[技術解説]

破壊的テクノロジー、”スマートマシン”が到来する

2013年10月18日(金)田口 潤(IT Leaders編集部)

皆さんは、「スマートマシン」という言葉をご存じだろうか。自律的に行動し、学習を重ね、これまで人間しかできないと思われていた作業をこなす機械のことだ。遠い世界の出来事のように聞こえるかもしれないが、すでに現実のものとなりつつあるという。

 「スマートマシンの時代はすでに始まっている。そんな中でCIOは今、何をすべきか?」--。ガートナーシンポジウムのセッション冒頭、同社のトム・オースチン氏(バイスプレジデント兼フェロー)は、こう聴衆に問いかけた。

 「すでに始まっている」という点は、筆者もその通りだと思う。クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータに続き、新たなITキーワードとして”スマートマシン”が急浮上しているのだ。クラウドやビッグデータなど4つの技術の集合体と位置づけられるうえ、スマートマシンのインパクトはクラウドやビッグデータを凌ぐ可能性が大きい。まだ夢物語に近い面もあるが、ITの将来を占う上で重要だ。同氏の講演内容を紹介しよう。

ITの進化がスマート化を加速する

 まずスマートマシンとは何か?オースチン氏は、「人間の領域で人間にしかできないと思われていたことを実行する。自律的な学習機能を備え、状況に適応するのが特徴」と定義する(図1)。「人間がリモートコントロールしる無人偵察機はそうではないが、グーグルや日産自動車が開発中の自動運転車はスマートマシンの1つである」(同氏)。

図1:スマート・マシンの特質

 簡単に言えば、ある種の知性を備えたシステムやマシンのことだが、これは1980年代から90年代前半に活発に実用化が試みられたAI(人工知能)のムーブメントとは何が違うのか。オースチン氏によると、4つの点で決定的に異なるという。ハードの進化、アルゴリズムの進化、ネットワーク規模の拡大、利用できるコンテンツの膨大さ、である。

 ハードの進化はいうまでもないだろう。CPUの単体性能やメモリー容量は数千倍になり、今も進化している。アルゴリズムに関しても当時のシンプルなルールベースのエキスパートシステムから、UIMAや意味抽出、コンテキスト認識に進化した。人間の脳を模したニューラルネットも90年頃の3層モデルから現在では多階層のDeep Learningモデルになり、精緻さを増している。

 加えて今日ではそうした要素が単体で動くのではなく、ネットワークで相互接続される。疎結合か密結合かはさておき、「10の11乗=1000億のノードが連携する」(同)。そこに加わったのがビッグデータだ。蓄積した大量のデータや情報から確率的に解を導出できるようになった。かつてのAIムーブメントとは量的な面でも、質的な面でも時限が異なるといえる。

秘書から専門家型、自律型まで様々なタイプが存在

 このような背景を説明した上で、トム・オースチン氏はスマートマシンを3タイプに分け、具体例を解説した。一つ目のタイプがMovers。自律走行車など移動するものだ。取り上げたのはグーグルなどの車と同時に、Boston Dynamicsが開発する「Big Dog」、米軍が開発中の無人偵察機。X-47Bなど。軍用なので仕方ないが、ビデオを見る限りBigDogはかなり気味の悪い4足歩行ロボットである。


Boston Dynamicsが開発する「Big Dog」

2番目のタイプはSages(賢者)。秘書的な役割の「仮想パーソナル・アシスタント」と、高度な専門知識を提供する「スマートアドバイザー」がある。前者の例として、同氏はまず1987年に米アップルが作成したビデオ「Knowledge Navigator」を取り上げ、90年代前半のPDA「Newton」を経て現在の音声認識/応答の「Siri」に至る流れを説明。


1987年に米アップルが作成したビデオ「Knowledge Navigator」

さらにマイクロソフトリサーチのエリック・ホルビッツ氏のプレゼンテーション、グーグルのKnowledgeGraphに言及した。「この仮想パーソナル・アシスタントは、40社以上のベンチャが何らかの開発を行っている」という。


エリック・ホルビッツ氏のプレゼンテーション

 前者が様々な要望に対応するアシスタントだとすれば、「後者のスマートアドバイザーはコンテンツの専門家である」。好例がIBMのWatsonだ。詳細はこちらの記事を読んでいただきたいが、例えば数億件以上の臨床データや医学文献を蓄積。患者の症状を入力すると、原因を確率付きで表示する。どんなに優秀な医者でも最新のすべてのデータや文献に目を通し、記憶して置くのは不可能だから、この面では人間を超える。

 オースチン氏は「スマートアドバイザーは短期的には最も価値が高く、WatsonのIBMのビジネスに占める割合も年々、大きくなるだろう」と指摘する。なおIBMはWatsonをCognitive System(認知/学習するシステム)と呼び、AIやスマートマシンとは呼んでいない。

スマートアドバイザーの派生系として、営業資料(数字データ)から報告書文章を生成するツールや(図2)、大学レベルの論文試験を自動採点するツールも、実験的だが登場している。後者はMOOC(大規模オープンオンラインコース)の有力事業者であるedXが、コース終了試験のために過去の大量の採点結果を使って開発しているものだ。

図2:データから文章を作成するスマート・マシンも
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