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[ザ・プロジェクト]

1971年構築の基幹システムを刷新、自社開発パッケージでグローバル統合へ─日本精工

2013年5月8日(水)川上 潤司(IT Leaders編集部)

ベアリング(軸受け)生産で国内トップシェアを誇る日本精工。グローバル経営の強化に向けて、1970年代に構築した、基幹系システムの刷新プロジェクトに取り組んでいる。システム構築、運用を担当するNSKネットアンドシステムズにおいて、プロジェクトを牽引する2人に背景を聞く。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉

佐竹 等 氏
佐竹 等氏
NSKネットアンドシステム アプリケーション第一部長
1975年4月、日本精工に入社。オペレーターを皮切りに生産管理システム、管理情報システム、インターネットを活用したB2Bシステムの構築などに携わる。2010年10月より、販売管理システム再構築プロジェクトのIT部門リーダーを務める

 

増倉 政博 氏
増倉政博 氏
NSKネットアンドシステム アプリケーション第一部 フロンティアシステムグループマネージャー
1982年4月、日本精工に入社。国内生産管理システムの開発に携わった後、1990年よりイギリスに赴任。欧州ITシステム統合に参画する。帰国後、各業務部門の情報系や業務系などを担当。グローバルマネージメントの強化にも取り組む。2012年11月から現職

 

─ 御社の情報システムの歴史が大きな変革期にあるようですね。

佐竹:日本精工が業務にコンピュータを使い始めたのは1971年ですが、それ以来、初めてと言える変革かもしれません。国内外の拠点で使用している、生産管理や生産管理などの基幹システムを順次刷新しています。

増倉: 当社はここ数年、新興国など成長市場でのシェアを拡大するため、「グローバルマネジメント」の強化を図っています。今回の取り組みもその一環。システムを標準化することで、世界各地の生産拠点や販売拠点の状況をリアルタイムに把握し、スピーディな意思決定を下せるようにしたい考えです。

─ 現在の状況は?

佐竹:先陣を切ったのが、私が担当している「販売流通管理システム」。こちらはゴールが目前です。アジア、米国、欧州などはほぼ新システムに切り替えており、今年の8月には日本国内も新システムに移行します。今ちょうど最後の山場を迎えているところです。

増倉: 同時並行で、生産管理システムについても、新しいシステムのあり方を検討しています。また、基幹システムの刷新に合わせて、一昨年、私が担当している「経営情報システム」も、DWHやETLなどのインフラを一新しました。

1971年から40年間以上
基幹システムを連綿と受け継ぐ

─ まさしく大変革ですね。ところで、既存システムにはどんな課題があったのですか?

佐竹:もともと、基幹システムの再構築はIT部門にとって長年の課題でした。というのも、当社の基幹システムは、これまで新しいテクノロジーをほとんど取り入れてこなかったんです。

例えば、販売物流管理システム。40年前に導入した、当社で一番古いシステムです。処理をオンライン化したり、カバーする業務範囲を広げたりはしましたが、基本的なつくりは変わっていません。IBMのメインフレームで、アセンブラやCOBOLで組んだプログラムを運用。データは、RDBMS を使わず、VSAMと呼ぶファイルシステムに固定長データを書き込んで管理してきました。

─ 決して新しいとは言えないでしょうが、これまで大きな問題はなく運用してきたわけですよね?

佐竹:問題は柔軟性です。例えば、データの項目を追加したり、長さを変えたりするだけでも、大変な労力が要ります。固定長データを前提にシステムを構築しているので、システム全体に影響が及んでしまう。接ぎ木をするように機能拡張を繰り返してきたので、内部も複雑化していました。

増倉: ドキュメントもメンテナンスしていなかったので、まともに使えるのは、データフォーマットの定義書ぐらい。仕様を調べるためには、ソースコードを読み解くところから始めなければならない状況だったんです。

佐竹:ただ、パフォーマンスは良好だし、償却済みの既存資産を使い続けているから、お金もかからない。IT部門としては、課題を感じていましたが、会社に再構築を説得するほどのモチベーションがなかったのも事実です。

社内プロジェクトから見えた既存システムの限界

─ 状況を変えるきっかけを作ったのは?

佐竹:直接的な契機となったのは、2000年からスタートした、社内プロジェクトでした。専任の組織を立ち上げて、インターネットをはじめとするテクノロジーを使って、ビジネスの競争力を高めたり、業務効率を改善したりすることを目指したものです。

プロジェクトでは、電子商取引サイトや、DWH、イントラネットなど、いくつかのシステムを立ち上げました。ただ、生産管理や販売管理、経理などの基幹系には手を付けられなかった。変更のコストが大きすぎたんですよ。やむを得ず、外付けで機能を付け足したり、機能をあきらめたりせざるを得ない場面が多々ありました。

増倉: ちょうどその頃、グローバル展開やM&A、事業の統廃合みたいなニーズを予感するようになっていました。今のままでは、ビジネス側のニーズに対応できない。システムが足かせになってしまうと実感したわけです。

佐竹:さらに、既存システムの開発に携わっていた技術者が、定年リタイアを迎えようとしていました。先ほど述べたように、ドキュメント類は皆無でしたから、彼らがいなくなると、システムがブラックボックス化して、メンテナンス性も下がってしまう。

さすがにこのまま放っておくのはまずい。危機感を覚えたIT部門が、社内プロジェクトを終えるときに、役員会に対して「基幹系を再構築すべき。まずは、一番古い販売物流システムから刷新してはどうか」と提案したんです。それが通って、具体的な方法を検討するよう指示を受けた。現在の取り組みのきっかけですね。

個別構築したシステムがグローバル経営の障害に

機械産業の米 自動車からハードディスクまで、ありとあらゆる機械の回転運動を支えるベアリングは、「機械産業の米」とも呼ばれる。国内トップシェアを誇る日本精工は、グローバル市場でも覇権を狙う

─ 本社の基幹系刷新に合わせて、海外のシステムも置き換えていますね

佐竹:それが、冒頭に申し上げたグローバル化への対応です。1990年代以降、生産拠点をアジア各国に広げてきました。旧システムでは複数法人で利用することを考慮していませんでしたから、本社のシステムを参考にしながら、ERPパッケージをカスタマイズ、IBMのAS400などを使って、こぢんまりとしたシステムを作っていったんです。

─ システムの乱立…といっても、パッケージを使っていれば、それほど大きな違いは出ないでしょう?

佐竹:いや、それが違うんですよ。生産や販売の拠点には、IT部門の分室を置いているんですが、当時はガバナンスという発想が薄く、それぞれの自主性に任せていました。当然、各拠点は、自分たちの業務に合わせて、システムをカスタマイズしていった。いわゆる個別最適化です。その結果、パッケージとは名ばかりで、中身はそれぞれ全く別物になっていたんです。

増倉: 当初は問題なかったのですが、前述のように、グローバルマネジメントを強化する段になって、課題に直面しました。例えば、当社は今後、売上高1兆円を目指していますが、それを達成するためには、今よりも多くの物量をスムーズに回さなければならない。各拠点の状況をリアルタイム、かつ正確に把握して、生産や販売を柔軟に差配する必要があります。

ところが、システムが標準化されていないため、データの収集に手間が掛かるし、どんな計算過程を経ているか分からないので、データの整合性や一貫性にも不安がある。状況を改善するためには、基幹システムを標準化が必要不可欠でした。

そこで、本社の基幹システム刷新に合わせて、日本精工グループとしての標準を策定し、それに準拠するよう各拠点のシステムも置きかえることにしたのです。

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