CIOコンピタンス CIOコンピタンス記事一覧へ

[シリコンバレー最前線]

スタートアップの結末、ベンチャービジネスは必ずしも成功せず

2016年8月8日(月)山谷 正己(米Just Skill 社長)

シリコンバレーのベンチャー企業の成功物語が、しばしばマスコミで取り沙汰される。しかし、VC(Venture Capital:ベンチャーキャピタル)から巨額の投資を受け潤沢な資金を手にしたからといって、必ずしも大成功するとは限らない。GoogleやFacebook、Uber Technologiesのように世界を変えるような企業の陰では、不成功に終わったスタートアップ企業のほうが、はるかに多いのである

図2:Aereoの2013年1月時点のホームページ図2:Aereoの2013年1月時点のホームページ
拡大画像表示

 同様の経緯をたどったのがAereo(エアロ)だ。同社はアンテナで受信したテレビ放送をインターネットでストリーム配信するサービスを2012年、ニューヨーク市で始めた(関連記事『Tesla Motorsが特許をオープンソースに、特許や著作権のボーダーレス化が進む』)。そのサービスも瞬く間に全米の主要都市へと広がっていった。VCからは9500万ドルの投資を受け、資金は潤沢にあった。

 しかし、テレビ放送局会社が黙っていなかった。裁判に持ち込まれ、同社の資金と労力は衰退していった(図2)。そして遂に2014年、最高裁判所から著作権違法のかどで差し止めになってしまった。

失敗の条件2=顧客管理と人材管理

 米国では家族4人(両親と子供2人)が住む家は通常、3LDKにファミリールームとガレージが付いている。風呂場も両親用と子供たち用の2つある。掃除が大変だし、庭の芝刈りにも苦労するから、誰かが手伝ってくれると助かる。そこに目を付けた家の清掃サービスのHomejoyは6419万ドルという高額投資を手にした。

 しかし、顧客の家に出向き清掃をする契約社員の訓練を怠った。顧客の不満が積もりリピート客を失うようになった。そこで1時間当たり20ドルの清掃料金を大幅に値引きし、新規顧客の獲得に躍起になった。一方で契約社員からは、待遇に不満があるとして集団訴訟に発展した。結果、手持ち資金は瞬く間に消えていき、廃業に至ってしまった。

失敗の条件3=時期尚早

 先んずれば人を制す−−。他人よりも先に斬新なアイデアをビジネスとして実現すれば、市場および顧客を獲得できると考えがちである。しかし、何でも早ければよいというわけではない。アィデアは優れていたが、一般大衆向けには早すぎたり、技術が未熟だったりしたためにて失敗した例は多い。

 Facebookが生まれる前に、「MySpace」というSNS(Social Networking Service)が生まれていた。しかし当時の人々は、電子メールを多用しており、Webブラウザを使って情報交換をするには至っていなかった。時期尚早だったのだ。またMySpaceは技術的にも未熟であり、プライバシー上の問題が多かった。それらを解消した後発のFacebookが世界中のユーザーを獲得したのである。

 Bill Nguyen氏は1999年、仮想PBX(電話交換機)を開発するOneboxを設立し、ベンチャー投資5000万ドルを集めたところ、翌年にはPhone.comに買収された。2000年にはモバイルコンテンツ管理ツールのSeven Networksを創立し、ベンチャー投資9600万ドルを集めた。それに飽き足らず2005年には音楽ストリーミングのLa La Mediaを共同設立するというツワモノである。

図3:Color Labsの2013年1月時点のホームページ図3:Color Labsの2013年1月時点のホームページ
拡大画像表示

 La La MediaはAppleが8000万ドルで買収した。そこでNguyen氏は2010年にColor Labsを創立した(図3)。だが今回は技術的にうまく行かず、再びAppleに売ってしまった。

図4:Quirkyの2012年3月時点のホームページ図4:Quirkyの2012年3月時点のホームページ
拡大画像表示

 2009年設立のQuirkyは、新製品のアイデアをクラウドソーシング(Crowdsourcing)で集め、それを製品化して販売するという大変興味深いビジネスモデルを打ち出した。VCからも大きな期待を浴びて1億7533万ドルもの投資を呼び込んだ(図4)。

 Quirkyいは、Toys R UsやTargetといった大型販売店、さらにはAmazon.comまでもが出来上がった製品の販売に名乗り出た。しかし、アイデア創出のためにSNSを利用し、一般大衆を相手に展開するにはまだ時期尚早だった。これまでのところ、クラウドソーシングで成功しているのは、グラフィックデザインの99designsなどだけにとどまっている。

失敗は成功の母、失敗も重要な経験

 ただし「3K」が不文律のシリコンバレーでは、ビジネスに失敗したからといって電車に飛び込む必要はない。失敗も重要な経験なのである。人は、成功からよりも失敗から学ぶことの方が多い。ビジネス漫画『Dilbert』の作者であるScott Adams氏いわく「Creativity is allowing yourself to make mistakes(創造性とは過ちをおかすことを認めることである)」。経験が豊富なほど人生観も世界観も広がるからだ。

 実際、Napsterの創業者Shawn Fanning氏は、その後、新しいスタートアップSnocapを創業した。そして今では、RuptureのCEOとElectronic Artsのゼネラルマネジャーを兼務して活躍している。Jumioの創業者Daniel Matts氏は、人工知能のスタートアップ42.cxを立ち上げ新しい目標に挑戦している。Homejoyの共同創業者の一人であるAdora Cheung女史は2016年、インキュベーターであるY Combinatorのパートナーに就任し、自らの経験を生かしてスタートアップの指導に当たっている。

筆者プロフィール

山谷 正己(やまや まさき)
米国Just Skill, Inc.社長/名桜大学客員教授/IT Leaders米国特派員

バックナンバー
シリコンバレー最前線一覧へ
関連キーワード

ベンチャー / VC / Y Combinator / Tesla / Uber / Meta / Airbnb / Twitter / R&D

関連記事

トピックス

[Sponsored]

スタートアップの結末、ベンチャービジネスは必ずしも成功せず [ 2/2 ] シリコンバレーのベンチャー企業の成功物語が、しばしばマスコミで取り沙汰される。しかし、VC(Venture Capital:ベンチャーキャピタル)から巨額の投資を受け潤沢な資金を手にしたからといって、必ずしも大成功するとは限らない。GoogleやFacebook、Uber Technologiesのように世界を変えるような企業の陰では、不成功に終わったスタートアップ企業のほうが、はるかに多いのである

PAGE TOP