先進諸国に比べて、日本の公共データ公開に向けた取り組みは遅れていた。 しかしここに来て、府省庁や民間団体などによる動きが活発化している。 本パートでは、具体的な施策や支援活動を整理する。折川 忠弘(編集部)
公共データは国が保有する重要な資産であり、活用することで経済の活性化や企業活動の効率化、市民生活の向上などが見込める—。こうした考えに基づき、公共データを企業や市民に開放する動きが広がり始めた。
各府省庁は政府が2004年に定めた「行政情報の電子的提供に関する基本的考え方」に基づき、保有する公共データの一部をWebサイトを通じて公開してきた。しかし、重要なデータが揃っていない、形式が不統一で扱いにくい、などの理由から民間での活用は思うように進まなかった。
そこで2012年7月、公共データの利活用を促進する「電子行政オープンデータ戦略」を策定。二次利用しやすいデータ形式で公開することを基本原則とし、商用利用できることも盛り込みつつ、これまでの障壁を取り除く施策を打った。
内閣官房と経済産業省、総務省が主導で戦略を推進する。具体的には内閣官房が公共データを使う上でのルール作りやデータの標準化などを進める。
経済産業省は他の府省に先駆けて、保有する公共データの公開に踏み切る予定だ。「DATA METI」と呼ぶ構想を打ち出し、試験的にデータを開放してノウハウを他の府省や自治体などと共有する。各種統計情報や観測、政策データなどを公開するサイトを開設し、データを利用するためのツールやAPIも揃える。
総務省は、医療や農業、行政などの異なるデータを組み合わせて新サービスを創出する情報連携基盤の構築を目指す。共通APIを使って各種データを取得できるようにするほか、交通や災害向けサービスの実証実験を進める。
独自に利活用を推進する民間団体や自治体も登場
国の取り組みを後押しすべく、公共データ公開を推進する民間団体も本格的な活動を始めた。
2012年7月に発足した「オープンデータ流通推進コンソーシアム」は、産学官連携により公共データの活用促進を目指す。2012年末の時点で、51の企業・団体と6つの自治体が参画する。3つの委員会を設置し、必要な技術やライセンスのあり方、普及するための施策などを検討する。「まずは公開済みの公共データに対し、二次利用するための仕組みやライセンス体系を明確にすることを目指す。数年後といった悠長な話ではなく、利用できなそうな公共データを自由に使える環境を“早急に”整備したい」(事務局である三菱総合研究所 社会公共マネジメント研究本部 情報社会推進担当部長 村上文洋氏)。
同じく7月に発足した「オープン・ナレッジ・ファウンデーション(OKF)」は、英国で設立した非営利団体の日本支部。公共データの利用促進を図るため、企業や行政、研究者などとの協働を進めるほか、情報提供やイベント開催などを行う。OKFが開発したオープンソースソフト「CKAN」を使い、自治体などのデータポータルサイト構築も支援する。CKANは英国やオランダ、ブラジルなどの政府ポータルサイトでの使用実績がある。「今後は政府の実務者会議や経産省のワーキンググループなどに参画し、政策を提言していく予定である」(日本支部代表 庄司昌彦氏)。
オープンデータ戦略に賛同し、保有するデータを公開する自治体も現れ始めた。主に市民生活の向上や安全対策の一環として取り組むケースが多い。
福井県鯖江市は「データシティ鯖江」と称し、積極的なデータ公開を進める。人口や気温といった統計情報、施設や観光情報を「XML」などの形式に統一して提供する。神奈川県横浜市は2012年末に公共データ活用を目指す委員会を発足。大学/研究機関や市民団体などと連携し、どのような公的サービスを創出すべきかを実証実験を通じて検討する。福島県会津若松市や千葉県流山市もまだ一部のデータに過ぎないが、人口統計や施設情報などを公開する。