山崎製パンは、営業や生産担当者など2000人が駆使するBIシステムにオラクルのデータベースマシンOracle Exadataを追加。どの製品をいつ、どの店舗に配送したかの明細データを商談や生産・調達計画に生かす体制をさらに強化した。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉
- 石毛 幾雄 氏
- 山崎製パン 計算センター 室長
- 1977年、山崎製パンに入社。工場や本社経理本部などでの勤務経験を生かし、生産や販売、経理システムといった基幹システムの開発に数多く携わる。関連会社であるデイリーヤマザキのシステム刷新プロジェクトでは、マネジャーとして全体の指揮を執った。将来を見据えた戦略眼で、トップメーカーのシステム部門を牽引する。
- 福本 誠 氏
- 山崎製パン 計算センター 次長
- 1982年、山崎製パンに入社。計算センターでシステム開発業務に携わった後、経理本部でコード管理業務に従事。愛知県の安城工場における経理業務を経て、2001年に計算センターへ帰任した。主に情報系システムを担当している。今回のExadata導入プロジェクトではマネジャーを務めた。
─ 山崎製パンがExadataを導入したと聞き、計算センターに伺いました。さっそくですが、どんな用途に使っているんですか。
福本: 全国に20ある工場で1日に300万〜350万件発生する配送情報を、社内ユーザーが自由に分析軸を決定して抽出する非定型分析に使っています。「SASK(サスケ)」と呼ぶ営業情報システムの一部なんですよ。
石毛: SASKはこのほか、スーパーやコンビニといった配送先の店舗形態や製品分類、配送時間といった様々な切り口でデータをあらかじめ集計。ユーザーが必要に応じてその集計データを呼び出す定型分析機能を備えます。こちらの仕組みは、IAサーバーで動いています。
─ いわゆるBIシステム?
福本: そう考えていただいて結構です。もともと、営業担当者が日々の配送情報をスーパーやコンビニチェーンのバイヤーとの商談に生かすことを目的に、1990年代に稼働させました。初期はホストで動いていましたが、UNIXを経てオープン化。2004年から、32ビットのIAサーバーで運用してきました。
─ 20年前から現場担当者によるBIに取り組んでいた。ユーザーインタフェースとなる分析ツールは?
福本: 定型・非定型分析ともに、システムコンサルタント社の「Exellent」と、そのWeb版である「WebQuery」です。
─ 今回は、そのSASKをExadataを使って増強した。
福本: はい。当初の想定ユーザーである営業担当者に加えて、生産担当者も使うようになったからです。他工場の配送状況を参考にするんです。このほか、経理担当者などにも利用が拡大し、2007年にはユーザー数が2000人を超えました。しかも、複雑なマクロを自分で組んで分析するユーザーも増えてきました。
─ ITリテラシーの高い会社ですね。
福本: そうなのかな。それで、32ビットのIAサーバーでは処理しきれなくなりつつあった。検索ピーク時に、タイムアウトを起こしてしまうケースが出ていたんですよ。そこで2008年、サーバーを64ビット版に入れ替えました。富士通のPRIMEQUESTです。
─ え? その上にDWH専用機を追加導入したんですか。PRIMEQUESTでは不十分だった?
福本: そういうわけではありません。定型分析はIAサーバーで、より負荷の高い非定型分析はDWH専用機で処理するという構成を採りたかったんです。
分析ツールとの相性を評価
処理性能は20倍以上に
─ DWH専用機の分野では、Netezzaやテラデータなどが先行していました。
福本: もちろん、それらの製品も検討しましたよ。でも、日本語への対応がまだ不十分だった点や、従来システムで使っているオラクル製データベースからのデータ移行に手間がかかることがどうもひっかかった。ユーザーが使い慣れたExellentに対応していない点もネックでした。
─ Exadataを知ったのは?
福本: DWH専用機を決めかねていたころ、オラクルの営業担当者に「今度、当社は初めてハードを提供するんですよ」と聞いたんです。
─ まだ日本での発売前だったんですね。
福本: はい。即座に詳しい説明を求めました。そうしたら、データテーブル間にインデックスを張り直す必要がなく、データをそのままローディングするだけですぐ使えると言うじゃないですか。しかも、Exellentも使える。「これならいけるのでは」と思いましたよ。
─ データ移行の容易さを評価してExadataに決めた。
福本: 性能も十分でした。13億件の実データを使って検証したところ、旧システムでは13分かかった集計が33秒で完了した。
─ ハードはサン・マイクロシステムズ製ですか?
福本: いいえ、HPです。当時はまだ、オラクルはサンを買収していませんでしたから。住商情報システムから調達しました。
─ え?Exadataはハードとソフトを一体にして、オラクルが直販するビジネスモデルと聞いていますが。
石毛: そうみたいですね。でも、例外的にパートナー経由にしてもらいました。当社が長くオラクル製のデータベースを使い続けてくる中では当然、トラブルもあった。その際に助けてくれたのは、オラクルではなく販売代理店であるSI業者です。そのSI業者を中抜きしては、将来何かあったときのサポートに不安が残るでしょ。
─ なるほど。それで価格は?
福本: 1億円をちょっと切るくらいでした。
検証と同等の性能が出ない稼働後6カ月は試行錯誤
─ Exadata導入プロジェクトを開始したのはいつごろですか?
福本: 2009年6月ごろにマシンが到着。そこからデータのローディングを始めて、2009年12月に稼働させました。
─ あっさり導入できたんですね。
福本: 順調でした。ここまでは。
─ 「ここまでは」ということは、導入後に何か問題があった?
福本: 稼働させてしばらくたったころ、見込んでいた性能が出ていないことが判明しました。「あれ? ちょっと遅いんじゃないの?」という処理がいくつか見つかったんです。
─ チューニングの問題?
福本: いや、それはなかった。特別なチューニングが必要ないというのもExadataのメリットですから。ああでもない、こうでもないと、半年くらい試行錯誤しましたよ。「こんなはずじゃなかった。返品だ!」なんて文句を言いながら(笑)。
─ 結局、原因はなんだったんですか。
福本: analyseコマンドを実行していなかったことでした。
─ アナライズ?
福本: テーブル内のデータ分布に関する統計情報を取得するためのコマンドです。問い合わせ処理を最適化するために必要なコマンドなんですが、初めに1度実施したきりだった。つまり、統計情報が古いままになっていたんです。
─ 失礼ながら、それを突き止めるのに半年かかった?
福本: 痛いところを(笑)。確かに、分かってみれば単純なことなんですが、単純なだけに見落としていた。改めてanalyzeを実行したら、とたんに速くなりました。
─ ここでお聞きしたいのは、今回のプロジェクト予算について経営陣をどう説得したのかということです。1億円弱という費用は決して安くないし、Exadataはまだ導入事例が少ない。
福本: 実は、PRIMEQUESTやExadataによるSASK増強には、性能面の問題に加えてもう1つ大きな背景がありました。
─ どんな背景?
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