサービスだ。ここから得られる声をChatterの改良に役立てると共に、同社有償サービスの新規顧客にもつなげていきたい考えだ。

(3)Force.com 2

PaaS環境として、既存のForce.comの機能を強化した「Force.com 2」を発表した。簡易なWebサイト構築を支援する「Siteforce」や、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)がサービスを提供する「ISVforce」などのメニューがブラッシュアップされた。

目新しいのは、アプリケーションの開発言語としてRubyを利用できる「Heroku」である。セールスフォースが2億ドルを投じて運営会社であるHeroku社を買収し、新たな開発環境として加えた。これまでForce.comは独自の開発言語「APEX」を用いる必要があったが、汎用的な言語をサポートすることで開発環境のオープン化を進める考えだ。

Javaを用いた開発環境である「VMforce」もプライベートベータ版を公開。詳しい時期は明言していないが、2011年中に本格提供を開始するという。「今後もオープン化を推進し、開発者の選択肢を増やしていく」(ベニオフ氏)。

個別セッション/展示会場
テーマ絞って新機能を解説

テーマ別に、300近い個別セッションも行われた。営業や管理者、開発者など聴講対象を絞り込み、新サービスの詳細な機能を紹介したり、実際の使い方を提示したりするものが多くを占めた。Force.comの新発表内容に関するセッションは人気を博し、開場前から行列ができていた。

併設する展示会場には200を超える企業が出展。CA TechnologiesやCast Iron(IBM)、Informaticaなどのベンダーが自社製品/サービスを展示した。例えば富士通の子会社であるグロービア インターナショナルはSaaS型受発注業務システム「glovia OM」を展示。2009年に日本で提供開始した生産管理システム「glovia G2」の簡易版をForce.comに移行して海外で販売していくという。 (折川 忠弘)

写真3 クラウド関連ベンダーがブースを構えた展示会場は午前中から多くの人で賑わった
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