[インタビュー]
「米国仕込みの最新技術を提案する」ベトナムのシステム開発会社会長
2013年7月18日(木)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)
米国企業にベトナムからのオフショア開発サービスを提供する米Universal Technology Services(UTS)が2013年6月、同様のサービスを日本市場特化で提供する兄弟会社Universal Software Services(USS)をベトナムに設立、代表取締役社長に玉井 節朗 氏が就任した。USSは、ソフト開発力だけなく、UTSが米国市場で手がける最新技術を使ったシステム構築ノウハウを含め日本企業に提案するという。来日したUSS代表取締役会長兼最高執行役員のウイリアム D.グエン博士に、USSの事業内容や差別化点などを聞いた。(聞き手は志度 昌宏)
――日本市場を対象にオフショア開発サービスを提供するベトナム企業は以前からある。なぜ今、日本市場特化の開発会社なのか。
確かにベトナムにはオフショア開発サービスを提供する企業が多数ある。しかし、その多くが10~30人規模と小規模だし、顧客企業から受け取った仕様書通りにソフトを開発する受託開発型である。彼らは、プログラマを多数抱えるものの、最新技術を使ったシステムの設計までには踏み込めない。
一方で日本企業は今、グローバル化と事業のサービス化を迫られており、ITを使った新たな仕組みが不可欠になる。USSの兄弟会社であるUTSが米国で請け負っている、クラウド化やモバイル化のための技術を必要とする案件が増えるはずだ。そうした市場に向けて、最新技術を提案できる会社としてUSSを設立した。
――米国ではどんな案件を手がけてきたのか。
米シリコンバレーにUTSを設立して7年が経つ。公開できる企業だけでも、通信機器メーカーのシスコシステムズやネットギア、セキュリティ関連企業のシマンテックやウォッチガードなどが顧客になっている。それぞれがクラウド・コンピューティングやモバイル、あるいはビッグデータに対応するための機能を開発し提供してきた。
いずれも最新技術への対応が不可欠、短期間での開発も求められる。短サイクルでプロジェクトを進める「スクラム」や反復型の「XP(エクストリーム・プログラミング)」といったアジャイル開発手法を採り入れ、実践している。
米国市場で得た最新技術やノウハウを基に、ベトナム市場では、ベトナム語を対象にした検索エンジンの開発会社Vietciaや、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のVoximax、動画なども配信するエンターテインメント系ポータルサイトのRoloなどを立ち上げた。システム基盤の構築からスマートフォン向けアプリの開発まで、要件が不確定で、かつ大量のアクセスをさばかなければならないシステムは、我々の得意分野の一つだ。
――日本では、どんな市場をターゲットにしていくのか。
UTSが得意とする最新技術を必要とするエリアだ。新しい仕組みを当社から提案していたい。例えば、医療関連機器メーカーでは今後、ネットワークと連携した各種のサービスを提供していくだろう。
企業情報システムにおいても、モバイル対応やそこでのセキュリティの確保などを避けては通れない。いずれのケースでも、クラウドやモバイルといった技術が不可欠になってくる。当社は、こうした企業が求める仕組みをトータルに提案できる。
――日本では、企業のモバイル対応やアジャイル開発への取り組みなどが遅れている。貴社の開発方法などは受け入れが難しいのではないか。
当社の開発体制は、米国企業が求めるスピードに照準を合わせた結果だ。ローカルな市場だけを見ていれば、これまでの方法でも十分なのかもしれないが、市場はもはやグローバル化している。そこでスピードに乗り切れなければ、海外からスピード感のある企業が乗り込んでくるだけだ。韓国サムソンがグローバルに躍進しているのが、その好例だろう。
人材育成・教育も提供できるので、当社との契約を通じて、アジャイル開発などスピードを高めるための方法論を身につけることもできる。ベトナムで開発するため、コストは削減できる。ただ、品質を保ちつつ、短期間にシステムを立ち上げることの価値をむしろ強調したい。そのことで得られる機会獲得効果は大きいはずだ。
スピードとは視点が異なるが、米国企業と取引してきた結果としての差別化点として、IP(インテレクチャル・プロバティ:知的財産)の管理においても十分な体制を気づいている。でなれければ、米大手企業との取引は不可能だ。
――ベトナムの開発体制は十分なのか。
UTS/USS合わせて、2013年6月時点で80人のソフト開発者が在籍している。平均年齢は24歳だ。いずれも米ハーバード大学や米スタンフォード大学、ベトナム・ホーチミンの工科大学などの卒業生で12%が博士・修士課程の修了者だ。また10%が海外での研修・開発を経験している。
市場拡大を見越し2013年8月をめどに100人体制にまで拡大する。既にホーチミン工科大学では研修を始めている。ベトナムでは優秀なソフト技術者の獲得競争が起こっているが、当社のCTOであるチャン・タイ・ソン博士が、同大学内に研究室を持っていることもあり、優秀な学生の獲得が容易だ。ソン博士は日本の豊田工業大学で顔認識やセキュリティ、通信システムなどを研究していたこともある。