ITのコモディティ化が進む中で、企業のIT部門は今、悩ましい数々の問題を抱えている。その筆頭に挙げられる1つが「エンドユーザーの満足度と全社的なガバナンスのバランスをどう維持するか」という問題だ。
例えばスマートデバイス。多くの人がスマートフォンやタブレット端末を所有し、個人の生活の中で“豊かなユーザー体験”をすでに味わっている。それを企業システムにも持ち込みたいと願うのは自然なことだが、セキュリティや運用負荷との兼ね合いで、まだ踏みきれないとする企業は少なくない。
クラウドの領域でも似たようなことが起こりつつある。アマゾンをはじめとして、パブリックのクラウドサービスが充実してきたことが背景にある。エンドユーザー部門が、コンピューティングリソースやアプリケーションをパブリッククラウドから調達することの敷居はいまや低い。何しろ、セルフサービス型の気の利いたメニュー画面から選ぶだけという手軽さだ。こうした中で、自社IT部門を“バイパス”するユーザーも出始めてきた。
ハイブリッドクラウドをいかに効率的に管理するか
このようにエンドユーザー部門のITリテラシーが高まる中で、IT部門は中長期的な視座も持ちながら、有効な手立てを考えなければならない。その中でも、とりわけ優先度が高いのがインフラストラクチャの整備である。
企業ITにおいて「所有から利用へ」という流れは今後ますます加速する。その発展的過渡期にふさわしいインフラ環境とは何かを熟慮しなければ、スムーズなクラウドシフトは望めない。
ここで目下の問題を整理しておこう。まず、すべてのインフラをパブリッククラウドでまかなえるだろうか…。答えはノーだ。一部の用途には実用的だが、エンタープライズが要求する品質や精度、安全性などをフルカバーする水準にはない。
ではプライベートクラウドがベストかというと、話はそう単純ではない。自社ニーズには適合させやすい反面、運用管理が複雑になったり、一定以上のコストメリットを出しにくいといった課題にぶつかってしまう。
何が現実解かを考えた場合、有効策の1つとなるのが、「ハイブリッド」だろう。オンプレミスに展開される仮想化環境やプライベートクラウド、パブリッククラウドを統合したインフラを構築・運用しようというアプローチである。
それぞれの長所を適材適所で活用するのは理にかなっているが、言葉で言うほど簡単な話ではない。強引に統合しようとすると、クラウドのサイロが随所にできるだけで、決してメリットは享受できない。そこには、きちんと考え抜かれたアーキテクチャなりフレームワークが不可欠となる。
この観点から注目したいプロダクトがある。レッドハットが7月末に発表した「Red Hat CloudForms」だ(図)。ハイブリッドなIaaS環境を構築・管理するプラットフォームという位置づけの製品である。オンプレミスのRed Hat Enterprise VirtualizationやVMware vSphere、パブリッククラウドのAmazon EC2といった異種クラウドを対象に統合管理できる。
一塊の異種混在クラウド環境を“横串”で一元管理できるのが1つの特徴だ。プライベートクラウドで稼働するアプリケーションのリソースが不足した時点でパブリッククラウドへ移行する、といった動的なリソース管理を実現するという。これは、クラウドでの共通化である「DeltaCloud」を利用するものだ。