[“聴き手の心を動かす”プレゼンテーション]

プレゼンテーション21のポイント「なぜから始める」「聴き手が主役」「メインメッセージを頂点に」:第2回

[企画・制作編1]

2014年4月17日(木)永井 一美(オレンジコミュニケーション・サポート)

今回から、プレゼンテーション21のポイントの具体論に入る。まずは「企画・制作編」として、最初の3つのポイントを解説しよう。企画はアナログの世界であり、知的な創造である。

メインメッセージを頂点に

【Point03】「メインメッセージを頂点に」

 一番訴えたいことは何か?─「メインメッセージ」を明確に定義する。これはピラミッドの頂点だ。他は頂点を支えるもの、頂点を光り輝かせるものである。支えが脆弱ならば、メインメッセージは崩れ落ちる。

 アメリカのマーケティング・コンサルタントであるサイモン・シネック氏が、ゴールデンサークルという理論を説いている。3つの同心円があり、内から外に「Why」「How」「What」となる円だ。シネック氏は、多くが「何をする」から始めるが、そうではなく「Why」から始めないといけない。「人はなぜに共感する」と言っている。

図2 ゴールデンサークル

 アップル社が初代iPodを発表した時のキーフレーズは「1000曲をポケットに」。「好きな曲を持ち歩ける」という利用者側の体験を伝えている。これはシネック氏の言う「Why」、利用者の商品に対する価値だ。利用者に作用するものは「Why」である。通常は「このiPodは何メガバイトの容量があり…」と話し始めてしまう。利用者にとって何メガバイトという数字は直接作用するものではなく、「Why」の実現のためのものだ。

【参考】 サイモン・シネック氏の講演映像 出典:TED

 「Point01」において「WIIFY」としても解説した。人が興味があるのは自分自身であることを忘れてはいけない。聴き手に作用するもの、聴き手が共感するものは「Why」だ。

 別の言い方をするならば、「メインメッセージ」は語り手が「言いたいこと」ではなく、聴き手が「聴きたいこと」である。「情報システム」の場合、「システムの機能」ではなく「機能によって何が起こるか」だ。

ピラミッド・ストラクチャ

 そして、メインメッセージを支えるピラミッドはロジカルでなければいけない。アリストテレスのロゴスだ。「論理」をピラミッド型に構築する。これは、ピラミッド・ストラクチャと言われる(詳細は、数多く発刊されている書籍を参照されたい)。

 先ほどのiPodならば(引用ではない。あくまで例えとして)、「好きな曲を持ち歩けてどこででも聞ける」がメッセージとして、

なぜならば(メッセージを実現するために)…

  1. 容量は5GB(1000曲収納可能)
  2. 超軽量ポケットサイズ(102mm×61.8mm×19.9mm、重量185g)
  3. 連続10時間再生可能(リチウムポリマーバッテリー)

ということになるだろう。アップル社においては、3番目に操作性の素晴らしさを挙げるかもしれない。

 通常の命題においては、「なぜならば」の下に、さらに「なぜならば…」と、ピラミッド階層として裾野を広げていく。ピラミッド・ストラクチャは、プレゼンテーションの時間が少ないのなら、時間に合わせて「論理」を下から削っていけばよい。

 なお、「論理」は「事実やデータ」によって作られなければいけない。ただし、全てでなくともいい。「私は…思います」という大本営発表だけでは信憑性がない。政府、官公庁、シンクタンクのデータや有識者の発言など、誰もが信用するデータを利用する。そこから組み立てる論理を入れることが必要だ。

 そのためにやるべき事は、まずあらゆる情報を集めること。それを全て聴き手に伝えるためではない。「プレゼンテーション」は、「分かりやすく聴き手に伝える」もの。情報を「漏れなくダブりなく」という「レポート」や「報告書」とは異なる。「情報を選択」することはプレゼンターの特権であると同時に、「しなければいけない」ことだ。

 しかし、その特権は人を騙すためではない。「聴き手のため」であることが大前提である。今の時代、情報は誰にでも簡単に手に入る。意図的に、語り手にとって都合の悪い情報を隠すならば、それは「不信感」として語り手に返ってくる。何よりも大切な「信頼」を失ってしまうのだ。

 第2回では、「企画・制作編」として【Point01~03】を解説した。次回は【Point04】以降について、いくつかを説明していく。

【参考文献】

  • 注1:「弁論術」(アリストテレス著、岩波文庫)
  • 注2:「パワー・プレゼンテーション」(ジェリー・ワイズマン著、ダイヤモンド社)

永井 一美 氏

オレンジコミュニケーション・サポート
代表
永井一美氏

 

日本システムウエア株式会社入社以来、一貫してITに従事。入社当時、日の丸コンピュータとして電電公社、富士通、日本電気、日立製作所の共同開発である「DIPSプロジェクト」に携わる。その後、システムインテグレーション部隊のマネージャーなどを歴任。「ソフトウェアの可能性」を追求すべく、“2000年問題”収束後の2000年6月にアクシスソフトウェア(アクシスソフトへの社名変更後、現在は合併によりオープンストリーム)に転職、製品事業の立ち上げに尽力し、2006年に代表取締役社長に就任。MIJS(Made In Japan Software Consortium)理事、日本IT特許組合の理事長なども務める。2011年9月、アクシスソフト代表を退任。現在は、オレンジコミュニケーション・サポートとしてプレゼンテーション、ヴォイス・トレーニング、タイピング研修を事業として活動している。「ビジネス経験の中で、プレゼンテーションは核だった」とは本人の弁。
オレンジコミュニケーション・サポート:http://www.orangecom-support.com

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