米アップル社の創業者の1人であるスティーブ・ジョブズ氏の訃報が流れたのは、10月5日。最新版のiPhone 4S発表の翌日だった。4Sを「for Steven」と読み替える人がいるくらいに運命的なタイミングでもあった。今年に入ってからの様子から、悲報を聞く日は遠くないだろうと覚悟の思いを抱きつつも、通告は冷酷で虚無なものだった。TwitterにもFacebookにも次々と哀悼の言葉が流れていた。
筆者の事務所の近くにあるアップルストアには、花を手向ける人の姿があった。これほどまでに親しく人の心を捉えていたものは何なのだろうか?カリスマ的な経営手腕を称える人も多いが、それは結果に過ぎない。彼の素晴らしさは人々に感動を与えることができるアーティストであったことだと筆者は思う。
技術は昇華していくとアートになる。ジョブズ氏がカリグラフィに強く興味を持ち、リード大学の講座で学んだことが美しいフォントを生んだ。創業者でありながらアップル社を追われ、立ち上げたアニメーションスタジオのピクサーが高評価されたことも同じことだ。そのことを2005年のスタンフォード大学の卒業生に向けた祝賀スピーチでも述懐している。そして前年に宣告された病のことも。
ジョブズ氏は病を抱えながら、コンピュータを楽しく使えるアートの領域まで引き上げようとした偉大なアーティストなのである。そのジョブズ氏を失った喪失感は大きすぎる。強い精神力で淀みなく作品を世に送り、絶妙な引き際で舞台から降りた。その振る舞いと業績に心からの哀悼と敬意を表したい。
ジョブズ氏やアップルから受けた影響
アップル社のコンピュータに触れたのは1990年だった。それまで筆者にとってコンピュータと言えば、ほとんどが土木設計の解析や技術計算にしか使うことはなかった。ロジック通りに高速で処理できればよい道具だった。1990年に設計部門での新しいコンピュータ利用を考えるミッションを与えられ、仲間と手探りで到達したのがMacintoshだった。
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