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[シリコンバレー最前線]

現地レポート─新型コロナで一変したシリコンバレーの経済・社会・生活

一方で痛切に感じる「日本の危機感の低さ、対応の遅れ」

2020年4月6日(月)山谷 正己(米Just Skill 社長)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大が止まらない。報道のとおり、米国は今、感染被害が最も深刻な地域の1つとなっている。2020年4月3日(米国現地時間)時点で米国内の感染者数/死亡者数は30万人、8500人を超え、ドナルド・トランプ米大統領は「今後2週間が最も厳しい。死者はもっと増えるだろう」との見方を示した。米国Just Skill代表/IT Leaders米国特派員の山谷正己氏が外出を禁じられたカリフォルニア州シリコンバレー現地から米国の経済・社会・生活のいまを緊急レポートする。

 中国の湖北省武漢市で原因不明の肺炎患者が確認されたのが2019年12月8日。その1カ月後の2020年1月7日、中国政府が新型コロナウイルス感染症(以降、COVID-19)であることを発表。日本では1月16日に、米国では21日に初の感染者が報告された。その後COVID-19の猛威は、周知のとおりである。

 冒頭で触れたとおり、米国では感染数・死亡数とも指数関数的な増加が続いており、終息の気配がまったく見えない(図1)。まずは、米国における主な国家レベルの施策を確認してみる。

図1: 米国における感染と死者の推移(出典:Coronavirus Update (Live) https://www.worldometers.info/coronavirus/)
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2020年3月、米国連邦政府/州政府が猛チャージで法案成立

 図2は、米国と日本での主な動きをタイムラインに並べたものだ。この図にあるように、中国・アジアや欧州に比べて感染拡大が遅かった米国の場合、2月まで大きな動きはなかった。3月に入って一転、米国連邦政府が矢継ぎ早に3つの財政法案を成立させている(表1)。

図2:新型コロナウイルス対策の2020年3月の日米タイムライン
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2020年3月6日 緊急補正予算 83億米ドル(約9000億円)を拠出。その目的は、ワクチンなどの研究・開発費用、連邦・州・自治体の公共衛生機関への財政支援。ビジネス支援に関しては、10億ドル(約1100億円)をCOVID-19によって資金的損害を受けた中小企業などへの低金利融資、 外国の医療機関への支援に
同年3月18日 家族第一・コロナウイルス対応法 Families First Coronavirus Response(FFCR)法。ウイルス検査の無料化、 COVID-19の影響で出勤できない従業員への給与、有給休暇の保証、休業した従業員に支払った給与の所得税の控除など
同年3月27日 コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法 Coronavirus Aid, Relief and Economic Security(CARES)法。2兆2000億ドル(約230兆円)を拠出。各世帯への現金給付、失業保険の拡充、民間企業の支援など

表1:米国政府が2020年3月に成立させた新型コロナウイルス対策の財政法案

 とりわけ3つ目の「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES)」法が目を引く。その名称のとおり、経済・市場への直接的な支援対策で、政権と与野党が一緒になって協議した結果、2兆2000億米ドル(約230兆円)の財政支出を、3月25日に上院で満場一致、27日に下院で可決された。この金額は2008年のリーマンショックの際に拠出された8000億ドル(約90兆円)を大幅に超える、米国史上最大の民間企業救済措置である。実に米国の国内総生産(GDP)の10%に相当する。

 トランプ政権は、アウトブレイクからオーバーシュートへと事態が進んだカリフォルニア州とニューヨーク州の2つの大都市部には、戦時下さながらの意思決定を下している。CARES法が成立した同じ日には、カリフォルニア州サンディエゴ軍港に配備されていた海軍の病院船をロサンゼルス港に配置。30日には、バージニア州ノーフォーク軍港に配備されていた海軍の病院船をニューヨーク港に配置している。それぞれの病院船は手術室12部屋、病床1000台、酸素生成器2台など各種の検査器を備えている。乗組員は約1000人でそのうち3分の2は医療関係のスタッフである。

 これらの病院船の目的はCOVID-19患者の治療ではなく、市内の病院にCOVID-19以外の病気で入院している患者を受け入れて、市内の病院の病床をあけて、そこにCOVID-19の患者を入れるためである。

カリフォルニア、ニューヨークはじめ各州で外出禁止令

 カリフォルニア州では3月19日、ニューヨーク州では3月22日から、外出禁止令が発令された。その後、他州も相次ぎ外出禁止令を出すことになるが、このカリフォルニアとニューヨークの発令の「1週間の差」が現在の両州の感染状況の差だとよく指摘されている。

 外出禁止令は、ロックダウン(都市封鎖)に次ぐ、罰則付きの強制力を持った発令だ。不可欠な場合を除き、州内のすべての事務所、店舗を閉鎖して、従業員に自宅待機を命じられている。これに違反した場合には、250ドルから500ドルの罰金が科せられる。 シリコンバレー在住の筆者は、カリフォルニア州の外出禁止令を受けて外出の制限を受けている。280カ所の州立公園のうち、36カ所の駐車場は閉鎖されて車は入場禁止。散歩などの目的で徒歩であれば入ることができる。

企業も顧客もテレワークは慣れたもの

 シリコンバレーの主要企業では、騒動の初期から在宅勤務を自主的に実施してきた。平時でもテレワークを奨励している企業が多いので、業務面では特に問題はなく、言うまでもなく給料も通常どおりに支給されている。

 もちろん、サポートやトレーニングなどのために客先へ出向く必要があるが、今回はそうした出張もすべて禁止になった。とはいえ、顧客の担当者もテレワークなので、オンラインで商談や会議が特に支障なく進んでいるようだ。そのため、平日の通勤時間帯にいつも大渋滞の高速道路が今はスカスカで、住宅街はひっそりと静まり返っている(写真1)。

写真1:いつもは大渋滞の高速道路がスカスカだ。住宅街も静まり返っている

 テレワークと言えば、テレビのニュース番組でも、Web会議システムが活用されている。都心のテレビ局から離れたところに住むニュースキャスターたちが在宅で、Web会議システムを通じて報道やニュース解説を届けている。

観光業と飲食業に甚大な影響

 今回のパンデミックで最も大きな影響を受けているのが、観光業と飲食業であることはいずこも同じである。

 航空便の予約はキャンセルが相次ぎ、主要航空会社の利用率は20%~30%まで落ち込んでいる。筆者がよく利用するシリコンバレー中央に位置するサンノゼ空港における3月の利用客は46%減であった。大量の減便がなされるなか、運航便も隣接した座席に乗客を配置することはしない。搭乗前の空港ラウンジも閉鎖、機内のソフトドリンクやお酒、スナックのサービスは廃止された。いつもは贅沢な料理がふるまわれるファーストクラスですら、食事のサービスはなし、ボトル入りのお水だけは有料で販売する、といった徹底ぶりである。

 報道でご存じのとおり、米国に展開する日本企業も大打撃を受けている。トヨタ自動車は3月18日、COVID-19の感染拡大を受けて新車の需要減が予想し、米国、カナダ、メキシコの自動車および部品工場での生産を3月23日から4月10日まで停止することを決定した。本田技研工業、日産自動車も同様である。

 ダウ工業株平均も急降下してしまった。年初の2万9000ドル台が、2月中旬から下落し始めて、3月末には2万1000ドル台まで落ち込んでいる(図3)。

図3:ダウ工業株平均の2008年~2020年推移(出典:Microtrends https://www.macrotrends.net/)
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 アップルやシスコシステムズ、テスラモーターズなど、製品を世界中で売るシリコンバレーの有力メーカーも軒並み影響を受けている。一方で、ビデオ会議サービスのZoom Video Communications、コミュニケーション/コラボレーションサービスのSlackなどにとっては追い風が吹いている。ただしZoomは世界中で利用者が急拡大する中で、セキュリティ上の脆弱性か指摘され、CEOが謝罪と対策を説明している。

市民の日常生活は冬に逆戻り

 今、シリコンバレーは春たけなわの季節なのだが、市民の生活は冬に逆戻りした感じだ。 大半の店がシャッターを下ろす中、食材スーパーだけは営業時間を短縮して営業している。ただし、店内に入る人数を制限しており、1人が出てきたら、1人を入れる、といった具合である。

 したがって、店の前には人々の間隔を6フィート(約1.8m)に保った待ち行列ができている。いわゆる感染防止のためのソーシャルディスタンス(social distancing)である。その傍らで店員が、ショッピングカートの把手を殺菌布で消毒している。レジの前の床上には6フィート間隔に太いテープが貼ってあり、買い物客はテープの位置(すなわち6フィート間隔)に立って順番を持つ。レジ販売員と買い物客との間は、透明なプラスチック板で仕切られている。相互の吐く息を遮断するためである。この辺りはかなり徹底されている(写真2)。

写真2:スーパーのレジと買物客との間の遮蔽。見えにくいが、矢印の部分に、レジと買物客の間を遮蔽する透明なプラスチック板が置かれている
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●Next:米国企業・市民の緊急事態への対応意識/能力は高いが、日本は……

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