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[インタビュー]

「あらゆるIT投資を災害対策に当てはめ、予算不足を乗り切る」米ガートナーCIO

競争力強化のためだけではなく、ビジネスの復元力の強化のためにITを活用する

2011年5月2日(月)IT Leaders編集部

「災害対応の効率化には、あらゆるIT投資を災害対応の一環として捉えることや、標準化の徹底が大切だ」──。世界85カ国で事業展開する米ガートナーでシニア バイス プレジデント兼最高情報責任者(CIO)を務めるダーコ・ヘリック氏は、こう話す。2011年4月21日、来日したヘリック氏に、災害対応に関する考え方を聞いた。

写真1:米ガートナーの最高情報責任者(CIO)、ダーコ・ヘリック氏
写真1:米ガートナーの最高情報責任者(CIO)、ダーコ・ヘリック氏

 ガートナーは世界85カ国で事業展開していることもあり、自然災害の脅威にさらされる拠点は少なくない。東日本大震災が発生した日本に加え、北米フロリダ州のフォートマイヤーズや、英国ロンドン郊外のエガムが代表例だ。

 インサイドセールスやクライアントサポートの拠点であるフォートマイヤーズの一帯は、ハリケーンが猛威をふるう。エガムはテムズ川沿いに位置し、2007年の大洪水の際には、オフィスフロアにあと20~30cmというところまで水かさが上がった。

高コストが事業継続への取り組みを阻む

 当社だけでなく、企業のIT部門にとって事業継続計画(BCP)の策定は継続的な課題だ。私はこれまでいくつかの欧米企業で勤務してきたが、事業継続に十分に取り組めている企業は決して多くはない。ディザスタリカバリ(DR)に巨額の投資をしている金融業などの例外はあるが、BCP策定への本気度が高い企業はまだまだ少ない。

 その背景にあるのがコストだ。BCPの具体化には、ストレージやネットワーク回線、リカバリシステムなど広範かつ多額なシステム投資が必要となる。だが情報システムへの投資全体の中で、BCPのみに十分な予算を獲得することは難しい。当社もBCP関連の予算に十分な額を確保できているわけではない。

 BCP関連コストを削減する手段はある。そもそも、すべてのシステム対策レベルを統一する必要はない。停止が許されないミッションクリティカルなシステムには手厚いDRの仕組みが必要だが、情報系など数週間で復旧できればよいシステムもある。こうした仕分けができれば、対策コストは大幅に下げられる。

 当社にとって、3年前から構築を進めているCRMシステムは、顧客に対するサービスとサポートの要となる、最重要のシステムだ。当然、CRMシステムに対してはディザスタリカバリ(DR)の策定が不可欠となる。

 一方、CRMシステムにはBIやオーダー入力、財務システムといった10~15個のシステムが連携している。連携しているからといって、これらのシステムがすべてCRMシステムと同等の重要性を持っているのだろうか?答えはNoだ。中には、2~3週間止まったとしても業務に大きな支障がないシステムもある。

 こうした仕分けはBCP関連コストの削減に大きく役立つ一方、どのシステムがミッションクリティカルかの判断は容易ではない。特に、パブリッククラウドサービスやプライベートクラウドといった新しいトレンドの普及はこれに拍車をかける。

あらゆるIT投資をBCPに結びつけ、予算不足を乗り切る

 一般的なBCPのアプローチでは、仮説や想定に基づき、起こるかどうか分からない災害に対して投資する。事業継続への投資を正当化するには、コストと効果のバランスが重要になる。そこで当社ではBCP策定を効率的に進める策の1つとして、あらゆるIT投資に事業継続の意味合いを持たせる努力をしている。

 顕著な例の1つが、データセンターにおける取り組みだ。当社では、システムの本番稼働用と開発用の2つのデータセンターを保有し、それぞれ遠隔地に設置している。両センターにあるデータは相互にバックアップを取得しており、例えば本番用のセンターが被災すると、開発用センターにフェイルオーバーする仕組みを用意している。開発用と本番用のデータセンターは双方とも必要なものなので、BCPのために特別に用意したわけではないが、結果として自然な形でDRが実現できている。

 生産性向上のために導入したVoIPやコラボレーション、ビデオ会議システム、モバイル機器といったコミュニケーションツールへの投資も、BCPの一部と捉えている。災害時の在宅勤務を効率的に進めるのに役立つからだ。今回の東日本大震災でも、このシステムが機能した。

 当社はセールスやアナリスト、エグゼクティブパートナーなど、外出の頻度が高い職種が全従業員の75%を占め、在宅勤務制度もある。そのため、外出先でも常に仕事を進められるようにする必要があったというのが、導入の直接的な理由だ。

 電話やビデオ会議などを有機的に統合したユニファイドコミュニケーションシステムをグローバルで導入している。従業員は、PC上のソフトフォンを使い、オフィスにいても外出先や自宅でも同じ電話番号で顧客との電話を受発信できる。一方、どうしても通話に携帯電話を使いたいという従業員のために、電話を会社支給の携帯電話に転送できるようにもしている。

 こうした仕組みを支えるため、VoIPを全世界の拠点に導入し、すべてのビジネス部門でコミュニケーション基盤を標準化していることを強調したい。事務系などオフィスでの作業が主なオフィスワーカーにも、モバイルワーカーと同じシステムを提供している。災害時には、オフィスワーカーも在宅勤務など社外で仕事を進めなければならないケースがある。そうした際に、突然やり方を変えろといわれても戸惑ってしまう。日頃からシステムを利用するようにしておけば、災害時を見据えたトレーニングの手間も省ける。社内システムの共通化を進められるので、導入コストも抑えられる。

 災害対応ではないが、標準化の推進が意外なところでリスク回避につながった経験がある。世界各国には、本当に様々な事情がある。例えばドイツでは、企業の決定事項に対して、従業員で構成する「労使協議会」という組織の同意を得なければいけない。従業員が使用するシステムの導入に対してもそれは同様で、当社でも実際に“拒否権”を発動されたことがあった。だが、「当社は世界中で標準化を進めており、ドイツだからこのシステムを導入しているわけではない」と当局に説明することで、事なきを得たという経緯がある。

●Next:ガートナーCIOが説くクラウド移行の極意

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