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ソニーを苦境に追い込んだ本当の理由は「データマネジメント」の不在!?

2014年2月14日(金)田口 潤(IT Leaders編集部)

毎年のようにリストラを実施し、削減した人員は累計7万人。しかし2014年3月期の決算は1100億円もの巨額赤字へ─。ソニーが、VAIOブランドで展開してきたパソコン事業の売却やテレビ事業の分離・子会社化、さらに5000人の人員削減を柱とする追加のリストラ策を発表したのは2月初めのことだった。そのニュースは、ソニーファンならずとも、国内外に大きな衝撃を与えた。

何がソニーをそこまで追い込んだのか。「スマホやタブレットが急速に普及する中、(パソコン事業で)魅力ある製品を開発できなかった」と言われるが、どうも腑に落ちない。VAIOブランドのパソコン、特にノート機は薄型かつ軽量で、素材感やデザインも優れる。米アップルのMacBook Airと並び、“パソコン界のポルシェ”と評されるほどであった。タブレット人気に押されているのは事実としても、米インテルが提唱するウルトラブック分野ではトップクラスに位置する製品である。テレビも同様。デザイン、機能ともに他社の製品から大きく引けをとっているわけではない。

写真 デザインも機能も魅力的な製品が多いソニーではあるが…

「メモリーデバイスをはじめとする電子部品の調達の巧拙、それに起因する価格(収益性)が問題なのではないでしょうか」─。あるIT企業のトップは、ソニーの問題をこう解説する。「CPUやメモリー、SSDなど主要パーツの仕様が似通ったモデルでMacBook Airと比べると、VAIOは1~2割ほど高価なんですよ。重量はVAIOが1~2割軽いのですが、価格差を打ち消せるほどではありません。この価格差は部品調達の巧みさに依ります。例えば米アップルのiPadやiPhone、iPodの中身を見ると、まさに“メモリーの塊”。MacBookも似たようなもので、それらのメモリーを一括調達することで、アップルは製品単価を下げながらも、利益を得ています」。さらにこう続ける。「それに対してソニーはパソコン、スマートフォン、ウォークマン、テレビなどの事業部門が、それぞれの事業計画の中で個別にメモリーを調達している模様で、価格が下がらない構造になっているようなのです」。

とはいえノートパソコンとスマートフォンやタブレット、音楽プレーヤーは製品サイクルも、使用するメモリーも異なる。例えば音楽プレーヤーが主に内蔵するのは不揮発性のフラッシュメモリー、パソコンの主メモリーは揮発性のダイナミックメモリーである。「その通りですが、そうはいっても共通することも少なくありません。フラッシュメモリーやダイナミックメモリー毎に、自社で使用するメモリーの総量を算出すれば発注量は大きくなります。個別製品の需要予測や販売力の確かさがあってのことですが、アップルは資材調達や工場での生産、物流といったサプライチェーン・マネジメント(SCM)が優れていると言えます」。

実際、米有力調査会社のガートナーは、毎年、サプライチェーンの優秀企業25社を発表している(http://www.gartner.com/newsroom/id/2494115)。それによるとトップは米アップル、8位に韓国サムスン電子が入っているが、ソニーの名前はない。

SCMが優れているとされる企業には事業部別、製品別のデータに横串を刺し、全社の事業の実態を把握できる情報システムがあると同氏は言う。「多くの企業では、調達や生産、販売を管理する情報システムは事業ごとに構築されています。ですから事業を横断して、全社で調達するメモリーの総量を種類ごとに把握するのは難しい。そもそも総量を把握する必要性も日本ではさほど認識されてきませんでした。しかしアップルや韓国サムスン電子、一部の台湾、中国のメーカーはそれをやっています。まとまった量を安定的に調達するので、供給業者にとっても単に値下げ要求するのに比べてメリットがあります」。

同氏が言うように、複数の製品や事業を超えてデータや情報を一元化し、最適調達するのは簡単ではない。事業それぞれの歴史や事情を反映した情報システムは、構築年代が違えばITインフラやデータベース、アプリケーションのアーキテクチャも異なる。データの記録形式、資材を表すコードや品番、取引先名称などのマスターデータも統一されているケースは少ない。しかも個々のシステムに最新のデータが正確に蓄積されているとは限らないからである。

別のITコンサルタントは「経営や事業に活用するためのデータの維持・管理と活用、つまりデータマネジメントを、適切に実践している日本企業は多くありません。個別の事業がそうなのですから、全社となるとなおさらです」と指摘する。つまりはデータマネジメントへの取り組み=事業の実態を把握し、遂行するための基本姿勢=に差異があるのだ。

20年以上前、ソニーは情報化先進企業として知られていたし、数年前もソニーはマスターデータを統一するプロジェクトを立ち上げ推進していた。しかし、それが競争力に貢献するレベルで完成していたのかどうか。そして、そのシステムを活かす経営がなされていたのかどうか。事業売却や分離の状況を見る限り、何らかの問題があったことは間違いないだろう。少なくとも「魅力ある製品を開発できなかった」こととは違うところに原因があるといえる。事業部門を超えたレベルのマネジメント=経営の問題である。

前出の、あるIT企業のトップとの会話に戻ろう。個別の製品の開発力だけではなく、複数の製品に使われる部品の調達力やそれに起因する価格競争力が事業の成否に強く関わるとする。その場合、今回のリストラ策で発表されたこと、つまりメモリーなどの半導体を多数使用するパソコン事業を売却したり、テレビ事業を子会社化するのは、これからの中核事業と位置づけるスマートフォンやタブレット、ゲーム機に悪影響を及ぼすのではないか?

「その通りだと思います。ソニーのパソコンやテレビは、年間数1000万台を目指すスマホやゲーム機より一桁下の出荷台数であるとしても、単価が高い分だけパソコンは多くの部品を使いますし、今日のテレビも中身はコンピュータです。今、収益が得られないからという理由で分離するのは、マイナス面が大きいでしょう」。─はたして今回のソニーのリストラ策が功を奏するのかどうか。ソニーが期待するスマートフォン分野は競争が激しく、生半可なことでは勝負できないのは確かだ。

参考記事:「国内企業のデータ活用はどんなレベルにあるのか?
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