選択したクラウドサービスが停止することは、ビジネスに大きな影響を与える。クラウドが持つバーチャルな資源の裏側には、それをサービスとして提供する会社があり、データセンターがある。クラウドサービスを選択する際には、そのクラウドの提供者であるサービスプロバイダーの選択も重要な要素になる。
クラウドサービス、なかでもIaaS(Infrastructure as a Service)は、コモディティ化の流れが始まっている。利用料金が安いサービスも提供されている。コモディティ化、低価格化は、サービスを使用する側から見れば良い傾向だ。だが、手放しでは喜べない状況もある。
例えば、2013年10月1日、ストレージのクラウド・サービスプロバイダ(Cloud Service Provider:CSP)である米Nirvanixが事業停止を発表した。7年間、サービスを提供してきた後のサービス停止である。CSPの事業停止は極端なケースではあるが、Nirvanixのサービスを選択・利用してきた企業においては、ビジネス面でも大きな影響を受けたことは想像に難くない。CSPを変更するためには、預けてきた大量データおよびシステムの移行が必要になり、多大の時間と労力を要するからだ。
サービスを使う側の視点に立てば、選択時のキーポイントは、要求するサービス仕様を満たし、かつそのサービスを利用することで、コストやスピードなどの経営メリットを受けられるかどうか、すなわちサービス品質そのものである。しかし、Nirvanixの例にもあるように、CSPの事業が、災害や障害、あるいは経済的な事情によって、中断・停止される可能性は否定できない。
一方、サービスを提供する側の視点でクラウドをみれば、いかに競争力のあるサービスを低コストで提供できるかがキーポイントになる。サービスとしてのBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)やDR(Disaster Recovery:災害復旧)だけでなく、事業体としてのCSPそのものの長期的な安定・安心を左右するからだ。以下では、事業者のコスト構造を左右するテクノロジーを深掘りしてみよう。
GoogleやAmazonの強さの一因は“自社利用”
クラウドサービスはデータセンターから供給される。外部とのネットワーク接続機能を完備したデータセンターに、サーバーやストレージ、ネットワーク機器などのIT機器を集中させ、統合的な運用管理を実施することで、仮想化したIT資源をクラウドサービスとして提供する。そこでは、地震対策のほか、無停電装置や発電装置といった電源対策、セキュリティ対策、空調対策なども不可欠だ。
結果、データセンターの直接コストにおいては、サーバーやストレージ、ネットワーク機器などのIT機器費用のほかに、電気代や、場所・施設に関する費用、運用のための人件費が大きな割合を占める(図1)。競争力のあるデータセンターを建築するためには、第1にデータセンターの規模を、第2には電力コスト削減施策を考慮する必要がある。
データセンターは、規模が大きければ大きいほど、単位サービス当りのコストや管理コストを低くでき、競争力を高められる。施設、ネットワーク、IT機器や運用人員を共有できるし、IT機器調達コストも安くできるからだ。いわゆる“規模の経済”のメリットを享受できる。この意味から、100万台以上のサーバーを収容する海外のデータセンターは、小規模データセンターに比べ、コストの面で大きな強みを持っている。
しかし、大規模なデータセンターを作っても、サービスが売れ、データセンターの稼働率が上がらないと、大きな初期投資に見合った収入が得られず、経営は厳しいものになる。順次増設できるコンテナ型データセンターという選択肢は、建物への初期投資リスクを軽減するためのものだ。
初期投資リスクは、データセンター開設時に相応の稼働率が見込めれば小さくできる。この意味で、米Googleや米Amazonなど自らもデータセンターを使用する企業は稼働率が見込めるため、サービス事業者としても非常に大きな強みを持っている。巨大なデータセンターの構築が可能になり、稼働率が上がれば上がるほど、利益を生み出せることになる。
SDNが加速するデータセンターの仮想化
クラウドサービスでは、仮想化技術が重要な意味を持っている。仮想化によってIT機器を有効活用でき、占有して使う場合と比べてコストメリットを得られるためだ。運用面でも仮想化によって柔軟性が増し、自動化によって人員削減のメリットも出てくる。
この仮想化でも“規模の経済”が効いてくる。大規模な仮想化環境を構築し、仮想サービスの稼働率をより高められれば、単位サービス当たりのコストを削減でき、競争力を持てる。そのために、拡張可能なアーキテクチャを採用し、初期段階からスケールアウト機能の提供を考慮した投資規模を決定し、稼働率を予測しながらIT機器へ投資する必要がある。
最近は、SDN(Software Defined Network)の実装が進んでいる。これも、サーバーやストレージに加え、ファイヤウォールやロードバランサー、ルーターといったネットワーク機器を仮想化することで、競争力を高めるための取り組みの一環だ。
さらに、複数のデータセンターを1つのクラウドとして統合運用管理できるように技術が進化してきている(図2)。データセンターの規模の拡張とユーザーの利便性の改善が目的である。
複数のデータセンターの一括運用においては、SDNを実装しアドレスや経路を一元管理しなければならない。データセンター間を結ぶネットワークも、品質が不安定なインターネットではなく、専用に近い高速ネットワークが必要になる。
2012年に米IBMが買収した米SoftLayerのクラウドがその一例である。Softlayerのクラウドに一旦入ると、10Gbpsで結ばれた複数のデータセンターにあるサーバーを使えるし、CDN(Contents Delivery Network)など安定した高速伝送路として利用することも可能になる。同様の機能は、GoogleやAWS(Amazon Web Services)も実現済みだと思われる。
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