明治大学は2013年5月28日、同大学が川崎に持つ黒川農場で進めるICTを活用した農業についての取り組みを公開した。M2Mネットワークなどを手がけるルートレック・ネットワークや、クラウド環境を提供する日本マイクロソフトなどと共同で進めている。センサーデータをどう事業に生かすかの一例になる。
公開したのは、養液土耕法によってトマトを栽培しているビニールハウス棟。養液土耕法とは、肥料を必要な量だけ溶かした水を点滴しながら土壌で作物を育てる方式である。
黒川農場では、どれだけの肥料を溶かした水を、いつ、どれだけ点滴するかを決めるのにICTを使う。具体的には、温度センサーや土壌センサーなどから得たデータをクラウド上で分析。その結果に基づいて、点滴用のバルブを開閉する(写真1)。
明大・農学部の小沢聖 特任教授は日本の農業が抱える課題として、高齢化や農業就業人口の減少、および肥料による環境汚染などを挙げる(写真2)。ただ、就業人口の割合は農業輸出先進国と同等なため事業規模的にみれば就業者が多いこと、平均所得は1戸あたり167万円だが格差が大きいことなどから、事業効率は低いとも指摘する。
ICTを使った養液土耕栽培では、これから課題の解決を期待する。センサーなどで取得したデータに基づき、作物が適切に育つように水や肥料を自動的に与えられるようになるからだ。植物工場や水耕栽培などに比べ、システム面での投資額を抑えることもできる。
養液土耕の制御システムである「ZeRo.agri」は、ルートレック・ネットワークスが開発した。各種センサーからのデータは、無線LAN経由でデータコントローラに集約(写真3)。そのデータを3G回線経由で10分おきに「ZeRo.クラウド」に送信する。ZeRo.クラウドは、日本マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure」上に構築した集計・分析サーバーである。
ZeRo.クラウドでの分析結果に基づき、水に肥料を混ぜるミキサーの動きや、肥料が混ざった水をまくバルブの開閉を調整する。専用のWindows 8アプリケーションを搭載するタブレット端末から、センサー情報を参照したり散水量を著制したりできる。Windows 8アプリケーションは、セカンドファクトリーが開発した。
ZeRo.agriがもたらす効果について、小沢任教授は、「ベテラン農家のノウハウをデータ化することで、後継者や新規参入者でも一定品質以上の作物を育てられること」と説明する。加えて、「ベテランがその場所にいなくても、現場に指示が出せること」という。後者については、小沢特任教授が出張で農場にいなくても、実習中の学生に適切な指示が出せているとした。
ルートレックの佐々木伸一社長は、散水量などを調整したログなども蓄積できることから、「親から子へ、ベテランから新人へといったノウハウの伝承が、単なる一方通行ではなく、受け取る側が試行錯誤することで納得した形で身に付けられる。単なるデータ化にとどまらない」と強調する(写真4)。
今後は、農業水産省の「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」として、岩手大学とともに、より広範囲な地域を対象に、主農場での測定結果を周辺のサブ農場に展開する仕組みを3年間の予定で検証するほか、農業システムとしての海外輸出にも取り組む計画だ。