[技術解説]
電力供給からデータ通信まで行方に注目したい“鋭い”技術
2011年8月30日(火)栗原 雅(IT Leaders編集部) 鳥越 武史(IT Leaders編集部)
具体的な応用イメージがまだわかないものまで含めると、“鋭い”技術は数多く存在する。 IPさながらに電力の送り先を制御するものや、人や物が持つ唯一無二の特徴を捉える技術など、 そんな将来の行方を見届けたくなるような技術の一端をパート4では紹介する。
前パートまでに見てきたインタフェース技術やセンサー技術のほかにも、将来が楽しみな技術の研究が盛んに行われている。例えば、データ通信の分野なら「可視光通信(Visible Light Communication)」と呼ぶ技術は興味深い。文字通り、目に見える光を使ってデータを送受信する技術だ。無線と違って電波を用いないため、電磁波の人体への影響や、出力周波数/出力強度などの制約を解消できる。人間のように情報を記憶もすれば忘れもする「シナプス素子」も今後の進展が楽しみである。
ITで確立されている技術を参考にして、エネルギーの利用効率を高めようという研究も進められている。電力を分割し、IPパケットのように送信先を指定して送電する「電力のパケット化」である。実現すれば、全方位で一方的に流し続ける現在の電力供給は一変し、必要とする施設や機器に柔軟に送電できるようになる。
すでに身近な技術を応用する動きからも目が離せない。NECは指紋認証と顔認証を活用したメロンの個体識別技術を開発。産地偽装問題の一掃に期待がかかる。
アグリバイオメトリクス
果物の表皮の模様から個体を識別する技術。カメラで撮影した果物の画像から表皮の模様の特徴点を検出して識別する。NECが指紋認証と顔認証の技術を基に開発した。
携帯電話の内蔵カメラを使って約1800個のマスクメロンから特定個体を識別する実験で、偽物を本物と間違える誤認率が100万分の1という精度を実現している。流通過程における産地偽装の防止やトレーサビリティへの活用が見込まれている。
可視光通信
目に見える光を活用した通信技術。人の目で感知することができないほど高速に点滅しているLEDの光「可視光素子」を信号として用い、データを送受信する。病院に代表されるように、電磁波の影響を受けかねない精密機器が稼働する環境の通信環境整備に貢献できるとの期待が大きい。
フェイストラッキング
目や眉、口、鼻など顔の部位の特徴点を検出して、動きをトラッキングする技術。X軸・Y軸・Z軸方向の変位と各軸の回転角から部位の3次元座標を割り出す。クレアクト・インターナショナルの「faceAPI」は、口のわずかな開閉をリアルタイムでとらえたり、頭をほぼ真横に向けた状態でも部位の特徴点を検出し続ける。応用分野は未知数だが、ヒューマノイド(人間型ロボット)開発やアバターアニメの製作に役立つ可能性がある。
非接触給電技術
無線で電力を供給する技術。離れた2つのコイルの一方に電流を流すと、もう一方に電流が流れる「電磁誘導」を利用する方式が実用化されているが、電力を伝送できる距離は数m程度だった。最近は、電場や磁場の共振で電力を伝える方式が開発されており、インテルが2008年にこの方法で2mの電力伝送に成功するなど、伝送距離の長距離化が進む。
電力のパケット化
電力の供給先を制御する技術。電流のパルスを通信ネットワークのパケットに見立て、IPアドレスのような宛て先情報を含むヘッダを付加することで、パケット単位で送電先を指定可能にする。「電力ルーター」と呼ぶ専用機器で経路制御する。停電防止のために使用電力の大きな需要家に優先的に電力を送るなど、きめ細かな電力伝送が可能となる。
シナプス素子
脳の神経細胞の機能を模した素子。物質・材料研究機構や科学技術振興機構の研究グループが、コンピュータシステムのさらなる高性能化を目指して共同開発した。シナプス素子は電気信号の入力頻度によって、必要な情報を記憶したり不要な情報を忘れたりする。この素子を使うことで、人間のように過去の経験に基づいて直観的な判断をするようなコンピュータの開発も可能になるとしている。
オントロジー
データ同士の関連性を体系的に示すための方法論。Web上のデータ同士の関連性をシステムが自動的に解析する「セマンティックWeb」を実現する中核要素だ。データに関する意味や概念を説明する「メタデータ」を記述する語彙や、語彙同士の関連性を定めている。DTSはオントロジーを自社のWebアプリケーションファイアウォール製品に導入し、未知の脅威の検出を可能にした。