シリコンバレーには、新手の“マフィア”が多数存在する。といっても、ギャング集団ではない。ベンチャービジネスの起業家集団のことだ。ビジネスモデルが似ていることから、そう呼ばれる。今回は、PayPalマフィアと、Oracleマフィア、Amazonマフィアを紹介する。
そもそもマフィアとは、地中海に浮かぶシシリー島出身の犯罪組織のことである。一部は19世紀末から20世紀初頭に米国に移民し、ニューヨークやシカゴ、ロサンゼルスなどの大都市部を中心に勢力を拡大した。縄張り争いや裏切りなどが原因で、殺りくを繰り返してきた。その実態は、映画『ゴッドファ-ザ』(1972年封切)に描かれ、世界中に浸透した。1992年には、アメリカの主要26都市で合計168のマフィアファミリーが存在し、数千人がメンバーになっていた。
2011年にFBIがマフィアを一掃し、メンバーを大量に逮捕したことで、米国でのマフィアの影は薄くなっている。しかし、世界規模でみると、ロシアや中南米、香港などには地域マフィアが未だにはびこっているという。ちなみに、日本のヤクザは「ジャパーニーズ・マフィア」と呼ばれている。
米国で影が薄くなったマフィアに代わり台頭しているのが“シリコンバレー・マフィア”と呼ばれる集団である。同じ会社にいた幹部たちが独立後も、“マフィアファミリー”のように連絡を取りながら、新たなビジネスを立ち上げていることから、そう呼ばれる。罪を犯しているわけではないが、強力な団結力と技術力によって金儲けに勤しむというビジネスモデルが、そっくりだからだ。
多数のベンチャーを排出するPayPalマフィア
シリコンバレー・マフィアの代表格といえるのが、電子決済サービスのPayPalである。1998年に、ピーター・ティール氏ら5人が設立した。Eコマースの普及に乗じ、2002年2月にIPO(株式の初公開)を果たした。そして直後の同年7月にはオークションサイト大手のeBayに15億ドル(約1500億円)で買収される。創業者5人は、分け合った巨大な資金を基に、ベンチャーキャピタル(VC)を設立したり、新会社を設立したりした。
その後もPayPal出身者は、自身でVCを設立するか、他のVCに転職する例が多い。同じ会社に勤めていた仲間同士であれば、気心も知れており、投資の相談もしやすく、お互いに信用できる(図1)。
表1に、PayPal出身者が設立したVCの投資先を示す。これらは、ほんの数例だ。
彼らの投資先で、誰もが知っている成功例がYouTubeである。PayPalの若きエンジニアだった3人が、趣味が高じて作成したビデオ投稿サイトである。会社設立時の資金は、Sequoia Capitalに依頼した。PayPalでCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)を務めていたロエロフ・ボータ氏が所属するVCである話はトントン拍子で進み、2度にわたって計1150万ドル(12億円弱)の投資を取り付けている。
その後、YouTube はGoogleが16億5000万ドル(1700億円弱)で買収した。創立者の3人は大金を手にし、それぞれが別のビジネスを始めている。当然、投資元のSquoia Capitalも大儲けした。
このPayPalファミリーにおいて、「ドン」と呼ばれるのが、創業者のなかで年長者だったピーター・ティール氏だ。面倒見がよいと評されている。Facebookの創業者マーク・ザッカ―バーグ氏がシリコンバレーにやってきてFacebookを立ち上げた時に、最初に50万ドルを投資したのも彼である。
ティール氏は、自身のVCを運営する傍ら、「ティール基金」というNPO(非営利団体)も運営している。2011年に始めた「ティール・フェローシップ」という若者向けのベンチャー育成プログラムが、その1つ。Webサイトで新しいビジネス・アイデアを募集し、そこから毎年、「20 under 20(20歳以下の20人)」を選んで1人に10万ドル(約1000万円)を授与する(図2)。 ティール・フェローシップに受かり、賞金を元手に起業した若者が多数いる。
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 次へ >
- 現地レポート─新型コロナで一変したシリコンバレーの経済・社会・生活(2020/04/06)
- 2017年のITトレンドを占う5つのキーワード(2017/01/13)
- スタートアップの結末、ベンチャービジネスは必ずしも成功せず(2016/08/08)
- サービスエコノミーはシェアリングからトラストへ、非正規雇用の”ギグエコノミー”が拡大(2016/06/14)
- シリコンバレーはバブルから安定成長へ?! ベンチャー投資は全米の4割強を占めるも伸びは前年比7.5%増(2016/05/06)