[シリコンバレー最前線]

Tesla Motorsが特許をオープンソースに、特許や著作権のボーダーレス化が進む

2014年7月9日(水)山谷 正己(米Just Skill 社長)

米電気自動車メーカーの雄、Tesla Motorsが2014年6月、同社の全特許をオープンソース化すると発表。一方で、ストリーミングサービスのAereoには著作権侵害の断が下された。特許や著作権の扱いもボーダーレス化が進み、既存価値が揺らぎ始めている。

 テスラモーターズ(Tesla Motors)は2003年にシリコンバレーに設立された電気自動車の新興メーカーだ。数々のベンチャーキャピタル(VC)からの巨額の投資と米国エネルギー省から4億6500万ドルの融資を受けている。同社は、矢継ぎ早に特許を申請・取得しており、2013年は203件の特許を取得した。現在も新たに280件の特許を申請中である。

 そのTesla Motorsが2014年6月12日、同社が所有するすべての特許をオープンソースにすると発表した。同社のCEO(Chief Executive Officer)であるイーロン・マスク氏は、同社のブログで次のように述べている。

 「特許は、その係争のために法律関係者を儲けさせるだけで、技術の進歩を妨げるものである。世界の電気自動車の製造台数は、全自動車のそれの1%に過ぎない。大手メーカーでも、電気自動車の製造は小規模である。まだ電気自動車を製造していないメーカーも多い。ガソリン車による地球上の二酸化炭素の排出量を削減するために、もっと真剣に電気自動車の標準化と普及を促進しなければならない(意訳)」

電気自動車の普及に向けて充電スタンドの標準化狙う

 同社が特許のオープンソース化で狙うのは、自社開発した充電スタンドの仕様を業界標準にすることで、電気自動車の急速な普及を可能にすることだ。Teslaのセダン車である「モデルS」の床下には、7000個の小型リチウム電池(パナソニック製)が敷き詰められており、その充電には220ボルト電源で約1時間かかる。そこで同社は電圧を440ボルトに高め20分間で充電できるスーパーチャージャーを開発した。

 しかし、1回の充電で走行できる距離は、最高モデルの場合は最大500キロメートルである。そこで、主要な高速道路の近くへのスーパーチャ-ジャーの設置を2012年9月に開始。2014年1月には、スーパーチャ-ジャーだけを使ってアメリカ横断ができるようになった。このスーパーチャ-ジャーの利用料は無料である。スーパーチャ-ジャーは現在、北米に100カ所、欧州に24カ所、中国に3カ所、それぞれ設置されている(図1)。

図1:Teslaのスーパーチャージャーの現在の設置場所と2015年の予定図1:Teslaのスーパーチャージャーの現在の設置場所と2015年の予定
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 Tesla Motors は2010年にIPO(株式公開)を果たしており、2012年のモデルS発表以降、高騰を続けてきた。そして特許のオープンソース化の発表から数日間で、株価は13%上昇した。ただし、Tesla車には部品メーカーの技術も生かされている。パナソニック製の小型リチウム電池がその一例で、共同開発者であるパナソニックの特許も使っている。従って、オープンソース化するといっても、Teslaの意思だけでは公開できないケースもある。

アンテナをDCで一元管理しテレビ放送をストリーミング配信

 Teslaの発表から10日強がたった6月25日、ニューヨーク市に本社を置く地上波テレビ放送のストリーミングサービス会社Aereo(エアロ)に対し、著作権侵害の判定が下された。その判決を受けてAereoは、サービスをいったん停止しているが、ホームページ上では「Standing Together for Innovation、 Progress and Technology」と利用者に訴えている。

 2011年設立のAereoは、VC数社から計9700万ドルの投資を受けている。視聴者それぞれに割り当たコイン大の小型アンテナを、Aereoがデータセンターで集中管理。各アンテナが受信した地上波テレビ放送(ABC、CBS、NBCなど)の28チャネルのテレビ番組を、インターネットを介して配信する(図2)。視聴者は、スマートフォンやタブレットなどでテレビ放送を楽しめる。利用料は、1日1ドル、月間8ドルあるいは12ドル、年間80ドルの各プランがある。

図2:Aereoのサービス概要と、コイン大の小型アンテナ図2:Aereoのサービス概要と、コイン大の小型アンテナ
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 Aereoのデータセンターにはデジタルビデオ録画器(DVR)が設置されており、視聴者は好みの番組を録画できる。利用プランに応じてDVRのストレージ容量が異なる。2012年2月にニューヨーク市で始まったサービスはその後、ボストン、ダラス、デトロイトなどの主要12都市に拡大。約50万人が利用するまでになった。

 このAereoのサービスを知った大手テレビ放送会社(ABCとCBS、NBC、Fox)が2012年、同社を相手取り「テレビ放送の著作権を侵害している」として提訴した。これに対しAereoは「視聴者が自分の家に立てるテレビアンテナの代わりに、当社が小型アンテナを視聴者に貸与し、そこで受信したテレビ放送をインターネット経由で受信者に送っているに過ぎない」と主張した。すなわち、「複製を制作したりするわけではないので、著作権の侵害にはあたらない」というわけである。

 当初、ニューヨーク州南部地区地方裁判所は、Aereoの主張を認めて提訴を却下。放送会社は第二審裁判所に上訴したが、やはりAereoの主張が認められた。そして2013年10月、放送会社は遂に最高裁判所に上訴した。この間、CNNなどの大手メディアは、Aereoに関する報道をピタリと止めてしまった。多分、放送会社から圧力がかかったのであろう。

 そして先頃、米国最高裁判所の9人の裁判員は、「(Aereoが著作権を)侵害している6票、侵害していない3票」の判定で放送会社の主張を認め、第二審裁判所に差し戻したのである。Aereoが次に、どのような手で放送会社と司法当局を納得させるのかに注目したい。あるいはAereoを超える新しいサービスが生まれるかを期待する。

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