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[今求められるIT組織のグローバル化]

海外対応要員に求められる「判断」と「行動」:第7回

2014年1月9日(木)PwC Japanグループ

前回は、現地駐在員と現地従業員の考え方の差を埋めるには、「認知」の違いを適切に読み取ることが必要であると述べた。今回は「認知」に加えて、「判断」と「行動」の解釈の違いを考える。解釈の相違をもとに、海外対応要員に求められる要素を考察する。

「判断」は立場と責任範囲の違いが影響する

 「判断」とは、「認知」した仕事を遂行するのに必要な情報を、どう活用するのか考えることである。日本と海外ではこの考え方に差が生まれることが多く、特に次の2点に集約される。

1.立場の違い
2.責任範囲の違い

 事例を交えながら、差異が生まれる状況と対処例を解説する。

1. 立場の違い

 日本からの駐在員は「管理する側」、海外従業員は「管理される側」に立つ場合に差が生まれやすい。M&A直後に多くみられる傾向で、日本のグローバル本社は「管理を強化したい」と思い、被買収企業である海外従業員は「自治を維持したい」と考える。

 ある企業は、「(日本企業が持つ)グローバルなネットワークと現地の先進的モデルを融合したハイブリットモデル」を標榜したにも関わらず、結局、現場では領域別にどちらか一方に近づけるべきという議論に終始するケースもある。

 こうした状況下で、上手く立ち回れる海外対応要員とはどんな人か。一言でいえば「同じ立場に立つ」人である。グローバル本社の一員として海外従業員に指示するのではなく、共通の目的に向かって一緒に考える立場だという姿勢を示すことが必要だ。グローバル本社の決まり事などを、積極的かつ可能な限り海外従業員に開示したり、海外従業員ではアクセスが難しいグローバル本社内の関係部門との橋渡し役を担ったりする。共通の目的に向かって一緒に働くパートナーとして、課題に対処すべきである。

2. 責任範囲の違い

 日本と現地のスタッフでは、自身の責任範囲をどう捉えるのかが異なる。

 こんな事例がある。海外従業員であるプロジェクトメンバーに、プロジェクトとの関連性は高いものの、厳密にはプロジェクトスコープに含まれない通常業務への関与を依頼したところ、頑なに断られた。

 海外従業員は、自身の役割と責任範囲を明確化し、範囲外の業務には極力関与しない傾向が強い。責任範囲を超えて他のメンバーの成功を支援する行為は、日本人なら美徳と考えられるが、海外では他のメンバーの仕事や責任を侵害する行為と捉えられてしまう。

 この違いは日本と海外の労働環境に起因する。日本の場合、労働基準法により労働者を解雇するのが海外に比べて難しい。経営者にすれば、労働者は“固定費”である。固定費ならば、同じ給与(職階)の範囲内で様々なことをこなす“多機能工”が望ましいと考えられてしまう。

 他方、海外では労働者の流動性があり、従業員の職責と責任範囲が変われば給与が変わる。極端な例だが、IT部長がある日、配置転換で人事部長になったとしよう。日本なら職階が同じなので給与は変わらないが、海外では職責が変わるため、当然のように給与も変わると考えられる。

図1:給与体系の違いについての国内外比較(イメージ)

 海外対応要員は、立場や責任範囲をどう捉えるかにより、導き出される「判断」が大きく異なることを理解しなければならない。では役職や立場、責任範囲の異なる人の「判断」の差異を解消するにはどうすればいいのか。

 1つは、何をすべきかを明確に共有しておくことが重要である。日本的な行間を読む役割定義や責任範囲の定義は曖昧で機能しなくなる。例えばPMBOKやITILといったフレームワークの活用は、役割定義や責任範囲を明確化する際の一助となるだろう。

 頻繁にコミュニケーションをとることも必要だ。分化した関係者を集めて15分から30分程度の電話会議を実施し、タスクの漏れや重複を確認したり、漏れているタスクを誰が実施するのかを明確にしたりすることが重要である。

 日本人なら、適度なコミュニケーションさえとっておけば「自分の役割以外にも関与しようとする人が現れるかもしれない」と思うだろう。しかしこうした曖昧な期待が、タスク漏れに気づくのを遅らせる危険をはらんでいることを忘れてはならない。日本人同士でであっても緊密なコミュニケーションは不可欠である。

「行動」はワークスタイルの違いが顕著

 「行動」とは、仕事としての資料の作成や会議の実施などのアクティビティを指す。作成する資料1つにしても、日本の駐在員と海外従業員では異なる場合がある。

 例えばシステム開発プロジェクトでは、日本なら「プロジェクト計画書」を作成するのが通例である。プロジェクト計画書とは、プロジェクトの目的や背景、スコープやマスタースケジュール、体制、テストや移行の方針、役割分担、管理手法などを記載した文書である。

 ただしPMBOKではプロジェクト管理上、プロジェクト計画書のような文書を作る必要があるとは明記していない。海外ではPMBOKに沿って作るべき文書を、「プロジェクト憲章」や「プロジェクト管理計画」といったガバナンス構築の文書、プロジェクトの目的や背景、スコープなどはスコープマネジメントの文書、スケジュールや役割分担はタイムマネジメントの文書といった具合に、文書を分けて作成する場合が多い。本質的に差異はないのだが、見た目や書きぶりは異なる。

 管理方法を見ると、日本では“神は細部に宿る”として網羅的かつ詳細に検討するが、米国などでは「Micro Management」と揶揄されることが少なくない。

 筆者の周囲でも、英国人の同僚は日本人が有給をなかなか取らないことに対して、「休むのは権利だから、使わない意味が分からない」と言う。残業も然りだ。退職においては、ある国の同僚がプロジェクトの真っ最中に突然辞めてしまい、残されたメンバーは交代要員がすぐに見つからずに苦慮するということがあった。日本では考えにくいケースといえる。

 こうした小さな違いの積み重ねが、お互いを信頼しにくくしている。海外対応要員は、自身の海外従業員の行動に違いがあることを前提に、海外従業員の取り組みに一定の理解を示さなければならない。

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