シリコンバレーのベンチャー企業の成功物語が、しばしばマスコミで取り沙汰される。しかし、VC(Venture Capital:ベンチャーキャピタル)から巨額の投資を受け潤沢な資金を手にしたからといって、必ずしも大成功するとは限らない。GoogleやFacebook、Uber Technologiesのように世界を変えるような企業の陰では、不成功に終わったスタートアップ企業のほうが、はるかに多いのである
スタートアップ企業が成功するための必要条件は、卓越したビジネスモデル(アイデア)、人材、資金である。このうちの1つでも欠ければ成功は難しい。それに加えて、製品/サービスの開発スピードとタイミング(運)も重要である。
だが何といっても先立つものはお金だ。それを支援してくれるのがVC(ベンチャーキャピタル)である。米国にはVC会社が約790あり、うち約半数の370社がシリコンバレーにある。VCからスタートアップ企業への投資額は2015年に、シリコンバレーでは1333の案件に対し計273億ドル、米国全体では4380件に対して計588億ドルであった(PriceWaterhouseCoopers:PwC調べ)。
だがVCの間では「3K(サンケー)」が不文律になっている。すなわち「K=1000件の中から3社でも大当たりすれば上出来である」という意味だ。その大当たりのスタートアップが古くはAppleであり、近年ではFacebookやTwitter、Airbnb、Uber Technologiesなどである。当然ながら、997社の失敗が存在する。主な失敗例を示したのが表1だ。
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これらの失敗例をみれば、冒頭で挙げた必要条件が欠けていたことが分かる。各条件における失敗の実例を紹介しよう。
失敗条件1=ビジネスモデルの不備
1999年、ボストンにあるNortheastern大学の学生だったShawn Fanning氏(当時19歳)は、P2P(Peer to Peer)方式で音楽ファイルを交換する仕組みを学生寮で開発し友人達に公開した。自分の手持ちのミュージックCDの中の音楽を世界中の誰とでも無料で交換できるその仕組みは、みるみるうちに全米に普及していった。
彼は大学をドロップアウトしてサンフランシスコに移り住み、起業した。Napsterの誕生である。VCから1500万ドルの投資を受けると、ますます勢いづいて世界中の若者に普及していった。そのせいもあってか、2001年のミュージックCD/レコードの売上高は世界市場で7%、米国市場では10%も減少してしまった。
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そうなると米国音楽著作権協会や米国レコーディング協会が黙っていなかった。CDやレコードが売れなくなるからである。Napsterは裁判にかけられ大敗した(図1)。しかし、Napsterが開発したインターネットを使った音楽ストリーミングの試みは後に、合法的な手順を踏んでiTunesストアーをはじめ数々の音楽配信サービスとして普及していく。NapsterはAppleらの露払いとなったのである。
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