[海外動向]
クラウド“秒進分歩”の進化─アイデアの輪廻が創り出すユーザー起点の巨大エコシステム
2011年11月22日(火)山谷 正己(米Just Skill 社長)
米国シリコンバレーに身を置いていると、クラウドがまさに“秒進分歩”の勢いで進化していることを感じる。 単品での利用から、複数の組み合わせを前提とした各種サービスが目立ってきたのがトレンドだ。 多彩なプレーヤーが描こうとする巨大なエコシステムの最新事情をレポートする。
米国では今なお、多彩なクラウドプレーヤーが続々と登場している。エッジの利いたアイデアのみならず、技術力もサービス品質も激しい競争の中で磨きがかかり、クラウド市場はどんどん厚みを増している。
こうした動きを牽引しているのは新進気鋭のスタートアップ企業だ[node:4048,title="(パート2参照)",unavailable="(パート2参照)"]。これはという企業に対しては、ベンチャーキャピタル(VC)から巨額の投資が向けられる。米国ベンチャーキャピタル協会の調べによる2009〜2010年の投資水準をまとめたのが表4-1だ。2010年、クラウド関連に投じられた総額は7億1300万ドル。前年比で67.6%増と、高い伸びを示している。
多彩なプレーヤーが登場
群雄割拠は今後も続く
起業→VC受け入れ→株式公開(IPO)という図式がかつての主流だったが、ネットバブル崩壊後は極めて慎重になり、IPOに至るケース(表4-2)はさほど目立たない。その代わりに増えているのが大手ベンダーによる買収だ。それも、一定の顧客ベースを獲得する前の段階、例えばベータテストを展開中といった早期に触手を動かすケースが増加傾向にある。
大手ベンダーがクラウド市場での地歩固めを急ぐ中、自社に足りないピースを手早く埋めるために、虎視眈々と“種”を探していることが背景にある。相応のリターンを得たい投資サイドにしても、案件ごとに互恵関係をうまく描ける買収元を探すことに余念がない。
こうしてクラウド分野の買収合戦が激化していることは周知の通りだが、だからといってメガベンダーによる寡占化が進んでいるという単純な構図には落ち着かない。ユーザー企業の視点に立ち、クラウドの価値をさらに高めることを狙った新たなプレイヤーが続々と登場しているのが実情だ。
単一機能のクラウドサービスをスポット的に使う時代は終わり、複数のクラウドを巧みに組み合わせて企業ITを構成する新たなフェーズを迎えている。多様なプレーヤーが提供する多彩なサービスの集合として、安価で無限に近いキャパシティを持つエコシステムを形成する方向に、クラウドは確実に動いているのだ。その市場は奥深く、まだまだ新しいプレーヤーを受け入れる余地がある。
仲介サービス担うブローカー業者が登場
クラウド市場で存在感を徐々に増しているニューフェースの例として、「クラウドサービスブローカ(CSB:Cloud Service Broker)」の動向に触れよう。これは、自身ではクラウドサービスの仕組みを持たずに、他社のクラウドサービスを1つに集約して提供する、一種の仲介サービスを提供する企業を指す(図4-1)。
複数のクラウドサービスを利用する場合、これまでは個別に契約して、ID管理や支払いがバラバラになるのが通例だった。そもそも、数あるクラウドサービスの中から目的に合致しそうなものをリストアップするのも決して楽なことではない。こうしたユーザーの煩わしさを一掃しようというアプローチで登場したのがCSBである。
このような新しいサービスをいち早く手がけたのは、既存のITサービス会社ではなかった。例えば、名の通ったところでは米国最大の都市銀行、Bank of Americaがそうだ。同行は「Solutions Store」の名の下、各種のクラウドサービスの仲介に力を注いでいる(画面4-1)。
単純なポータルを提供しているのではない。セルフサービス型の契約手続き、複数のサービスにまたがるアクセスコントロール、SLAに基づいたパフォーマンス監視、利用状況のメータリングと課金処理、ヘルプデスク…。ユーザーが、様々なサービスを「ワンストップ」で活用するために必要な機能要件を取りそろえているのだ(表4-3)。ユーザーの利便性は高まるし、同行にとっても顧客サービス拡充や新規顧客獲得につながる。
ほかにも、Renovatix Solutions、WorkClouds、TechDataといった顔ぶれが、CSBとしてのサービスを手がけ始めている。まだ歴史の浅い分野であるが、実績を積み上げた暁には、どのようなクラウドサービスを組み合わせて使うのが効果的かをコンサルティングするようなビジネスも考えられるだろう。
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