[ザ・プロジェクト]

保守性と再利用性を最重視し、不動産情報システムをSOA化─東京カンテイ

2011年3月24日(木)川上 潤司(IT Leaders編集部)

マンションなど不動産に関わる情報を提供する東京カンテイは、事業の根幹を支えるシステムを刷新した。「もし失敗すれば、自社のサービスが滞る」。そんなプレッシャーのなか、システム担当者はベンダー提案を鵜呑みにせず、ニーズに合う技術を自ら発掘。SOAの考え方に基づき新技術を果敢に導入した。 聞き手は本誌副編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉

瀧内誠氏
瀧内 誠 氏
東京カンテイ システム部 部長代理
システムインテグレータや大手データベースベンダーなどを経て、1998年に東京カンテイに入社。不動産情報システムの設計・開発・運用を手がけている。今回のプロジェクトでは企画やベンダー選定、社内調整など全体の指揮を執った

 

仲野圭信氏
仲野 圭信 氏
東京カンテイ システム部 主任
システムインテグレータに5年勤務した後、2005年7月に東京カンテイ入社。営業企画部を経て、2007年3月システム部に異動。今回のプロジェクトでは、SOAフレームワークの構築やアプリケーションの再構築、ビジネスロジックのSOA移行を推進した

 

井上泰規氏
井上 泰規 氏
東京カンテイ システム部
ネット証券会社を経て、2009年6月に東京カンテイ入社。SOA移行の第1弾となった今回の不動産情報システム再構築プロジェクトに参加して以来、同システムの運用改善を担っている。現在、SOAに基づく新規開発プロジェクトで設計・開発に従事している

 

─ さっそくですが、今回刷新した「データナビ」はどんなシステムですか。

瀧内: 全国にある分譲マンションの価格や取引履歴、査定情報などをインターネット経由で提供するシステムです。約10万棟分の情報を、オラクル製のデータベースに蓄積。金融や不動産業者といった顧客企業が利用しています。

─ 不動産情報サービスという本業を支える、まさにミッションクリティカルシステムですね。

瀧内: はい。そう言っていいと思います。

仲野: もともとCGIベースだったものを2001年、Perlを用いて再構築。9年間、運用してきました。それを今回、全面刷新したわけです。

─ 10年近く前に稼働させたシステムとはいえ、まだ問題なく動いていたんですよね。それを作り直した理由は?

瀧内: Perlという言語の先行きに不安を感じるようになったからです。サードパーティーによる機能強化もないし、技術者も少ない。「このままでは、Perlと心中することになりかねない」という危機感が強まっていました。

仲野: 運用や保守の負荷が高いことも問題でした。従来システムは2001年の稼働以来、ユーザーからの要望に応じて追加や変更を繰り返してきました。すべて内製なので、ユーザー部門側も「言えばなんとかなる」と思っているところがあった。その結果、つぎはぎだらけの複雑なシステムになっていたんです。一部、仕様が不明になっているプログラムもあり、保守が大変でした。

瀧内: まとめると、プログラムをなんとかして再利用可能にし、変更に強いシステムを作りたいという思いがあったんですよ。そうすれば、次の刷新に携わる担当者の苦労を減らせます。

データとロジックを分離、SOAの発想を先取りした

─ システム刷新に至った動機は分かりました。何から取りかかりましたか?

瀧内: 開発ベンダーを選定するため、ベンダー各社を回りました。恥ずかしい話なんですが、最初はベンダーの技術者が何を言ってるか分からない状態で。すっかり“浦島太郎”になっていたんですよ。

─ というと?

仲野: 先ほど申し上げた通り、2001年に従来システムを稼働させて以来、運用保守や追加開発はすべて社内の人員で実施していました。このため、外部のベンダーとの付き合いはほとんどなかった。それですっかり、ITの最新動向に疎くなっていたんです。

─ ITの進化は速いですからね。

瀧内: ベンダーからの帰り道、仲野と2人で「さっきの話、分かった?」「いいえ」なんて確認し合い(笑)、会社に戻ってからひたすら調べる。そんなことを繰り返すうちに、徐々にこちらの知識が追いつき、対等に話せるようになってきました。

─ それで?

瀧内: だんだん、新システムの実装イメージが固まってきました。データベースアクセス機能とデータ加工ロジックを分離させる。サーバーとクライアントとのデータのやりとりには、XMLを用いる。そんな仕組みにすれば、プログラムを再利用可能にできると考えたんです。

─ それはつまり、サービス指向アーキテクチャ(SOA)では。

瀧内: そうなんですよ。でも、そのころは意識していませんでした。後日、雑誌でSOAに関する記事を読んで「これって、我々がやろうとしていることだ」と気づいた。

─ なるほど。で、ベンダー選定はどうなりました?

瀧内: 技術力を評価し、Minoriソリューションズに決めました。大手ベンダーとは組みたくなかった。全社で約250人という当社の規模では、なかなか優秀な人材を割いてもらえないですから。

仲野: 開発言語は、技術者が多くいるJavaに決めました。

─ これまで使っていたPerlもそうですが、いわゆるライトウェイトランゲージ(LWL)は開発生産性が高いと聞きます。Perl以外のLWLを使うことは考えなかった?

仲野: もちろん、RUBYやPHPなども検討しました。でも、技術者が少ないことに加えて、将来の保守性を考えるとちょっとためらわれた。特に、過去にバージョンアップで苦労した経験があるPHPは、早々に選択肢から外しました。

柔軟性を評価し、OSSのフレームワークを採用

─ ベンダーを選んだ。開発言語も決めた。次は?

瀧内: データベースアクセスをどう実装するかを検討しました。さすがに自前開発はつらいので、データベースとJavaオブジェクトをマッピングするための、いわゆるO/Rマッピングのフレームワークを使うことにしたんです。

仲野: ベンダーは、Hibernateを提案してきました。ただ、実際に使ってみたところ、新規開発には向くが既存のプログラムを移行しにくいことが分かって。

瀧内: それでいろいろ調査した結果、見つけたのがiBATISでした。

─ アイバティス?

仲野: Apacheプロジェクトが開発したフレームワークです。

─ そういうツールがあるんですか。知らなかった。

瀧内: 認知が広まったのは、つい最近ですからね。その当時は全く無名で、ベンダーも知りませんでした。日本での利用実績はほぼゼロでしたし。

─ となると、ベンダーは採用をちゅうちょしたのでは。

瀧内: はい。でも、どうしても使いたかった。SQLを直接記述するので、既存のプログラムにも柔軟に対応できるからです。それで、こちらでサンプルを提示してベンダーを説得しました。

─ ユーザー自身がツールを検証し、ベンダーに逆提案した?

仲野: ええ、まあ(笑)。2008年1月に、iBATISを使った開発に着手。新システムの基盤となるデータアクセス機能を作り込みました。開発自体は1カ月ほどで完了。その後、評価やテストを経て、いよいよシステム刷新プロジェクトを立ち上げることにしました。

─ ということは、その時点では正式なプロジェクトではなかったんですね。それまでの導入や開発に関わる費用はどうしたんですか。

瀧内: 研究開発費の名目でりん議を通しました。

─ SOAと言っても経営層には必要性が伝わりにくかったでしょう?

瀧内: システム担当役員に、比喩を使って必死で説明しましたよ。そうしたら「ここまでくると、俺にはさっぱり分からん」と言いながらハンコを押してくれました。

─ 「俺にはさっぱり分からん」。重い言葉ですよね。「君を信じて任せるからな」とも聞こえる。

瀧内: そうなんです。その役員には、今でも感謝しています。

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