[市場動向]
4社に1社がクラウド利用を見送った背景にあるもの
2012年9月4日(火)栗原 雅(IT Leaders編集部) 緒方 啓吾(IT Leaders編集部)
事業の早期立ち上げやグローバル展開、新たなITの取り込み、システム投資の削減…。 クラウドが、こうしたニーズを満たす有力な手段であることを疑う余地はない。 一方でセキュリティやコストに関して漠とした不安も残る。それを払拭するには クラウドに関する具体的なイメージ=“基準(リファレンス)”を持つことが必要だ。
日本通運に、大和ハウス工業、パナソニック、富士フイルム、ヤマトホールディングスバンダイナムコホールディングス──。今では、国内の活用事例に事欠かない。
民間調査会社のIDC Japanが2012年7月に発表した「2012年国内クラウドサービス市場 需要動向調査」によると、パブリッククラウドを利用中の企業は19.1%、プライベートクラウドは17.2%と、いずれも前年比で4〜5ポイント程度伸びた。5社から6社に1社が事業活動の基盤にクラウドを取り入れている計算である。一方で利用を見送る決断をした企業も相当数存在する。同調査で「検討したが利用しないことに決定」と回答した企業は、パブリックとプライベートで共に26.5%に上った。
もっとも、この数字を「4社に1社がクラウドを見限った」と解釈するのは、いささか乱暴過ぎる。“見送り”の裏には「技術的/管理的な課題によって短期間での利用/導入が困難」との判断があるからだ。クラウドを導入・運用する際に直面する大小の課題が可視化され、解決の道筋が明確になれば、回答は変わる可能性が高い。IDC Japanも「検討したことはクラウドの理解を促し、中長期的にはクラウドの普及を促進する」と見ている。
実作業の見えにくさが二の足を踏む原因に
クラウドの採用に二の足を踏む企業が抱えている懸念は複数ある。ITインフラを提供するIaaSだけを見ても、自社で保有するプライベートクラウドからパブリッククラウドまで、多種多様なサービスが存在する。どのサービスが自社に最適で、それは5年後も通用するのか──。これを判断するのが容易ではない点がその1つだろう。
第2が、情報セキュリティや障害対策、バックアップなど、機能の詳細やサービス体制の実像が必ずしも見えないこと。クラウドは事業者が用意したハードやソフトのリソースとオペレーションを、サービスとして利用する。サービス内容は事業者によって様々で、ユーザー企業にとってブラックボックスになっている部分が少なからずある。
最初に必要なITリソースの見積もりや、既存システムからのデータ移行、事業者から受けられるサポートなど、具体的な実作業の内容と負荷がイメージしづらい点も、もちろんあるだろう。ネットワーク越しにシステムを利用する以上、通信の遅延などシステムの応答性能やその対策も気になるところだ。
ではどう考えればいいのか。本誌は、特定のクラウドサービスを、できるだけ詳しく具体的に理解することが有力な手段になると考える。それを”基準(リファレンス)”として、他のクラウドサービスの強みや弱み、サービスの過不足を判断するアプローチである。そこで本特集では、インターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJ GIO」を取り上げ、全体像や内容を整理するとともに、導入と運用のフェーズで実際に発生する作業や留意点などを確認していく。
なおIIJは、富士キメラ総研が7月末に発表したクラウドに関する調査で、2011年度の市場規模174億円の中で30億円(17.2%)を占め、トップシェアを確保した。2012年度もそれぞれ281億円、67億円(23.8%)で、IIJが首位を堅持する見通しだ。加えて、他に先駆けてOracleデータベースを月額課金で提供したり、仮想サーバーのOSにWindows Server 2012を利用可能にするなど、サービス強化でも先頭グループを走る事業者である。