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ITで具現化するビジネスの俊敏性─IBM WebSphereのイベントから

IBM WebSphere Technical Conference 2011

2011年12月6日(火)IT Leaders編集部

日本IBMは2011年11月17日、「IBM WebSphere Technical Conference 2011」を開催した。テーマは「ビジネスのアジリティ(俊敏性)」。その実現を支えるソフトウェア製品群の最新情報に関心を持つ人々が会場に多数詰めかけた。当日の基調講演の概要をレポートする。

カンファレンスが開催された日本IBMの箱崎本社には、10時の開演前からユーザー企業やビジネスパートナーの担当者が続々と集まった。この手のイベントの講演会場は後方から徐々に席が埋まるケースが少なくないが、この日は、いの一番に最前列が満席となり、来場者の関心の高さを示していた。

業務の統合と最適化に向けて

日本IBM 理事 WebSphere事業部 事業部長 伊藤久美氏 日本IBM 理事 WebSphere事業部の伊藤久美氏

午前のプログラムである基調講演で最初に壇上に立ったのが、理事でWebSphere事業部を担当する伊藤久美氏。「変化に強いビジネスがイノベーションと成長を支える」と題し、約30分のプレゼンを披露した。

冒頭、伊藤氏はビジネスを取り巻く環境の変化が今まで以上に激しくなっていることを強調。「不確実性が高まっている中で、企業は的確な一手を打って行かなければならない。飛躍的に量が増大しているデータをいかに巧みに活用するか。グローバルレベルでのコラボレーションをどう進めるか。スマートフォンの普及などに伴って加速するライフスタイルの変化にいかに追随するか…。時代に即した新しい価値を追求する取り組みが、企業の成長を大きく左右する」と会場に訴えかけた。

舵取りの難しい時代において、IBMはどのような価値観やソリューションで応えようとしているのか。その象徴的な取り組みの1つとして伊藤氏は「スマータープラネット(Smarter Planet)」に言及した。ITの持てる能力を生かせば地球をもっとインテリジェントでスマートなものにできる、逆にITはそのような目的でもっと活用されるべきだ──。こうした思いを元に、IBMが数年前から提唱しているコンセプトである。

ビッグデータという言葉が端的に表しているように、今や、モノやヒトの挙動を事細かく収集し得る素地が着々と整いつつある。センサー技術の進展しかり。工場の生産ラインのみならず、交通や医療なども含め、社会基盤のレベルで膨大な情報を蓄積できるようになってきた。普及が目覚ましいソーシャルメディアにしても、人の感情のセンシング技術と捉えることができるだろう。

膨大なデータと、これまた劇的に進化しているコンピューティングパワーの掛け合わせの先には、どんな世界が描けるか。人々の英知を集めた仮説検証や、予兆を検知しての事前アクション、さらにもっと高度な解析を加えることによって導かれるインサイト…。ITの持てる力を結集して最適化すれば、必ずや“豊かな社会の創出”に結実するに違いない。

大局的な方向感と照らしてみるならば、企業ITもまた、インテリジェントでスマートな世界にもっともっと近づける余地を残してる。これまで、システムの増築を繰り返してきた結果、全体の複雑度が増してしまった企業は少なくない。「しなやかさ」や「柔らかさ」、そして「足回りの良さ」…。幾多のゴールを並立さえるためにITの潜在能力を十二分に発揮させなければならない。

講演の半ばに伊藤氏は、IBMが持っているソフトウェアの主要5ブランドについて、それぞれの位置づけを整理した。具体的には「Lotus:コラボレーション」「WebSphere:アプリケーション基盤と統合」「Information Management:DB等のインフォメーションマネジメント」「Tivoli:運用管理」「Rational:開発」である。ここ10年を見ても、各カテゴリーで積極的なM&Aを手がけてきている同社だが、「闇雲に買収しているのではない。顧客の課題を解決し、(インテリジェントでスマートな)理想型に導く上で足りないピースを埋めるという考えが通底している」(伊藤氏)との説明を加えた。

製品群は、より顧客の視点に沿って再構成するならば2つのグループに大別できる。1つは「ミドルウェア(インフラストラクチャ)」で、WebSphereをはじめ、Information ManagementやTivoli、Rationalが含まれ、ビジネスの俊敏性をインフラから支えるというミッションがある。もう1つは「ソリューション」。ここには、ビジネスアナリティクスやコラボレーション、業界別のインダストリーソリューション、さらには人工知能や推論などのハイテクを結集したWatsonも加わる。これら両面からの強化によって、顧客のイノベーションを後押しするという構図だ。

経営とITの融合を進めて強靱な企業体を創るには、もちろんどの製品カテゴリーも欠かせないものだが、とりわけ「変化への即応性」という文脈ではWebSphereを筆頭とするミドルウェアの重要性が増してくる。業務プロセスを可視化した上で統合管理し、何らかの見直しに迫られた時にシステムを速やかに追随させるツールとして進化していることが背景にある。

伊藤氏は後半、企業が抱えている課題として「リスク管理/セキュリティ/コンプライアンス」「コラボレーション」「データの管理および知見」など6つを挙げ、中でも「業務の統合と最適化」が大きなチャレンジであることを強調した。「ビジネスの俊敏性を具現化したいという根幹のニーズがそこにある。変化をチャンスに置き換えられるよう、WebSphere製品の強化や拡充を図るとともに、その価値を分かりやすく訴求していきたい」とは伊藤氏の弁。

クラウド、ビッグデータ、ソーシャル…。いくつもの新潮流が巻き起こる中で、次代に向けたグランドデザインに思いを巡らせる人も多いだろう。その点においては、“木”(個別製品)だけをミクロに見ず、“森”(ポートフォリオ)としての全体観をしっかり頭に入れておくことの重要性が強く伝わる内容だった。

俊敏性を3つの視点で考察する

米IBM WebSphere Services、Distinguished Engineer & CTO、ピーター・バース氏 米IBM WebSphere Services Distinguished Engineer&CTOのピーター・バース氏

伊藤氏からバトンを受け、次に登壇したのが米IBMのピーター・バース氏だ。WebSphere Service部門のDistinguished Engineer、そしてCTO(最高技術責任者)の肩書きを持つ人物である。「ビジネスの俊敏性」を追求する上で、WebSphereの関連製品がどう位置付けられるのかを中核テーマに話を進めた。

最初に挙げたのが、「意思決定管理とビジネスプロセス管理」によってアジリティを加速するという視点だ。「リアルタイムかつ精緻な意思決定が大きなビジネス価値を生む」(同氏)と強調し、それは収益を最大化する商機を見極めるだけにとどまらず、リスク管理や法令順守の面でも絶大な効果があることを指摘した。

会場の理解を促すために保険会社における顧客対応のプロセスを例に取り、イベント→ルール→意思決定という一連の流れを解説。Webサイト、コールセンター、代理店というマルチチャネルで顧客に向き合う場合、いくつものパターンが想定されるものの、これらは一定のルールに基づいて意思決定のフェーズまでを対象に自動化できることを示した。“個客”の実際の行動に基づいて、Webサイト上に契約プランを提示したり、アウトバウンドでコンタクトをとったりと、最適なアクションにつなげる。保険詐欺をにおわせる行動パターンを察知することも可能だという。

机上の理想論ではなく“available”なものであるとし、それはリリースしたばかりの「Operational Decision Management」に実装できていることを強調した。(1)ビジネスを熟知する人の意思決定ロジックのオーサリングやメインテナンス、(2)可視性と再利用性を向上させるための意思決定の独立レイヤー化、(3)コンテキストベースの精緻な意思決定自動化、などがその要諦だと言う。

続いて「アプリケーションインフラストラクチャー」に論点を変え、より動的なプラットフォームに進化させることが俊敏性を担保するとの主張を展開した。身近な例を挙げるなら、ユーザー企業のある製品がソーシャルメディア上で話題となった結果、突発的にWebサイトへのアクセスが集中しダウンを引き起こすようなケースがある。“想定外”の事象にも弾力性をもって対処し得るインフラが欠かせないというわけだ。至極もっともな話だが、ITリソースの仮想化などが進んだ環境では、その実践が思いの外難しいのも事実である。

柔軟性と即応性にすぐれたIT基盤というカテゴリにおいて、いくつかの具体的製品名を挙げながら、その特徴を示した。まずは「WebSphere Application Server」。最新版はV8.0である。オープンスタンダードへの準拠、高い運用効率や信頼性、セキュリティーなど機能に磨きをかけていることを会場にアピール。またシンプルかつ軽量であることを追求するものとして、同8.5 Alphaへの言及もあった。

これに付随するものとして「Web 2.0 and Mobile Feature Pack」がある。「時間がかかってしまったが、製品化できてとても嬉しく思う」とバース氏が振り返るこの製品は、スマートフォンやタブレット端末にアプリケーションを展開するための機能を実装。「脆弱性を排除するセキュリティ、特定の開発環境に依存しないオープン性、クロスプラットフォームへの対応、デスクトップ向けアプリとの透過性などに十分配慮した自信作」(同氏)という。

「Workload Deployer」は、かつて「CloudBurst Appliance」と呼ばれていたラインナップの後継に位置付けられる。仮想化されたアプリケーションサーバーの構成やアプリケーションの配布などを管理するアプライアンスである。特定用途に必要なソフトや構成情報を「ワークロードパターン」として管理し、導入後の監視、パッチ適用、ログ管理を含む保守までを専用のGUI画面で一元管理できるのが特徴だ。負荷に応じて実行ミドルウェアを自動で拡張する機能も追加している。「Time to Value(価値を生み出すまでの時間)を劇的に改善できる」(同氏)のが売りだ。

このほか、大規模トランザクションの処理を想定したキャッシングアプライアンス「DataPower XC10 Appliance」や、データグリッド「eXtreme Scale」などについて、最新エンハンスメントの内容をかいつまんで解説した。

ビジネスの俊敏性を追求する視点として、3つめに挙げたのが「連携と統合」だ。意味するところは多岐にわたる。全体最適に根ざしたアプリケーションやプロセス、パートナーや顧客との価値連鎖、オンプレミスとクラウドとの組み合わせ…。さまざまな局面で連携と統合がカギとなるが、多くの企業はその初歩的なフェーズで苦戦していると指摘する。

動的なビジネスネットワークにおいて、必要な情報が必要な時に流通し、そしてまた現場で必要としている利用者の手に入るーー。この理想型を実際のシステムアーキテクチャに落とし込む上で、その有効策の1つとしてSOAがある。アプリケーションもデータもプロセスも、すべてが柔軟につながる世界を目指すアプローチだ。バース氏は「あたかもPCにUSBメモリーを差し込むように、手軽かつ的確に連携・統合を図る道を探らなければならない」とし、「IBMには多くの経験で培った知見や、それらに基づいたソリューションポートフォリオならびにサービスをすでに持っている」と強調した。

カンファレンス会場には多くの来場者が詰めかけ、講演に熱心に耳を傾けた
カンファレンス会場には多くの来場者が詰めかけ、講演に熱心に耳を傾けた

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