[インタビュー]
CIOよりもCMOがITに投資する時代が来る
2012年9月21日(金)IT Leaders編集部
Dreamforce 2012で発表された新サービスの中で、最も注目度の高い1つが、ソーシャルメディアを使ったマーケティング活動を支援する「Salesforce Marketing Cloud(マーケティングクラウド)だろう。米セールスフォース・ドットコムで、Marketing Cloudを担当するエグゼクティブ・バイスプレジデントのブレット・クイーナー氏に話を聞いた。
-まずは、Dreamforce 2012の基調講演で発表した新サービス「Marketing Cloud」について教えてほしい。
Marketing Cloudは、ソーシャルメディアを使った一連のマーケティング活動を単一のプラットフォームでまかなえるようにするもの。具体的には、買収した2つの製品、ソーシャルリスニングツール「Radian6」と、マーケティングツール「Buddy Media」を統合した。いずれも、市場で高い支持を得ていた製品だ。
フェイスブックやツイッターなど、ソーシャルメディアの重要性に気付き、マーケティングに活かそうとしている企業は多い。そうしたニーズに応えるべく、さまざまなベンダーが製品・サービスを提供していることも知っている。
ただし、一口に“活用”といっても、そこにはいくつかのステップがある。例えば、“消費者の声を聞く”、“コンテンツを公開する”、“広告を出稿する”、“広告の効果を測定する”といったものが考えられる。そうした一連のステップを包括的にカバーする製品・サービスはこれまで存在していなかった。企業は、目的に応じて個別の製品やソリューションを使い分ける必要があった。
-単一のプラットフォームとして提供することでどのような価値を生むのか?
企業によっては必要なツールを使い分けたいという考え方もあるだろう。そのこと自体は否定しないし、我々のスイート製品も一部をチョイスして使うことができる。ただ、統合されていない別々のツールを使い分けるのは得策ではない。全体最適化ではなく、個別最適化にとどまってしまうからだ。
また、ソーシャルメディアの活用は新しい分野。どのようなプロセスで進めるべきか、セオリーもない。そうした状況で、個別の製品を組み合わせて、特定の目的を達成するのは、大きな困難が伴う。今回のイベントでも、多くのエグゼクティブと意見交換したが、実践方法や教育に不安を感じている場合が少なくなかった。そうした状況で、ソーシャルマーケティングの全体増を見渡すスイート製品は、価値のあることだと考えている。
-セールスフォースはなぜソーシャルマーケティングに注力するのか。
ガートナーの調査によれば、2017年までにCMOのIT投資額は、CIOのそれを上回る。ソニーや任天堂、キヤノンを見ても分かるように、企業がマーケティングに費やす金額は数億〜数十億円という規模。ITよりも圧倒的に大きい。それが、徐々にソーシャルにもシフトしていくためだ。今回のイベントにも多くのCMOやマーケティング担当者が参加している。これまでは3〜5%程度だったが、今回は20%近い割合まで増えた。そうしたニーズに我々は応える必要がある。
-そもそも、企業はなぜソーシャルに注目するのか。
マーケティングのあり方に決定的な変化をもたらすからだ。マーケティングは60年間の歴史の中で、本質的な変化はなかった。もちろん、時代を下るごとに、選択肢が増えてきたことは事実だ。例えば、電話やダイレクトメールだけでなく、eメールやインターネットなどの手段が登場した。ただ、企業が顧客に対して一方的に情報を提供する構図は共通している。
例えば、トヨタやフォードといった自動車メーカーを考えてみよう。ソーシャル技術が登場する前は、購買時やメンテナンス時にアンケートをとる、メンテナンスに出すときにアンケートをとる、購入から5年後に買い換えを促す手紙やメールを出す、といった方法が主だった。
そうした状況は、セールスフォースでも変わらない。従来は、名前や電話番号、eメールといったデータ、あるいは検索ワードやクリック、イベントの来場など、アクションの履歴を見て、顧客を整理してきた。それは、必ずしも個人に注目して、マーケティングをしているとは言えないだろう。
それを変えたのがソーシャルメディアだ。消費者自身が、どんな友人を持ち、どんなこと関心を持っているのか、自分たちのことを自発的に話してくれる。自社の製品やサービスに対して、どのようなイメージを持っているのか。マーケターが苦労して集めてきた情報を、比較的容易に取得できるようになる。
ソーシャルが登場すると、状況は大きく変わる。例えば、フォードはフェイスブック上で、自分たちの自動車に関するエピソードを紹介したり、車の所有者に自分たちの思いや要望を交換してもらうことで、ブランド感を高めている。トヨタも同様だ。そうした活動が可能になる。
CMOの使命は、インスピレーションを与えること。ただし、今後は、商品を買ったら終わりという1回限りの関係ではなく、一生涯ファンでいてもらうことが重要になるだろう。商品を使った時に嬉しいと思える体験をしてもらう。継続的にブランドの情報をウォッチし、機会があれば友人にも勧めてもらう。企業のアピールよりも、友人の言葉の方がずっと消費者に届きやすいはずだ。
市場ニーズの変化に合わせて、製品・サービスを素早く開発することは、企業にとって共通の課題。コモディティ化した製品を販売している場合は、アップルのように忠誠心の強いファンを増やすことが生き残りの鍵となる。顧客との接点を維持する手段として、ソーシャルメディアは重要な存在だ。
-CIOよりもCMOが投資するようになるというのは予測は分かる。ただ、現状はソーシャルメディア関連サービスはそれほど大きなビジネスになっていない。そこに行き着くためには、どのようなアプローチが優秀だろうか。
米国でも事情は大きく変わらない。まだまだ、ソーシャルマーケティングという枠組みも確立していないように思う。今のところは、マーケティング予算の一部を使って、効果を試しているという企業がほとんどだろう。そうした予算のシフトを明らかにしたレポートもあまりないように思う。
一方、今後、ソーシャルマーケティングの動きを加速する鍵の1つは、効果の視覚化だろう。企業の幹部と話していると、ソーシャルが鍵だと考える人は非常に多い。ただ、投資収益を疑っていることも事実だ。ソーシャルを活用することで、どれぐらいの投資対効果が得られるのか、それを見たいという声は多い。
日本はソーシャルマーケティングをやりやすい状況にあるのではないかと思う。というのも、日本の消費者はソーシャルメディアを活用する度合いが、アメリカよりも進んでいるように思うからだ。私自身、日本に在住した経験から感じることだ。
スマートフォンが登場する前から、携帯電話で写真を撮ったり、テキストを書いて、自分たちの考えを表現したり、コミュニケーションをとってきた。つまり、日本人の消費者はすでにソーシャルな場で発言をしている。そうした声を聞いて、企業がうまく反応できるかどうかが一番の課題だろう。それらを、ツールを通して、具体的にすくい上げたり、投資対効果を示したり、手助けするのが我々の役割となるだろう。
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