[市場動向]
Amazon、Google、Microsoft、Salesforce、メガクラウドベンダーの最新動向を総まとめ
2012年6月5日(火)力竹 尚子、折川 忠弘(IT Leaders編集部)
IaaSやPaaSといった従来枠を超えたクラウドサービスが続々と登場している。ビッグデータ処理、HPC環境、機械学習…。企業が単独で用意するのは敷居が高いコンピューティング基盤を、手軽に手中にできる。「クラウドだからこそ」の世界を知り、競争力につなげる知恵が欠かせない。力竹尚子 / 折川忠弘[編集部]
2012年に入って、大手クラウドベンダーの動きがスピードを増している(図)。Amazon Web Services(AWS)はデータベース・アズ・ア・サービスの「DynamoDB」をはじめ数々の新サービスを発表。Salesforce.comも、クラウド型ヘルプデスク「Desk.com」やソーシャル型人事評価アプリケーション「Rypple」の提供を開始した。加えて、Googleが「Apps Vault」を開始。コンプライアンス強化サービスに乗り出した。
新規参入も続いている。3月には、NTTコミュニケーションズがパブリッククラウドサービスに参入。「Amazon対抗」を強く意識した料金設定で耳目を集めた。
一方、企業のクラウド利用はもはや必然である。クラウドでなければできないことが目の前にある。例えばGIS(地理情報システム)だ。
企業が保有する様々な住所データを、地図上にマッピングする。こう言うと簡単そうに聞こえるが、従来は“行うは難し”だった。地図データや専用システムの購入に、多額のコストがかかるからである。ところが、Googleがその常識をくつがえした。同社が保有する世界中の地図コンテンツを企業が自社サイトに埋め込めんだり、そこに住所情報を重ね合わせるサービスをAPI経由で利用可能にしたのだ。
巨額を投資しなければ得られないはずの膨大なコンピューティングパワーを、クラウドならば従量課金で利用できる。AWSは、HPC(High Performance Computing)用途に特化した仮想サーバーをEC2上で提供。分子モデリングやゲノム解析、数値モデリングなど、これまでスーパーコンピュータを用いなければ不可能だった高度な計算処理を、サービスとして利用できる。
大規模データの超並列処理やパターンマッチングといったいわゆるビックデータ分析も、クラウドに向く処理といえる。従量課金のクラウドならば、システムの導入や運用といった手間なく、さらにはデータ容量も気にせずアドホックな分析を実施できる。実際、この領域をターゲットにしたサービスが出始めた。GoogleのBigQueryやPrediction APIである。
本特集は、クラウドは今どこまで来ているのかを見ていく。指標として取り上げるのは、AmazonやGoogleなど先行する外資系4社、そしてそれらを追うIIJ、NTTコミュニケーションズのサービスだ。
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ビジネスを導く改革者に
アイ・ティ・アール シニア・アナリスト 甲元宏明氏
クラウドを導入する企業が増えているものの、IT部門の中にはAWSなどの主要クラウドサービスを一度も検証したことがないという人もいる。「クラウドを活用したいけど、どう使えばいいか分からない」では困る。新たなサービスを展開する上でどんなクラウドが自社の要件に合致するのかを把握し、新サービスを早期に提供できる体制を整えるべきだ。
IT部門はテクノロジを駆使して自らビジネスを変えていく“改革者”であってほしい。ユーザー部門の要望を受け入れるだけが業務ではない。クラウドの最新動向を踏まえ、どんなサービスが企業の価値を高められるのかを常に考えることが大切だ。そうしたアイデアを、即日利用できるクラウドを駆使して具現化する積極性も身につけてもらいたい。
クラウドベンダーの動向に目を向けよ
アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部
ITソリューション テクニカル・エキスパート/マネジャー 林田宏介氏
クラウドのサービスは多様化する傾向にある。IT部門はこれらを組み合わせてどんなシステムを構築できるのかを描き出すデザイン力が求められる。各サービスがユーザー部門のどんな課題を解決し得るのかを具体的なイメージで考える必要がある。
クラウドを使いこなすには、クラウドベンダーの取り組みに目を向けることも大切である。どんな意図で新サービスを提供したのかを理解することで、自社での活用例をイメージしやすくなる。必要十分な機能を備えたサービスがあるのを知らずに、自前で構築するのは大きな無駄。クラウドは常に進化する。基本的なことだが日々の情報収集は欠かせない。
今後は複数のクラウドを連携するなど、利用形態は多様化するだろう。そのときIT部門はガナバンスを効かせるのはもちろんだが、保守的にならず積極的に導入を推進する立場であることを望む。
テクノロジに強くなれ
ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ
バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト 亦賀忠明氏
そろそろ、クラウドをコスト削減策と見るのはやめよう。自動車や小売り店舗などあらゆるものが情報端末化しつつある今、クラウドは新たなビジネス基盤だ。その利用の巧拙は、企業の命運を分ける。日本企業は、そうした危機意識がどうも薄いようだ。
忘れがちだがクラウドとは“クラウドコンピューティング”の略。その実体は、様々な先端テクノロジの集合である。IT部門は、そうしたテクノロジの進化を常にウォッチし、優れた実装のサービスを選んで組み合わせるブローカーの役割を果たさなければならない。
今ならまだ間に合う。テクノロジに対する感度を高めてほしい。もしも「システムがクラウドに移行してしまったら、我々は存在意義を失う」などと考えるIT担当者がいたら、こう言いたい。「そんなことでは、ご自分の仕事がなくなる前に会社がなくなりますよ」。