[加藤恭子のマーケティング志向で行こう!]

オウンドメディア─自らメディアを作ってしまう企業が増えてきたと思いません?

2012年5月17日(木)加藤 恭子(ビーコミ 代表取締役)

突然ですが、「オウンドメディア」という言葉をお聞きになったことはありますか? 数年前から広告やウェブマーケティングの業界を中心に広まり始めた言葉で、今では“市民権”を得つつあります。

これらの業界には、メディアを性質によって種別した「トリプルメディア」と呼ばれる分類があります。1つはペイドメディア(Paid media)です。マスメディアなどに「お金を払って」(Paid)掲載してもらう広告が代表例です。

2つめはアーンドメディア(Earned Media)。これは宣伝や売り込みではなく、ファンになってもらいクチコミなどを獲得(Earned)するメディアのことで、ソーシャルメディアはこの分野に入ります。

そして3つめがオウンドメディア(Owned Media)、すなわち自社「所有」のメディアです。最近、コンテンツを工夫して自社サイトをメディア化する企業が増えてきましたよね。それらのサイトがオウンドメディアに分類されます。

自社サイトをWebマガジンに

これまで企業ウェブサイトのコンテンツといえば、製品の解説やセミナーの案内、ニュースが中心でした。でも、それだけでは関心のある人しか閲覧しませんし、頻繁に訪れてもらうのは難しい。訪問者を呼び込もうとして製品名を連呼したメールマガジンを頻繁に送るなど“行き過ぎた”行動を採ると、オプトアウト(解除)されるなど逆効果にもなります。

一方、サイトに興味深い情報が蓄積され、頻繁に更新されていたらどうでしょう。例えば、セキュリティに関する調査資料や読み物、留意点、専門家のインタビューなどが適宜更新されている。押し付けがましい宣伝色がなく、役立つ知識が幅広く得られる。となれば、訪れる人は次第に増えていくと思いませんか。「セキュリティならA社が詳しい」という評判を市場に浸透させられるかもしれません。そうした可能性を秘めているのが、オウンドメディアなのです。

オウンドメディアは主にB2Cで広まったようです。例えば、サントリーは遊び心を大事にしたサイト作りで、ハイボールのサイトに顧客を引き寄せました。オウンドメディアの取り組みをもう少し進め、自社サイトをソーシャルメディア化したコカ・コーラでは、サイトが大きな力を持つようにもなっています。

このような例を紹介すると「B2Bにオウンドメディアは馴染まないのではないか」と考える人もいそうですが、私はむしろ逆だと見ています。

B2Cのビジネスがマス(大人数)を対象としたサービスや製品を扱うものだとすれば、B2Bは専門性が高いサービスや製品を企業に販売するもの。つまりB2Cとの比較で捉えれば、B2Bは特定の分野に特化しており、どちらかといえばニッチの分野です。ニッチですから、あちらこちらで幅広く情報を手に入れるのは、そう簡単ではありません。であれば、なおさらウェブマガジンさながらに自社サイトのコンテンツを拡充し、潜在的なお客様や今のお客様に役立つ技術トレンドなどの情報を蓄積・更新していく必要があるように感じます。

自社製品アピールか、情報提供か

とは言え、自社製品を積極的にアピールしなければ他社に顧客が流れてしまう…。そう危惧する人もいるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?

スペックなど最低限の情報や自社製品のアピールばかりの企業と、客観的な関連情報も含めて発信し続けている企業があった場合、どちらが支持を集めやすいでしょうか。普通に考えると後者ですよね。

当然、自社メディアは掲載するコンテンツを自社で決められます。広告費もかかりません。コントロールのしやすさという点でも利用しない手はないと思うのですが、いかがでしょう。

遅かれ早かれ、ウェブやマーケティングの担当者からIT部門のみなさんに、オウンドメディアを作りたいと相談が持ちかけられる気がします。時間の許すときに、コンテンツを更新しやすいツールや、訪れてくれた人が情報を探しやすいデザインを思い描いておくことに損はないはずです。IT部門のみなさんから、ウェブやマーケティングの担当者にオウンドメディアの立ち上げを提案する手もありですよね。

加藤 恭子
ビーコミ
IT雑誌記者を経験した後、ERPやCRMのベンダーの広報・マーケティングの担当者を経て、現在は企業のマーケティングや広報活動をコンサルティング・実務支援するビーコミを起業して事業を展開中。立教大学兼任講師も務める
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